大妖怪
大妖怪、玉藻前。大妖怪、大嶽丸。相対する両者の力は凄まじく、単独で国一つを滅ぼしてしまえる程だ。
「さぁ、来やがれよ狐女」
「ふん、悪童め。吾が懲らしめてやろう」
玉藻の体が宙に浮き上がり、凄まじい妖力が溢れる。
「『九尾解放』」
九本の尾と耳が黄金色の光を放ち、十二単の中から青白い炎が溢れ出す。
「ハッ、準備はそれで十分かァ?」
「『三魂消費』」
瞬間、玉藻から溢れる妖力が何倍にも膨れ上がる。
「ハハハッ! おいおい……面白ェじゃねェかよ」
大嶽丸は豪快に笑うと、その身から妖力と闘気が膨れ上がっていく。
「あァ、久し振りに本気で暴れられそうだぜ」
大嶽丸の角から、黒い稲妻が迸った。
「どうだァ、ヒリつくだろ?」
大嶽丸の体に赤黒いオーラが纏わりつき、全身を黒い稲妻がビリビリと駆け巡る。
「さァ、ぶっ殺してやるよ」
「『扇王刀』」
大嶽丸が迫ると同時に、玉藻の扇子が細く鍔の無い反った刀に変化した。
「オラァッ!!」
「ッ、馬鹿力め」
振り下ろされた大通連を玉藻は何とか扇王刀で受け流し、そのまま後ろに跳び退いた。
「何だァ、逃げる気かァ!?」
「『来たりて鬼門』」
迫る大嶽丸。その標的となった玉藻と入れ替わるように鬼一が現れる。
「『五行・夜叉斬、鬼分ち』
「ぐッ」
九字により強化された体、赤紫色に染まった刃。鬼一は大嶽丸の大通連を躱しながら、擦れ違い様に刀を振るった。鬼に対する特効を持った斬撃は大嶽丸に対しても十分な効果を発揮し、黒い体を切り裂いた。
「ほォ、おもしれェ」
五色の光を放つ斬撃は決して浅くない傷を大嶽丸に付けたが、その傷は一瞬にして再生する。
「『光の環、重なり並ぶ』」
「なに呑気にくっちゃべってんだァ!」
玉藻の詠唱を捉え、大嶽丸はそれを邪魔しようと小通連を向けた。すると、その刃を伝って黒い稲妻が迸り、先端から玉藻に向けて放たれた。
「『宝来天迎之雷』」
「『光差すは天より、回りて焦がす』」
しかし、天から落ちた一筋の光のような雷が黒い稲妻を叩き落した。
「俺の雷を落としやがるだと……? テメェだな、ジジイ!」
大嶽丸は透明化し、気配を消していた賀茂行道を見破り、斬りかかろうとするが、目の前に鬼一が立ちはだかった。
「退けェ」
「『無心空身』」
「『三陽輪』」
振り下ろされた大通連。今度はしっかりと鬼一に狙いが定められており、それは決して避けられるような速度では無かったが、鬼一は避けようともしなかった。
「ッ、大通連が擦り抜けたァ!?」
鬼一の体を擦り抜け、地面に亀裂を入れる大通連。大嶽丸は目の前の無表情な鬼一を睨むが、その背後から太陽のように輝く三つの輪が迫り、大嶽丸はその場を飛び退いた。
「数が居るというのは楽じゃな。お主は確かに強敵じゃろうが、あやつよりは何倍もマシじゃ」
「あァ? 俺より強ェ奴が居るってのかァ!?」
玉藻はふっと笑みを浮かべ、扇王刀を大嶽丸に向けた。
「そう、言うておるじゃろうが」
「チィッ!」
大嶽丸は三方向から迫る光の輪を回避し、背後から振るわれる鬼一の刀を弾いた。
「『未了水晶転変化』」
「あァ、鬱陶しいなァ!」
大嶽丸の足元から水晶が生え、その体を浸蝕しようとするが、水晶は踏み砕かれて大嶽丸は素知らぬ顔で次の術を紡ぐ賀茂を見た。
「もう、そろそろ良いかァ……テメェらを絶望させてやろうと思ってたんだがァ、しょうがねェ」
大嶽丸は大地を踏みしめ、両腕をスッと伸ばして刃先を上に向けた。
「『鬼神化』」
空に巨大な黒雲が生じ、その下で鬼神が生まれた。響く轟雷の中、鬼神は不敵に笑みを浮かべる。
「さァ、戦ってやるよ」
その体は五割増し程大きくなり、全身に赤い線が血管のように走り、闘気の光を放っている。はちきれんばかりの力が、その体の中に押し留められていた。
「『三魂消費』」
それを見た玉藻の体から更に妖力が溢れる。
「『葬想蒼火』」
玉藻の青白い炎が圧縮され、美しさと力を増す。生じるは妖しく輝く蒼の炎。それを玉藻は羽衣のように纏い、宙に浮き上がった。
「ここからが、本番じゃな」
「ハハッ、良いじゃねェか……そうこなくっちゃなァ、俺も暴れ足りねェよ」
不敵に笑う両者。その背景は黒い雷の雨と、飛び交う蒼い狐の群れ。
「『黒雷纏刀』」
「『滅蒼焔砲』」
黒い稲妻を濃く纏う刀。それは迫る蒼い炎の奔流を切り裂いた。
「空なら安全とでも思ってんのかァ?」
「ッ!」
一瞬で空中の玉藻まで飛び上がる大嶽丸。玉藻を守るように蒼い光の輪が間に入るが、大嶽丸は一太刀でそれらを破壊する。しかし、その間に玉藻は転移して逃れた。
「おいおい……俺が力押ししか出来ねェとでも思ったかァ?」
大嶽丸は地面に着地すると、小通連を地面に突き刺した。
「『蹲え下郎。跪き、祈れ』」
小通連から霊力と妖力が迸り、直径三キロ程度の範囲に広がる。
「『天地の楔』」
結界が展開された。ピラミッド状の結界で、頂点からは真下に鎖が伸び、地面に突き刺さった小通連に繋がっている。




