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変異種

 そこに居たのは、四本の腕を持ち、八本の足を持つ蜘蛛のような異形の骸骨。黒く焦げたような色の骸骨は、四本の手に魔力で作られた剣を持っている。


「クソッ、聞いてないぞ……! ここまでの相手とはッ!」


「このレベルの変異種ッ、私達じゃ勝てないよッ!」


「ッ、救援要請を出す暇がないねッ!」


 相対するのは三人の女。彼女達は同じパーティの仲間だ。大剣を使う赤髪の女、弓を使う緑髪の女、魔術を使う青髪の女と、見た目も良くインパクトのある彼女達は最近では話題にもなっている新進気鋭のハンターだった。

 積み重ねた実績により依頼を受け、発見報告のあった変異種の調査に訪れていた彼女達は、想定以上の強さを持つ変異種に圧倒されていた。


「どうにか逃げ切るぞッ、私が攻撃を防ぐッ!」


「カタ……」


 赤髪の大剣を持った女が変異種の前に立ちはだかる。しかし、変異種は四本の剣を器用に動かして大剣を弾き、鎧ごと赤髪の女を切り裂いた。


「ぐッ!?」


「西野ッ!? 下がってッ!」


 傷を受けながらも後ろに跳び退く赤髪の女。その背後から風を纏う矢が飛び、追撃しようとしていた変異種を立ち止まらせた。


「僕が魔術を使う! それまで、動きを止めて欲しいッ!」


「分かった……!」


 赤髪の女は懐から取り出した小瓶の中身を飲み干し、変異種と向き合った。


「カタ……」


 斬りかかる変異種。同時に迫る四本の剣。


「うぉおおおおおおおおおおおッッ!!!」


 溢れる闘気を大剣に宿し、四本の剣を迎撃するように大剣を振り上げる赤髪。


「カタ……」


「なぁッ!?」


 しかし、振り上げた大剣は出鼻を挫くように一瞬で弾かれ、そのまま変異種は赤髪の懐まで潜り込む。


「『尖風の矢』」


 放たれた矢は猛速で変異種に迫るが、視線を向けることすら無く一本の腕が動き、魔力の剣で矢を切り裂いた。


「ぐぅッ!?」


 残りの三本の剣はそのまま赤髪の女を切り裂き、深い傷を付ける。


「ぐぬぉぉッ!」


「カタ……ッ!?」


 しかし、赤髪の女は大剣を手放し、その身に闘気を滾らせて変異種に掴みかかり、押し倒そうとする。


「カタ」


「がはッ!?」


 しかし、蜘蛛のような八本の脚を持つ変異種を押し倒すことは出来ず、魔力の剣によって切り裂かれた。


「『根縛の矢』」


 赤髪の女を切り裂いた直後、変異種に矢が迫るも、魔力の剣によって切り裂かれ……


「カタ……ッ!」


 矢が剣に触れた瞬間、そこから茶色い根のようなものが広がり、一瞬にして変異種の体を縛り付けた。


「『退魔の光陣(ブライトサークル)』」


 そして変異種の足元に光の魔法陣が展開され、変異種の体が焼けるように煙を放ち、焦げたような匂いが溢れる。


「西野ッ、起きて! 私が背負っていくから!」


「肩を、貸すだけで良い……大剣は捨てていく」


 既に致命傷と言える程傷付いている赤髪の女。何とか起き上がり、緑髪の弓使いの肩を借りてその場を離れようとする。


「『瘴気解放(ミアズマモード)』」


 赤髪の背後、黒い瘴気が溢れた。


「ッ、これは……まだ本気じゃなかったのかッ!?」


 根の拘束を破り、光の陣すら瘴気で浸蝕した変異種。その性能はさっきよりも格段に強化されている。


「逃げないと……ッ!」


「何でッ、こんな奴がここに居るんだッ!?」


 逃げることは出来ない。戦うことも出来ない。これは、詰みだ。赤髪は二級、青髪と緑髪は三級。このレベルのパーティですら、この変異種には勝てない。万に一つも勝機はない。


「私が……殿(しんがり)を務める」


「ッ、何言ってるの西野ッ!?」


 大剣すら手放している赤髪の女だが、その選択は間違っていない。この状況、誰かが犠牲にならなければ全滅は免れない。いや、犠牲になったところで絶対に助かるかすら分からないレベルだ。


「『魔瘴剣(ミアズマソード)』」


 魔力の剣に瘴気が混ざり、黒い魔力の剣となる。斬られれば、それは傷に瘴気を染み込ませるだろう。


「速く行け。時間が無い」


「僕も残る。こいつは、剣の無い西野だけじゃ抑えきれない」


 準備を済ませた変異種がこちらを向く。赤髪と青髪が並んだ。


「ッ、誰か……」


 弓を持った女が、震えながら声を発する。


「誰か助けてッ!!」


 自分達では絶対に立ち向かえない相手。目の前で死へと向かう仲間達。耐えきれなくなった女は、ただ悲痛に叫んだ。



「――――カァ」



 だが、絶望に満ちた叫びは……功を奏した。


「オレですら楽勝とは言えねぇな、こいつは」


 何処かから、影の中から声が響く。次の瞬間、大量の鴉が影から溢れ出し、変異種へと向かっていく。


「カタ……」


 変異種は斬ろうとしていた女たちから視線を移し、迫る鴉の群れに向かって四本の剣を振るい始めた。


「だがまぁ、丁度良いかもな」


 影の中から、ぬるりと男が現れる。耳の長い黒髪の男。その顔は影が仮面のように覆い、唯一見える眼は鳥のように鋭く、黄金色に染まっていた。


「この状態で戦う練習くらいにはなりそうだ」


そして、自身の体の調子を確かめるように手を開いて閉じてを繰り返している。


「だ、誰ですか……?」


「お前らにとっちゃ誰でも良いだろ。今からお前らを助けてくれる、誰かさんだ」


 ゆっくりと歩く男……カラスは、全ての影の鴉を処理し終えた変異種と相対した。

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