混じり合うは妖
現れた妖怪達。それを見た巨人は、自衛隊ごと叩き潰そうと思い切り走り込み、そして自らの身を厭わずに地面に倒れ込んだ。
「や、やばいッ!!」
「こいつッ、纏めて潰す気だッ!」
逃れようとする自衛隊達だが、当然間に合う訳もなく巨人の体が迫る。
「あはは、大丈夫だよ」
先頭に居た少年、ぬらりひょんが迫る巨人を恐れもせずに見上げ……
「じゃあね」
「や、やばッ」
倒れて来た巨人は自衛隊や妖怪たちの体を擦り抜け、そして地面すらも擦り抜け、奈落へと落ちて行った。
「……何だと」
「俺達の体を……擦り抜けた?」
自衛隊達が少年を見ると、ニヤリと笑った。
「僕はぬらりひょんの瓢。安心しておくれ、僕たちは……人類の味方さ」
その言葉を境に、狸の群れがどこからともなく飛び出し、青い鬼の巨人が立ち上がった。
♢
自衛隊と妖怪の連合軍が魔物の群れとぶつかり合う頃、陰陽師の集団が鈴鹿山へと向かっていた。
「……これは、どういう状況なんだ。天明」
「見ての通りよ。こうして俺が調伏したという訳だ」
陰陽師の集団に混じって歩くのは、九本の尾をふさふさと揺らして歩く玉藻前。
「調伏などされておらんわ、戯けが」
「おい、説明しろ」
「説明はしただろう。全員に通達は行っている筈だが?」
ふんぞり返って言う天明を、年行った男が睨みつけた。
「アレを説明と言う気か? 長としての権利で強制通達しただけだろう」
「……まぁ、そうとも言うな」
「ッ! 天明、貴様なぁ……ッ!」
怒りを露わにする男の肩に、更に年老いた男が手を乗せる。
「まぁ、落ち着けや。三善の」
「賀茂の翁……貴様もコレと同じ類の人間だろう」
「心外だのぉ、儂はこんなちゃらんぽらんとは違う」
「何だと爺」
醜く言い争う陰陽師たちを見て、黒い和装の夜叉が溜息を吐く。
「やかましいぞ。今の陰陽師はこうも落ちたのか……」
「そもそも、お前は誰だ鬼もどきッ! 九尾の子分の癖して、一丁前に口を出して来るとは――――ッ」
夜叉が刀を抜き、三善と呼ばれた男の首筋に刃を突きつける。
「自己紹介が遅れたな。鬼一だ」
「鬼一ッ、鬼一法眼だと……ッ!? あの、京八流のッ!」
頷く鬼一に、三善は慌てた様子で膝を突く。
「これは、まさかあの陰陽剣術の開祖とは……失礼致しましたッ!」
「やめろ。俺など陰陽寮にすら居らん在野の陰陽師だった。舐められるのは好かんが、畏まられるのも好かん」
少し脅かしてやるつもりだった鬼一だが、想像以上の反応に溜息を吐く。
「鬼一。この場で刀を抜くのは控えた方が良かろう」
「……確かに、浅慮だったな」
霧生の言葉に、鬼一は刀を鞘に納める。
「ねぇねぇ」
「ん、なに?」
陰陽師の集団の後方、一人の少女が別の少女に声をかける。
「もしかして、剣士?」
「うん。あそこにいるお祖父ちゃんと、同じ」
白い短髪に赤い目の少女が問いかけると、黒い短髪の少女が答えた。
「へぇ、その歳で凄いね……怖くないの?」
「歳は、あなたも同じくらいに見えるけど」
「そうだけど、剣士なら敵と直接斬り合うんだよね?」
「うん。でも、私からすれば……陰陽師として戦う方が、怖い。自分を守る力が、足りないから」
確かに近接戦の不得手な陰陽師ならば、自衛力は剣士よりも格段に劣るだろう。
「ふぅん、なるほどね……ところで、名前聞いても良い?」
「私は、八研御日。あなたは?」
白い方の少女はニヤリと笑い、答える。
「蘆屋干炉。蘆屋道満の血を引く天才陰陽師とは僕のことさ」
「……天才陰陽師なの?」
自信満々に言う蘆屋の頭にポンと手が置かれる。
「こらこら、干炉。他の人に迷惑をかけるのは止めておきなさい」
それは、穏やかな……しかし、どこか疲れが滲んだ表情の男だ。
「あ、お父さん。愛娘の友達作りを邪魔するつもり?」
「そんなつもりは無いさ。ただ、自ら天才などと名乗るのは良くないぞ。実力は言葉で示すものではなく、結果で示すものだ。何度も言っただろう?」
「あー、うん。分かった分かった。もう良いからあっち行ってよ」
「……少し自分勝手なところもある子だが、良い子なんだ。良ければ、仲良くしてあげて欲しい」
それだけ伝えると、干炉の親は前の方に戻っていった。
「因みに、御日ちゃん……不安とかあったりする?」
蘆屋の問いに、御日は首を振る。
「全然、無い」
「へぇ、そうなんだ……実は、僕もなんだよね」
平然と答える御日に、ニヤリと頷く蘆屋。
「でも、相手は大嶽丸だよ? 九尾の狐だって、土壇場で裏切る可能性だってあるし」
「玉藻前が裏切っても、大丈夫」
「へぇ、何で?」
「……詳しくは、言えないけど」
命の危険を伴う戦場に向かいながらも、不安を抱いていない二人。その根拠となる人物は、同じだ。
陰陽師の軍団から数キロ離れた場所、一人の男が無表情で歩いていた。
「……遠足か?」
遠くからでも音を聞くことができる老日は、呑気に話している陰陽師たちの様子を見てそういった。
「不安だが……まぁ、アイツらが居れば大丈夫だろう」
玉藻や霧生、鬼一等の信頼出来る仲間が居るのも確かだ。
「祈っておくか。出番が無いことを」
老日は手を合わせることもなく、ただ空を見て祈りを捧げた。




