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東京特殊技能育成高等学校

 彼らと別れた後、俺は森の魔物の中でもある程度強そうな奴を適当に見繕って狩ることにした。


「取り合えず、姿は消しておくか」


完全なる不可視オールモスト・インヴィンシブル』という魔術を使い、俺は自身の姿を見えないように細工した。音も匂いもせず、見えもしない。魔術とは関係ないが、気配も消し、魔力も隠蔽している。これで誰かに気付かれることは無いだろう。


「気配を探るか」


 俺はその場に胡坐をかき、意識を集中させた。魔力も気も使わないやり方には限界があるが、森の中ならエルフに教えてもらったやり方が活きる。魔力や気を使わないのは、相手にも感知される可能性があるからだ。


「あった」


 土を、木々を、生命の満ちる森の中はそこに生きる者達の生命の波動が伝わってくる。そして、見つけた。


「一番強いのは……やめておくか」


 そこそこくらいが丁度いい。それと、この異界の広さは五千ヘクタールくらいか。そういえば青木が言ってたな。


「良し」


 気配の位置は完全に捉えている。周辺の地形も森なら簡単に把握できる。これで行けるな。


「飛ぶか」


 俺は標的の背後に不可視のまま転移した。




 視界が入れ替わる。この感覚にも、もう慣れたな。目の前には無防備に背を向ける青い肌のオークが居る。ノーブルオークとかいう名前だった筈だ。高貴な、と付くように周りには何体ものオークを侍らせている。


「悪い」


 音も消えているので、これも聞こえないだろうが俺はそれだけ言って首筋に触れ、傷も付けずに命を奪った。


「ブ、ブモォッ!?」


「ブモォオオオッ!?」


 自分たちのリーダー格がいきなり倒れたからか、取り巻きのオークたちが混乱しだす。俺はそのまま気付かれることなく死体を虚空に収納し、次の獲物の下に転移した。




 ♢




 魔物の素材を協会で金に換えた後、そのまま犀川翠果に貰った連絡先にある高校まで来ていた。用件は当然、借金返済だ。因みに、討伐報告所の奴は初めての異界でこれは凄いと驚いていたが、無言で圧力を掛けたらさっさと解放してくれた。


「広いな」


 東京の端、海に面したその高校は馬鹿みたいに広かった。その大きな校門からは沢山の生徒が出て行っている。


「時間的には、下校時間っぽいが……」


 東京特殊技能育成高等学校。クソ長い名前だが、名前から察するに普通の高校ではないのだろう。魔術や異能、そういう類の技術を研究・育成する場所なのだろう。


「犀川……アイツはいつ来るんだ?」


 続々と帰っていく生徒達が、校門の横に立つ俺を不審そうな目で見ていく。というか、不審者を見るような目で見ていく。まぁ、黒づくめの男がスマホも弄らずに校門でボーっと立ってたら怖いかも知れない。もし教師を呼ばれるなら、それもそれで好都合だ。犀川について聞けるだろう。


「まぁ、何にせよ……だ」


 取り合えず、待つか。




 ♢




 日が暮れているというか、もう完全に夜だ。三時間は経っているが、犀川の気配が近付けば分かるので、俺は目を瞑ったまま校門の壁にもたれかかってずっと待っていた。


「……来た」


 俺は目を開き、校門を通ろうとした犀川の前に立った。


「アンタは覚えが無いかも知れないが、俺はアンタに金を借りてる。後で捨てるでも何でも良いが、取り合えずこいつを受け取ってくれ」


 そう言って俺は封筒に入ってすらいない一万円札を二枚、犀川に見せた。自分で言ってて何だが、クソ怪しいな。


「えぇと……?」


「頼む」


 俺はぐいと札を前に出した。


「……受け取っても良いですけど、私のラボで調べてからでも良いですか?」


 彼女は金に手を触れることなく、そう言った。確かに、触れた瞬間に呪われると思われてもおかしくないような押し付け方はしてるが。


「……そうだな」


「じゃ、行きましょう」


 すたすた歩き出す犀川に俺は一瞬躊躇ったが、一先ずは付いていくことにした。


「俺が勝手に入っても大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ」


 校門には明らかに魔術的なセンサーがあったが、俺は何故かそれに感知されることなくそこを通り過ぎた。


「にしても、広いなここは」


「施設が一杯ありますからね。直ぐそこが海なので、幾らでも埋め立てて土地を広げられるんです」


 そんなことして大丈夫なのか? 俺はあんまりそういうのには詳しくないが……まぁ、俺より頭のいい奴が決めてることだろうから、大丈夫なんだろう。


「ほら、あそこに見えるのが私のラボです。正確に言うと私だけのものじゃないですけど」


「……凄いな。その歳で自分のラボがあるなんて、普通じゃない」


 俺がそう言うと、犀川はふふっと笑った。


「私もそう思います。でも、普通じゃないのは貴方もだと思いますけど?」


「……普通の基準なんて人それぞれだ」


 適当な答えを返していると、ラボが近付いて来た。


「近くで見るとそれなりに大きいな」


「でしょう? でも、足りないので二階作っていいですかって聞いたんですけど、断られちゃいました」


 まぁ、普通は断るだろうな。


「それで、調査にはどれくらい時間がかかるんだ?」


「そんなにかからないので安心していいですよ」


 具体的な時間については答える気が無いらしい。まぁ、別に良い。


「さぁ、こっちですよ。どうぞ」


 急かすように言ってラボに入っていく犀川。俺は溜息を吐いてそこに続いた。

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