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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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大噴火

 富士山が噴火した瞬間、用意されていた設備や魔術が起動する。凄まじい勢いで撒き散らされる火山灰や、溢れ出すマグマ、宙を舞う火山弾、その全てが被害を出すより前に消し飛ばされていく。


『噴火への対処は問題ないみたいですね』


 銀色の長髪をたなびかせ、機械の少女が言った。彼女の名はステラだ。機械の体を持つ彼女だが、外見では人間にしか見えない。


『問題は異界の崩壊ね。もう出て来るわよ』


『カァ、オレらは一旦様子見ってことで良いんだよな?』


 金髪に真紅の目を持つ少女はメイア。そして、電信柱の上から富士山を眺めるのがカラスだ。


『その通りです。人間には人間の作戦があるでしょうから、それを待ちましょう』


『了解だ』


 会話をする彼らだが、同じ場所に居る訳では無い。富士山を囲むように三方向に分かれている。



「――――グゥゥォオオオオオオオオオオオッッ!!!」



 山の方から、怪物の咆哮が響いた。


『さて、始まったわね』


 崩壊した異界。人と魔物の戦いが始まった。




 ♢




 そこは戦場。富士の山の麓。


「撃てッ、撃ち続けろッ!!」


「メレーはまだだぞッ! 弾幕を突破されるまでは待機だ!」


 弾丸と魔術。その雨が魔物達を襲い、死体の山を築き上げていく。予め用意されていた防衛設備によって、一切の被害もなく凌ぎ切れている。



「――――ピョオオオオオオオオオオッ!!」



 空から奇怪な叫び声が響いた。人々が見上げると、青空を超巨大な赤い鳥が飛んでいた。全長一キロはあろうかという巨鳥だ。


「あ、アレ……」


「やばいッ、こっちに来てるぞッ!」


「嘘だろッ、さっきまで見えて無かったよなッ!?」


 紅蓮の鳥は羽ばたく度にその翼から炎を撒き散らし、そして真っ直ぐに人々の構える拠点へと迫る。


「ハハッ、俺に任せてよ」


 人々の中から単身、飛び出していったのは青髪の男。空のように透き通った美しい蒼の瞳で巨鳥を睨みつける。


「ッ、蒼か!」


「そうだ、こっちには一級が居る!」


 跳躍する青髪の男。名を佐渡(さど)海梦(かいむ)、一級のハンターだ。


「『蒼拳波』」


「ピョオオオオオオッ!?」


 突き出された拳から青い波動が放たれ、猛進する巨鳥の頭に直撃する。


「ハハハ、図体だけかな!」


「ピョオオオオッ!!」


 空中で停止した巨鳥。その口から炎の塊が吐き出され、物理法則を無視して佐渡に飛来する。


「『蒼拳波』」


 青い波動が炎を掻き消しながら進む。そしてもう一度巨鳥の頭を打ち付ける。


「さぁ、これで終わりだ」


 巨鳥の眼前まで迫り、ニヤリと笑う佐渡。青い魔力を放ちながら拳を振り上げる。


「『蒼極拳』」


「ぴ、ォ」


 青いオーラを纏う拳が巨鳥の眉間に直撃し、そこから巨鳥の内部へと青いオーラが……特異魔力が流れ込む。


「ピョォオオオオオオオオッッ!!?」


 全身から青い光を放ち、全長一キロもある巨鳥の体が弾け飛んだ。


「よし、いっちょ上がり……って、不味い!」


 特大の魔物を処理して安心していた佐渡だったが、地面を見下ろすとそこには混乱が広がっていた。いつの間にか突破されていた防衛線。人々はジリジリと後ろに退避しながらの戦闘を繰り広げている。


「一旦処理しないと――――ッ!」


 焦る佐渡の頬を何かが掠め、血が垂れる。


「我等、溶焔族。我等こそ、大地の怒りの代弁者也」


 地面を見下ろす佐渡。そこに並んでいたのは赤く光る石をアクセントにした、黒い民族的な衣装を纏う人間のような集団だ。しかし、肌の色は人では有り得ないほど赤く、感じられる気配も魔物としか思えない。


「良く分からないけどさ……この状況で敵対してくるなら、殺すしかないッ!」


 佐渡が拳を振るうと、青い波動が大地を駆け抜けた。




 ♢




 人々の用意していた防衛線は突破され、魔物の群れは遂に居住区まで侵入した。避難自体は既に済んでいるものの、これ以上奥に進まれれば致命傷では済まないだろう。


「ッ、クソッ! アイツがやべえッ! 魔術で殺せねえのかッ!」


「無理だ! さっきから通じてないッ!」


 幾度となく退避を繰り返した彼らは、現在都市部の建物を利用して戦っていた。


「『雷矢(ライトニングアロー)』」


「キシシシシ……」


 魔物の群れの中央を悠々と進むリザードマンのような魔物に雷の矢が直撃するも、弾かれる。その絶望的な様子を上空からカメラが捉えていた。


「現状は、かなり絶望的な様子です……難易度としては二級である富士異界ですが、場所によっては二級すらも立ち入ることが許されない、実質的には二級以上の異界です。そこから溢れ出した魔物も……当然、尋常では無いようですね」


 リポーターも暗い表情でマイクを握っている。この報道も当然、命懸けだ。気配を遮断する効果の付与された上での撮影だが、それでも相手によっては気付かれる。そして、気付かれれば殺される可能性も高い。


「一級のハンターは現在、大嶽丸やこの崩壊で現れた特別強力な個体の対応に当たっている様子なので……この場所に救援が訪れるのはかなり先かも知れません」


 ジリ貧。常に戦線を退きながら耐えるような戦いを続けている彼らだが、希望である上位のハンターがここに来る可能性は高くなかった。

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