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吸血鬼

 夜も更ける頃、換金を終えて家に帰りついた俺達に届いたのは一つの報告だった。


『吸血鬼による襲撃を受けました』


 淡々と報告したステラの声色は冷たかった。


「メイアは無事か?」


『私もステラも無事でございます。ご安心くださいませ』


 メイアからの返事も帰って来た。使い魔としての繋がりが消えていない以上、死んでいないのは分かっていたが、事後報告だった故に少し驚いた。


「救援要請も無かったが、弱かったのか?」


『そうですね……』


 ステラはぽつぽつと語り始めた。






 ♦




 ステラとメイア、二人で取材を受けた帰り道。月光の照らす公園を歩いていた。


「少し、寄り道になりましたが……人気も無くて良いですね」


「そうね。月も綺麗で素敵だわ」


 誰も居ない公園を二人は歩く。植物園のように無数の草花が彩るその場所には、誰一人として他の人間は居なかった。


「……でも、早く行きましょう。何だか、嫌な予感がするわ」


「そうですか? 私には、直感のような機能が搭載されていないので分かりませんが……メイアが言うなら、信じましょう」


 二人は公園を抜けようと歩調を速める。しかし、その瞬間に広い公園を赤い結界が覆っていることに気付いた。


「……どうやら、嫌な予感とやらは当たっていたようですね」


「でも、手遅れね」


 メイアは溜息を吐き、この結界の内側を探る。すると、直ぐにその気配を見つけた。


「見つけたわ」


 メイアが視線を向けると、何もない場所から三人の男女が現れた。


「あらぁ、バレちゃったぁ?」


「バレようがバレまいが関係は無い。どちらにしろ殺すだけだ」


「隣の奴はどうすんだ? 殺そうぜ?」


 真っ赤なドレスを纏った女。深くフードを被った黒い服の男。茶色い襤褸切れを纏い首輪を付けた男。三人からは明らかに敵意と殺意が発せられていた。


「見られた以上は殺すに決まっている」


「ふふ、それが吸血鬼の掟だものね?」


「ギャハッ、良いなぁ! 殺そうぜ! 殺そう!」


 それらが完全に敵であると理解した二人は、同時に彼らがメイアを追う吸血鬼の刺客であることにも気付いた。


「ふふ、あはは! アカシアの娘ねぇ! 獣の血! 穢れた獣! 私の手で殺せるなんて最高だわぁ!」


「御免なさいね。私、貴方のようなパッとしない人覚えて無いわ」


 微笑と共に放たれたメイアの言葉に、派手なドレスを着た女は表情を怒りで染め上げる。


「小娘が……一生泥でも啜っていれば良かったものを、調子に乗り過ぎたわね」


「そうだ。醜く獣の血に縋りついていれば、ただ足蹴にするだけで許してやっていたというのに……欲をかいたな。人に擦り寄って、媚びるとは……気持ちが悪い」


「ギャハッ、良く分からねえが、もう殺して良いんだよな!?」


 メイアの表情が僅かに曇った瞬間、銀の奔流が黒い服の男を貫いた。


「戦闘開始です。メイア」


「ッ、分かったわ」


 胴体の半分以上を失った男だが、眼の光は失われていない。


「やって、くれたな……」


「ふふ、良いわ。嬲り殺してあげる」


「ギャハハハハハハハッ!!」


 ゆっくりと再生し、起き上がろうとする男。その横を女と襤褸切れの男が駆け抜けた。


「舐めないで」


 メイアがステラの前に出る。その体から、ジワリと闇が溢れた。


「『夜の衣(ウティノクティス)』」


 夜を思わせる漆黒。それは体にぴったりと纏わりついて染み込んでいく。滲み出す闇の衣はメイアを美しく、そして神秘的に着飾った。


「ッ、何よそれ……何でアナタ如きがそんな繊細な魔術を――――ッ!?」


 驚愕に目を見開く女。その腹部をメイアの拳が貫いた。


「脆いのね。吹き飛ばすつもりだったのだけれど」


「ッ、殺してやるッ!!」


 口から血を吐きながら女は叫ぶ。しかし、メイアの左手に現れるそれを見て焦りと恐怖を滲ませる。


「『紅蓮武装(スカーレットウェポン)潔炎剣(ノビリス)』」


「何よ、それ……ッ!」


 振りかざされる炎の細剣に女は体を霧に変えて逃れるが、その一部は炎に触れて消えてしまう。


「ッ、ハァ、ハァ……熱いッ、あづい゛ぃぃぃッ!」


 霧から元の姿に戻った女は、燃えていた。深い斬撃の痕から噴き上がる炎に女は悶え、苦しんでいる。メイアは女へと向かいつつ、ステラの方を横目に見た。


「ガァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


「膂力と速度。身体性能は目を見張るものがありますね」


 ステラと相対する襤褸切れの男。その全身は灰色の体毛が覆い、頭は狼のように変化している。それは正に、狼男とでも呼ぶべき異形だった。


「ですが、知能は低いと言わざるを得ません。攻撃は単調、そして……」


「ガァアアアッ!!」


 ステラに飛び掛かる狼男。しかし、足元で光を放つ魔法陣に囚われ、その場から動けなくなる。


「単純な罠にも気付かない」


 ステラは右手を開き、狼男に向けた。銀色の光が強まり、そこから銀の奔流が……


「クソ、下等種めが」


 黒いコートの男が放った蝙蝠に覆われ、狼男は蝙蝠ごとその場から消えた。何もない場所を奔流が通り過ぎ、ステラは眉を顰める。


「転移能力……厄介ですね」


「黙れ。お前の方がよっぽど厄介だ」


 男は苛立ったように言い、指先をステラに向けた。


「『黒血尖(ブラッドポイント)』」


 一直線に黒い血の線が放たれ、ステラに迫る。


「『合金装甲(オリカルクム)』」


 それが直撃する直前で変化したステラの皮膚。黒い血は、銀色の肌に傷一つ付けることは出来なかった。

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