人気者
俺の視線に、瓢は両手を上げて笑う。
「あはは、そう睨まないでよ。答えたくなければ答えなくても良いさ」
「だったら、恐らく俺は何も答えないぞ」
瓢は頷き、口を開いた。
「玉藻よりも強く、大嶽丸を殺し、ソロモンを殺し、神力を扱える……そんな人間を、僕は知らない。歳も殆ど見た目通りだしね」
「……何でアンタがソロモンのことを知ってるんだ」
俺の言葉に、瓢はニヤリと笑う。
「へぇ、やっぱり君が殺したんだ」
「おい」
鎌をかけられたか。
「それで、君は何者なのかな? 顕明連で探してみても、君のことは見えなかったんだ。君のような人間が居るなんて、この目で見ていなければ到底信じられないよ。君は本当に何者なんだい?」
「その問いに対する答えは無いな」
突っぱねるように言う俺に、瓢は肩を竦めた。
「そっか。まぁ……しょうがないね。僕は帰るよ」
「……本当に聞いただけか」
もしかしたら、何かしてくるかとも思ったが、流石にそんなことは無かった。
「今回は本当に助かったよ。いつか、君の正体も暴いて見せるさ」
「やめてくれ」
瓢は俺の言葉に笑い、地面を擦り抜けて消えていった。
「カァ、変な奴だな」
「あぁ、全くだ」
俺は溜息を吐き、再び炒飯に手を付けた。
♢
家に帰って来たメイアとステラは、両手に沢山の袋を抱えていた。
「……何を持って帰って来た?」
「人気者なので、色々と渡されてしまいました」
ステラのドヤ顔を無視し、俺は袋を睨む。
「何か仕込まれて無いよな?」
「ご安心を。そういった類の物は全部捨てて来ました」
やっぱり、あったんだな。カメラとかGPSとか。
「食物に毒の類いが混ざっているかは、カラスさんの目で確かめて貰おうと考えております」
「あぁ、それで良いかもな」
真眼があれば、大抵の危険物は避けられるだろう。
「さて……漸く、落ち着けるな」
「これからですよ、マスター。アイドル育成編です」
勘弁してくれ。
「実際、目立ち過ぎてるからな……」
「カァ、恐らくだが始まるのはアイドル編じゃないぜ」
カラスの言葉に、俺は頷く。
「吸血鬼編、かもな」
本来、表舞台に姿を現すことを許されない吸血鬼。メイアはその掟に真っ向から背いた。吸血鬼を名乗り、メディアに自ら露出した。
「そう、ですね……ご迷惑をおかけします、主様」
「いや、それ自体には許可を出してるから良い」
今回の計画の趣旨的に、メイアが吸血鬼達から狙われるのは想定内だ。
「俺が言ってるのは、日常生活に支障を及ぼすレベルの目立ち方なんじゃないかってことだ」
流石に目立ち過ぎている。日陰者から脱却するのは良いが、人気者になるというのはまた話が違う。
「きっと、何とかなりますよ。マスター」
「ステラ、お前には一度制裁を下す必要があるな」
ステラはぴくりと動きを止めた。
「パソコンは一日三時間まで。命令だ」
「なッッ!!?」
目を見開くステラを無視し、俺は考える。
「業務に支障を来たします、マスター!」
「お前はそもそも、勝手に行動しすぎだったからな。必要最低限の仕事だけで良い。これ以上、厄介ごとを抱え込みたくはない」
国のデータベースに接続的なこともしてたからな。勘弁して欲しい。
「それと……外で俺をマスターとか主様とか呼ぶのは無しだ」
「カァ、オレもか?」
カラスの問いに、俺は首を振る。
「いや、お前は別だ。どっからどう見てもただの使い魔だからな。バレても、大した問題にはならない。だが、既に注目を集めているステラとメイアが俺を主とするのは不味い」
「確かに、そうですよね……では、お兄様と」
違う、そうじゃない。
「老日で良い。偽名も考えたが、調べればバレる程度の嘘は吐く意味も無いだろう」
「分かりました。では、人が居る場では老日様と」
「私は勇様と呼ばせて頂きますね」
呼ばせて頂くな。
「様を付ければ同じだろうが。さん付けが一番好ましい」
距離が遠く感じられるからな。
「では、対外的なマスターの立場は如何いたしますか?」
「匿っていた、くらいで良いだろう。同棲しているのはいつかバレるだろうしな」
ステラはふむと頷いた。
「一応、隠そうと思えば隠せるかとも思いますが?」
「無駄に行動を縛られたくはない。買い物や異界の探索も一緒に行けないのは、不自由だ」
不自由なのは、好きじゃない。
「でしたら、主様。早速ご飯でも食べに行きましょう」
「それは無い。一応、ほとぼりが冷めるまでは控えるぞ」
メイアは残念そうに肩を落とし、ステラも制裁を思い出してか死んだ目をした。
「じゃあ、ボス。異界でも行こうぜ」
「そうだな。そろそろ、金が無くなりそうだ」
使い魔達の存在もあり、意外と金を使ってるからな……資金調達と行こう。




