大百足
戦場に現れた大嶽丸。しかし、それよりも大きな存在感を放っていたのはその背後、山の上から顔を見せる巨大な百足だ。
「鬼一、玉藻前と共に大嶽丸を頼む。アレは儂がやろう」
「承った」
鬼一が頷くと、霧生は体勢を低くして走り出した。
「ではな」
霧生は大嶽丸の横を通り抜け、駆け抜けていく。だが、大嶽丸は気にした様子も無く玉藻前を睨みつけている。
「……大百足か」
小さく呟いた霧生。その背後には無数の死体が並んでいく。霧生の通った場所は分かりやすく血の川が出来ていた。
「かなり大きいな」
山を駆け上っていく霧生。その途中で巨大な百足の胴体に突き当たる。山に巻き付く異様な巨体に霧生が顔を上げると、そこには霧生をじぃと見る大百足の頭があった。
「ふむ、始めるか」
「キシャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
耳を劈くような声を上げる大百足に霧生は顔を顰めることもなく、刀の柄に手を当てた。
「天日流、暁光」
振り抜かれた刃が突撃してきた大百足の頭を切り裂く。が、表面を覆う甲殻を破っただけで脳を直接斬れてはいないようだ。
「ほう、硬いな」
呟きながら霧生は突っ込んできた大百足の頭を飛び越え、その強烈な突進を回避した。
「ぉ、ォマエ……ころ、ス」
「何だ、喋れるのか。まぁ、これだけの大妖怪だ……知能が無い訳もない」
大百足は霧生に躱されたのを確認するとそこでぐるりと体の方向を変え、自身の背に乗る霧生を睨んだ。
「キシャアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ッ、これは……!」
大百足の全身。甲殻の隙間から大量の妖力が噴き出し、その体を余すことなく妖力で覆う。その背に立っていた霧生も当然飛び退き、木々の上に避難する。
「こ、ロス……コロ、す……食らって、やる……」
「この妖気、毒だな」
大百足から溢れる妖力は、そのまま毒を持つ武器となっていた。
「闘気で身を守り、近付いたとして……頭を落とせば死ぬか?」
能源不知外道斬。霧生が老日より受け取ったこの刀は、妖力そのものを斬ることが出来る。故に、妖力や妖術で大百足が身を守ろうと、関係なく斬り殺すことが出来るのだ。
「まぁ、何でも良いな。白沢が居るのだ」
霧生は刀を掲げ、その刃に太陽の光を集めた。
「最早、遠慮や躊躇は要るまい」
その刃に紅蓮の輝きが宿っていく。まるで、太陽をそのまま刀身に写し取ったかのような、美しい輝きが。
「これぞ、天日流が神髄」
そして、その刃から赤々とした炎が燃え上がる。同時に、霧生からも神力と闘気の混じったオーラが溢れ出した。
「虫退治には、ちと大袈裟だがな」
「キシャアアアアアアアアアッ!!」
霧生の変化を見ても尚、大百足は霧生に突っ込んだ。
「天日流、奥義……」
霧生は刀を鞘に納めながら、迫る大百足を前に片膝を突いて目を瞑る。
「――――天照」
鞘から刀が抜かれると同時に眩い光が溢れ、その光は山を埋め尽くした。山の下で戦っていた者達も思わず目を細め、山の方を見る。
「むっ」
霧生は小さく声を上げ、目の前のそれを見た。
「思ったより、容易く斬れたな」
頭から胴体の半分程度まで、顎から背までが真っ二つに斬り分けられた大百足。その死体を見て、霧生は踵を返した。
「……む」
そこで霧生は振り返り、大百足の死体から溢れ出した大量の宙を舞う小石を見た。
「片付けてから行くか」
それは良く見れば羽根があり、小さな足が生えている虫のような形状であることが分かる。
「奥義、炎天苛烈」
霧生に向かって飛ぶ石の虫の群れ。夥しい数のそれに、霧生は燃え盛る光の刃を無数に放った。大量の虫を焼き殺しながら進んでいく斬撃の雨。しかし、その合間を潜り抜けてくる虫も少なくない。
「剣神楽」
至近距離まで高速で迫った石の虫達を、霧生は舞うような動きで駆除し始めた。




