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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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大怪獣バトル

 白い炎を纏う黄金色の巨大な狐。伸びる九本の尾には凄まじい力が秘められている。


「ふふ、美しかろう」


「あァ、だが狐は趣味じゃねェな」


 赤い化粧の施された顔は凛々しく、美しい。ほぼ神格と化した玉藻を前に、大嶽丸は真剣な表情で二本の剣を構える。


「だから、心置きなくぶっ殺してやれるなァ」


「出来るものならのぉ」


 大嶽丸の姿が掻き消え、玉藻に斬りかかる。しかし、玉藻の体から溢れ出した白い炎が大嶽丸の斬撃を妨げ、その隙に玉藻は回避する。


「『瑞白火』」


 九つの尾からそれぞれ白い火の球が放たれる。それらは斬撃を空振った大嶽丸に飛んでいくが、顕明連と大通連によって掻き消される。


「『兵を穿て、獣を穿て、魔を穿て、神を穿て』」


「やらせると思うかァ?」


 言葉を紡ぐ玉藻、そこに斬りかかる大嶽丸。


「紅鏡」


「チッ、鬱陶しいなテメェ……」


 そこに割り込み、大嶽丸の刀を弾く霧生。天眼通の能力的には有り得ない事象だが、霧生の扱う技は神の剣だ。三明剣の権能の影響下には無い。


「決めた。先ずはテメェからだ」


「『六韜三略・無身融解』」


「『白火天剣羅』」


 殺意を剥き出しにする大嶽丸。その背後で鬼一の肉体が赤紫色に透き通り、更に白い炎の剣が無数に生まれて大嶽丸に向かっていく。


「どいつもこいつも、しがみついてくるみてェによォ……」


 凄まじい速度で動く鬼一。振るう刃こそ当たらないが、大嶽丸の行動を阻害し続けている。


「ぐッ、邪魔くせェなァ……!」


 そして、白い炎の剣が一本、大嶽丸の肩に突き刺さった。その身を燃やし尽くそうとする炎だが、顕明連が緑の光を放つと直ぐに消え失せた。


「『御厳(みいか)速日(はやひ)。神血熔剣』」


「『御厳(みいか)武槌(たけつち)。神血厳槌』」


 天明と行道が術を完成させ、大嶽丸に放つ。巨大なマグマのような剣が燃えながら迫り、それを避けようとした瞬間に天から巨大な雷が降り、大嶽丸を圧し潰す。


「ぐ、ぅォ……がはッ!?」


 神性を帯びた雷に撃たれるも、直ぐに体勢を立て直そうとする大嶽丸。そこに巨大な剣が直撃し、その剣先で腹を貫きながら地面に擦り付けていく。


「ど、け……ッ!!」


 大嶽丸は暫く引き摺られるようにして体を焼かれた後で、その巨大な剣を大通連で退かした。マグマのようなそれは大嶽丸の体から離れると直ぐにドロリと溶け、地面に広がって消えた。


「『五行・夜叉斬、鬼分ち』」


「当たらねェっつってんだろうがァッ!」


 大嶽丸は天眼通の能力で未来を見る訳でもなく、ただ何となくで鬼一の刃を回避することが出来る。だが、回避行動を取らされるというのは、それはそれで鬱陶しいことだ。


「あァ、テメェの殺し方……分かるぜ、天眼通でなァ」


「ッ!」


 大嶽丸は目の前をちょろちょろと飛び回る鬼一を睨みつけた。



「――――奥義、落日」



 鬼一に向かって顕明連を振り上げる大嶽丸。その頭上から刀が振り下ろされた。紅蓮の炎を纏い、赤々と輝く刃。慌てて回避しようとする大嶽丸だが、その体に白い炎が絡み付く。


「『神妖術・白炎牢縛』」


「ぐッ、動けッ!?」


 霧生の刃が、大嶽丸を頭から切り裂いた。




 真っ二つに分かれた大嶽丸の体は地面に倒れ、大量の血を噴き出している。後処理をしようと術を唱え始める陰陽師達と、白い炎で焼き尽くそうとする玉藻。



「――――ァ」



 声が響いた。大嶽丸の声が。慌てて降り注ぐ術の数々と、神力そのものである白い炎。


「ォ、ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」


 咆哮。無数の術を引きちぎり、白い炎を吹き飛ばし、()()が起き上がる。


「何じゃ、アレは……!」


「……剣が消えている。結界も」


 玉藻が目を見開き、鬼一が呆然と呟いた。それは巨体。鬼というよりも、巨人とでも呼ぶべき恐ろしい巨体。


「蘇ったのは顕明連の力だろうな。だが、この姿になるというのは道理に合わんなぁ」


「……一体化したと見るべきじゃよ。厄介極まりないがのぉ」


 天明の言葉に、行道が答える。そして、それは正解だ。雲の下に届く程の巨体。この現象を引き起こしたのは、三明の剣と大嶽丸の一体化が原因だ。


「儂はそろそろ、白沢にかからねば戦えなくなるのだが……その暇は無いと見るべきか」


「俺もそうだ。このまま戦い続ければ、消えてしまうだろうな」


 口から炎の混じる息を吐く霧生と、半透明の姿の鬼一。どちらも限界は遠くない。


「天明よ、アレを使え」


「分かっているとも。秘伝の奥義なのだが、こうなっては仕方無しだな」


 天明はその場に座り込み、式符を並べて陣を描き始めた。それを守るように行道が立つ。


「秘伝の奥義か。儂らはそれに期待して時間稼ぎと行こう」


「……アレを止められるかは、少々怪しいがな」


 鬼一が不安げに言葉を漏らしたところで、大嶽丸がじろりとこちらを向いた。


「見たところ、アレには理性が薄いのじゃ。意外と何とかなるやも知れぬ」


 魂を見ることが出来る玉藻はそう判断し、空中を跳んで大嶽丸へと近付いていく。


「ォォ……ォオオオオオオッ!!」


 大嶽丸は宙を舞う玉藻を叩き落とそうと腕を振り回す。玉藻はそれをひらりと避けるが、余波のように緑に光る風が吹き、それは玉藻の体に斬撃のような傷を付けた。


「神力も完全に己のものとしておるな……厄介じゃ」


 理性を失った怪物。規格外のそれが、鈴鹿山の足元で暴れ出した。

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