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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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神、もどき。

 黒い海に沈んだ巨人の足だが、効果を受けている気配は無い。


「本当に、神様みたい」


 そして、それは巨人の体から溢れ出る神力によるものだ。


「でも、おかしいな……浅間神は男神じゃないし、そもそも水の神の筈だよね」


 本来、浅間大神とは女神であるとされている。更に、浅間大神はある女神と同一視される。


木花之佐久夜毘売(このはなさくやびめ)からは完全に切り離されてそうだけど……」


 だが、少女の前に聳え立つ岩の巨人は明らかにその女神が持つはずの美しさを持ち合わせていなかった。


「情報の乖離から生まれた、小規模な神格……かな」


 敵の正体を推察する少女だが、その表情には焦りが浮かんでいる。


「うーん……困ったかも」


 少女を見下ろす燃える岩の神。無骨で長大な腕が持ち上げられる。


「良し、逃げようかな」


「させぬ」


 転移の魔術を発動しようとした少女。しかし、直径数キロはあろうかという溶岩のドームが発生し、転移は失敗する。結界による転移の阻害だ。


「これは……死んじゃう、かもね」


 少女は微笑み、黒い海を操作した。黒く不透明な液体が巨人の体を覆い尽くし、星の光を煌めかせる。


「無駄だ」


 熱風が溢れ、黒い海が弾け飛んだ。黒い海は再び巨人の足元に集まるが、何も有効打は与えられない。


「死せよ、小娘」


「ッ!」


 指先を少女に向ける神。少女は急いで黒い海を呼び戻し、自身を守るように展開する。そこに、神の指先からマグマがビームのように放たれる。


「ほう……我が熱線を防ぐか」


 マグマは黒い海に触れた瞬間に消滅していき、少女を傷付けることは無かった。


「神の力が無くば、攻撃は通らぬようだな」


「……気付かれちゃった」


 少女は言いながら黒い海で湖を覆う溶岩の結界を壊そうと試みるが、成功はしなかった。


「『我こそ火の神、冨士の神』」


 神が手を掲げると、その周辺から無数の赤い光が生まれる。


「『燃やし尽くせ、山の火よ』」


 赤い光からマグマが溢れ、またビームのように放たれる。しかし、今度のマグマは内側から煌々と赤く輝いている。


「ッ、どうしよ……ッ!」


 黒い海は少女を乗せ、高速で移動する。幾度も放たれるマグマのビームにそこまでの速度は無く、十分避けることが出来ている。


「ふん、虫けらが」


「まずッ!?」


 しかし、そんな少女に向けて神は自身の大腕を振り下ろした。迫る大腕は神力を帯びており、当たれば死は免れない。



「――――よぉ、人間」



 少女を鴉の群れが呑み込んだ。大腕は少女の居た場所を通り過ぎ、地面に叩き付けられる。


「元気してるか?」


「え、えぇっと……カラス?」


 影の鴉達の中から吐き出された少女は、足元で喋るカラスを見て首を傾げた。


「おう、カラスだ。喋れるタイプのな」


「え、えぇ……凄い、ね?」


 困惑している様子の少女だが、詳しく尋ねている暇はない。


「ん? あっ、なるほどね……使い魔なんだ!」


「おう、そうだ。ちょいとボスからの命令で慈善事業に勤しんでるんだが……アイツは中々ヤバそうだな?」


 結界の中を飛び回る影の鴉の群れ、それらの隙間から見える溶岩の巨人が少女の方を睨んだ。


「うん、やばいと思う。あれね、神様なんだって」


「……神だと?」


 考え込もうとするカラスだが、巨大なマグマの球が幾つも飛んできているのを見て少女を影の腕で掴み、自身の中に引き摺り込んだ。


「避けること自体は難しくねぇが……確かに、面倒だな」


 カラスは真眼によれば、神の全身から溢れる炎に神力が宿っている。つまり、溶岩の体自体は神力を宿していない。


「だが、付け入る隙はある」


「隙って?」


 神から離れた場所で少女を降ろしたカラス。神は鴉の群れに視界を奪われ、少女たちの居る場所にはまだ気付いていない。


「アイツは神力の炎を纏ってる。アレを超えてダメージを通すのは難しいが……あの炎をどうにか出来れば、行けるな」


「確かに、完全な神じゃないよね……」


 相手は本物の神ではない。神性を帯び、神力を纏い、神格に至ってはいるが、それは完全ではない。


「……体内から攻撃する、とか?」


「あぁ、やりようはある。体内に入り込めれば、どうにか出来るってことだな?」


 少女が頷くと、黒い海が少女の下に押し寄せ、その体の中に入っていく。


「ただ、言っとくが……体内での安全は担保出来ないぞ」


「うん、分かった」


 カラスの体から影の鴉が飛び出し、少女の体に触れると、鴉の中に少女が収納される。


「じゃあ……行くか」


 カラスは飛び上がると、その両翼を大きく広げた。


「『暗き天翼(アンダルム)』」


 闇の翼が大きく広がり、その存在感を強く示した。


「何だ……鳥風情が」


 神が指先をカラスに向ける。マグマの熱線が放たれ、カラスを貫こうとするが、カラスは高速で飛行することで熱線を躱す。


「ッ、小癪な……ッ!」


 飛び回るカラスを捉えようと、神が走り出した。その巨体が湖を蒸発させながらカラスに迫っていく。


「死ねッ!!」


「『闇蝕呑影(ブラックアウト)』」


 カラスの大きな翼が分離され、振り下ろされる拳にぶつかる。しかし、翼は拳に纏われた炎の勢いを少し抑えただけに終わり、消滅した。


「カァ、頑張れよ」


 カラスに意識が集中したその瞬間、巨人の背を小さな闇の針が貫いた。それは巨人の体を傷付けることなく、炎の合間を潜り抜け、そして溶岩の肉体を擦り抜けて体内に入り込んだ。




 巨人の体内、殆ど空洞の無いその体に唯一存在していた空洞は、心臓部だった。


「分かってはいたけど……人間とは全然構造が違うね」


 普通ならば一秒と経たずに蒸発してしまうであろうその場所で、少女はただ蒸し暑げに顔を顰めた。


「……ちょっと、あの時を思い出すね」


 少女は過去を思い出し、その身から黒い海を溢れさせた。




 ひらひらと宙を飛び回るカラスは、影に潜り、分身で攪乱し、視界を奪いとあらゆる手段で生き延びていた。


「ぐ、ぬぉぉッ!?」


 巨人が膝を突く。胸に手を当て、神に相応しくない醜態を晒している。


「ハハッ、上手くいったみてぇだな」


「が、ぐァッ、ぶ、ぼォェ……ッ!」


 巨人の全身から黒い海が溢れ出す。燃え盛っていた神力の炎も勢いを無くし、溢れ出した黒い海に呑み込まれていく。


「カラスちゃん、上手く行ったよ!」


「あぁ、ナイスだぜ」


「ぐ、ぼ……ぇ……」


 地面に倒れた神は黒い海に呑まれ、やがて完全に消え失せた。

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