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想定された襲撃

 三人は……いや、三体の人外は枯れた森の中を歩いていた。それは吸血鬼、それは機械、それは鴉。正確には、歩いているのは二人だ。カラスは影の中でジッと隠れている。


「しかし、意外にも徒党を組めるものなのですね。あまり統制は取れていない印象だったのですが」


「……実は、吸血鬼は臆病者が多いわ。身内の恥を晒すようで言いたくないのだけれど。日和見主義で、群れるのが好きなのよ」


 メイアは土の地面を強く踏みしめる。


「でも、そんなのは真の吸血鬼じゃないわ。本当の吸血鬼はもっと高貴で、気高くて……お母様のような吸血鬼こそ、真の吸血鬼だから」


「アカシアさん、でしたね。吸血鬼の中でも名が知れているようですが」


 ステラの言葉に、メイアはふっと微笑んだ。


「そうね。お母様は強かったもの」


 それだけ答え、メイアは前を見て歩調を速めた。ステラはそれ以上を訊くことは無く、歩調を揃えて異界の中を進んだ。



『――――近いぞ』



 カラスの声が二人の頭の中に響く。そう、彼女たちがここを訪れた目的は単なる異界の探索では無い。


「あら、本当。囲まれてるわね」


「分かっています。()()()()は成功ですね」


 それは、メイアを付け狙う吸血鬼達を一網打尽にすることだ。



「――――クカカッ、愚か者め! してやったとでも言うつもりか?」



 姿を現していく無数の吸血鬼。その数は十を超え、二十を超え、三十に届くかというところだった。


「この数は流石に予想していまいよ」


「それに、雑兵の集まりでは無いぞ。我らは一人一人が中位の吸血鬼を超える力を持つ」


「アカシアとバラカの子があのまま終わるとは思うておらんかったが……掟を破るというのならば容赦は出来ぬ」


 徒党を組んで現れた吸血鬼達を、メイアは鼻で笑う。


「品性が無いわ」


 その言葉に、吸血鬼達は怒りを露わにする。全方位から殺気を浴びても、メイアは笑みを浮かべたままだ。


「貴様……ッ! 我等を見下すかッ、所詮貴様は血に恵まれただけの獣よッ!」


「咎人の子が、調子に乗るなよ……!」


「小娘がッ、喰ろうてやるぞ! 喰ろうてやるッ!」


 言葉を吐き散らしながらも、まだ前に出ることは無い吸血鬼達。その中から、一人の若い吸血鬼が怒りのままに飛び出した。


「お前ェええええッ!! バラカのせいで、オレの家族は死んだんだッ! 絶対に、殺してやるッ!」


 振り下ろされた血の剣を、メイアは血を格子状に纏った手で受け止めた。


「ごめんなさいね。私、お父様のことは良く知らないの」


「ッ! 殺してや――――」


 男の体を炎の細剣が切り裂いた。男は驚愕と怒りが混ぜ込まれたような表情で倒れ、炎の中で消えた。


「一応言っとくけど、私のやってることは吸血鬼が暮らしやすくなる為のことでもあるのよ? 何の問題があるのかしら?」


 メイアの言葉。続くは静寂。それを破るのは……


「ッ、行くぞッ! 予定通りにッ、全員で食らわせろッ!」


「ぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」


「殺せッ、殺せッ、殺せぇええええええええええええッ!!」


 四方八方。全方位。死角無く襲い掛かるのは赤い血だ。


「プランはAです」


「ふふ」


 メイアが笑う。その瞬間にステラだけがぬるりと影の中に落ち、メイアはその場に残った。


「殺せッ、刺せッ!」


「撃てええええええッ!!」


 メイアの体は血の剣に、槍に、刃に襲われ、ぐちゃぐちゃに切り刻まれ、砕かれていく。体は次第に原型を失い、肉塊を通り越し、血溜まりへと変わっていく。


「……勝った、か?」


「ハハッ、当たり前だ! これだけの攻撃を受ければ奴らの血を引く者と言えど、ただでは済まぬぞッ!」


「ここからでもまだ再生する可能性がある。それに、最初に居た女がぐぼぇぁッ!?」


 その血溜まりが赤く光ると、一瞬にしてその場にいた吸血鬼達が肉塊……いや、血溜まりへと変わった。



「――――ふふ、あははっ!」



 そして、そこに蘇る。一つの血溜まりが渦を巻きながら人の形を取り、少女が現れる。彼女の右の手の甲には、赤い光で逆向きの五芒星が輝いていた。


「何を、した……アカシアの娘」


「私はただ、共有しただけよ。貴方達に付けられた傷を、そっくりそのままね」


 発せられた言葉の恐ろしさに、生き残った数体の吸血鬼は息を呑む。


「……これが、真祖と始祖の血か」


「ッ、やはりもっと前に殺しておくべきだった!」


 共有。それはベレトの能力だ。範囲指定のみで対象を指定出来ず、そもそも一度傷を受ける必要があるという、普通ならばかなり使いづらい能力だが……吸血鬼であるメイアにとっては、そして仲間を影に隠すことが出来るカラスとならば、非常に強力な権能となる。


「しかし、アレで死なぬならば……魔術で殺すか?」


「それしか無いだろう。血の魔術を使うぞ」


 メイアを囲む吸血鬼は五体。生き残った彼らは全員が吸血鬼の中でも高位と呼ばれる上澄みだ。展開される血の魔法陣も、決して放置は出来ない。


「『血盟の契り』」

「『血盟の契り』」

「『血盟の契り』」


 三人が同じ言葉を唱え、同時に残る二人がメイアへと迫った。

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