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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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最終形態

 大嶽丸の眼前に現れる天戒羅刹。


「『青龍・五月雨、玄武・亀甲結界』」


 青い無数の水滴が生まれると、鋭く尖って大嶽丸に向かい、緑の多角形が集まって出来た結界が武者を囲む。


「ォオオオオオッ!!」


「『玄武・黒刀強化』」


 神力を貫き、肌に浅い傷を付ける水滴。それを無視して大嶽丸は空中の武者に斬りかかった。武者の持つ黒い刀に濃緑のオーラが纏わりつく。


「『后龍・海護流刃』」


 振り下ろされる神力の剣。それを迎え撃つ黒い刀。それらが触れ合う瞬間、黒い刃から水流が溢れ、刃と刃の間に入り込んだ。


「グォオオッ!?」


 受け流し。神力の剣はあらぬ方向へと滑り、その隙に武者は朱雀の翼をはためかせ、大嶽丸の首筋まで接近した。


「『白虎・白刀強化、匂白・白金斬』」


 振るわれるは白い刀。白いオーラを纏い、黄金の輝きを放っている。その刃は大嶽丸の首筋に吸い込まれ……


「ォ、オ」


 バチン。大嶽丸の首には半分程まで切り込みが入り、武者は大嶽丸の平手によって潰された。


「『神妖術・白星(しらほし)』」


 しかし、その瞬間に玉藻が丹念に作り上げた術が発動する。天が轟き、雲を突き破ってそれが落ちてきた。


「隕石、か……?」


 それは白い炎の星。見上げれば視界を覆い尽くす程に大きなそれは真っ直ぐに大嶽丸へと向かっている。


「グォオ……ッ!?」


「『太裳・恒久再生』」


 逃げ出そうとする大嶽丸。その眼前で巻き戻るように天戒羅刹が復活する。


「ォオオッ!」


「『青龍・東方封鎖』」


 武者を無視して大嶽丸の向かおうとする先に青い水の壁が生まれる。突き破って進もうとする大嶽丸だが、その中では大嶽丸の動きも鈍くなるようで、半分程度の速度でしか動けていない。


「グ、ォオオッ!」


 大嶽丸は移動を諦め、振り返りながら神力の剣を掲げる。回避が駄目なら迎撃だ、とでも言わんばかりに大嶽丸は白炎の星を睨みつけている。


「誰か、あの剣を頼むのじゃッ!」


 術の制御にかかりきりになっている玉藻では、迎え撃とうとする剣を如何こうすることは出来ない。


「これで、最後だ玉藻……ッ!」


「俺も、消滅が近いぞッ!」


 飛び出した霧生と鬼一。それを見た大嶽丸が手を伸ばすが、赤紫の光と共に二人の姿が消える。


「後は任せたぞ、霧生ッ!」


 神力の剣を持つ腕の傍に現れた二人。鬼一の転移で、ここに現れたのだ。



「――――天照ッ!!」



 大嶽丸の腕が、再度斬り落とされた。


「『飛身』」


 迫る白炎の星、鬼一は霧生の体を抱えて転移した。


「グッ、グォオオオオオオオオオオッ!!?」


 回避も迎撃も叶わず、大嶽丸は残った片腕を顔の前に構えた。


「潰れよッ!!」


 玉藻の叫び。大嶽丸は頭から炎に呑み込まれる。溢れる神力も丸ごと圧し潰し、大嶽丸の全身が包みこまれていく。


「ォオオオオオオオオオオオオオ、ォ、ォォ……」


 火達磨になった大嶽丸が、バタリと大地に倒れる。白い炎が地面に広がり、大嶽丸の体はドロドロに溶けて消えていく。


「今だッ、今度こそ封印をッ!」


 叫ぶ天明。天戒羅刹がほぼ液状になった大嶽丸の上に立ち、両手に持った剣を地面に突き刺す。


「『四神・四方封印』」


 東西南北に四色の光が立ち、大嶽丸を囲む。天戒羅刹は白い炎の中でも平気なようで、足元が燃えているのを気にもしていない。


「『信濃の黒姫、かく語りき』」


「『黒雲は満ちて雷鳴響かん』」


 天明と行道も詠唱を始め、大嶽丸を封じようとする。


「ォ、オ」


 緑の神力が、巨大な柱のように噴き上がった。


「ッ、これは……ッ!」


 霧生が燃える息を吐く。事態の収束を見込み、白沢に頼ろうとその場を去ろうとしていたが、ただならぬ様子に振り向いた。


「『ォ、オ……ォオオッ!』」


 柱が消えた後、立っていのは緑の鬼。緑色の肌をしているという訳でも無く、ただ緑の神力でのみ構成された体であるということだ。


「神力の体じゃと……ッ!」


 三本の神器。そこから引き出された神力が大嶽丸の体を再生……いや、再現していた。その体に先程までのような巨大さはなく、形に限っては元の姿と同じだった。


「『俺様ァ……大嶽丸。だァ』」


 呆然と、呟くように言う大嶽丸。その手に握られるのは、一本の刀。三明の剣を一纏めに融合したかのような、美しい緑色の刀だ。


「『どうやら、俺の魂は顕明連と……三明の剣と強く結び付きすぎちまったらしい』」


 大嶽丸は淡々と、この姿となった理由を語る。


「『さっきまでは、頭もスッキリしちゃいなかったがァ……今は、清々しい気分だ』」


 ゆっくりと、大嶽丸は緑の刀をもたげる。


「『どうした、襲ってこないのかァ? もしかして、機を伺ってるって奴かァ?』」


 緑の刀の先が天を向いた。


「奥義、天照ッ!」


「『もう、遅ェよ』」


 危機を察した霧生が奥義の刃を放つが、天から降り落ちた奇妙な緑色の雷が霧生の刀に落ち、斬撃を弾いた。


「『匂陳・金蛇猛襲』」


「『式神風情が、俺様に敵うわきゃねェだろうがァ』」


 天戒羅刹から黄金のオーラが溢れ、猛烈な勢いで大嶽丸に襲い掛かるが……その双刃は躱され、緑の斬撃によってその身を両断された。


「『分かるだろォ。俺様ァ、神になったんだよ。もう、テメェらじゃ敵いっこねェ、無敵の存在にな』」


 天が蠢く。すると、緑の雷が玉藻に向けて落ちた。


「ぐ、ぬぅッ!」


 雷は玉藻の体を覆う白い炎を突き破り、その身にダメ―ジを与えた。致命傷という程では無いが、玉藻は体を駆け巡る電撃に呻き声を上げている。


「『こういうことだ。もう、全員終わりだァ。この島も、この星も……全て、俺のモノにしてやるよ』」


 世界が、揺れる。緑の光が走る。そして、



「――――惜しかったな」



 斬撃が、大嶽丸の首を斬り落とした。

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