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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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天明が照らす先

 黒い和装の白髪の男。決して若くは無いが、老いている訳でも無い。男は活力に溢れた様子で玉藻の前まで跳んだ。


「随分と仲間を集めたようだな、玉藻前!」


「……お主は、陰陽師か」


 男は笑い、懐から無数の式符を取り出した。


「如何にも! 俺は陰陽寮が長、土御門家当主……土御門(つちみかど) 天明(てんめい)!」


 式符から無数の式神が飛び出し、天明を守るように立つ。現れた十二体の式神に共通する特徴として、全員が鎧を纏っている。


「『彌到御殺』」


 背後から飛び出した弥胡が札から霊力の光線を放った。


「む、お前からも玉藻の気配を感じるな」


「なッ、弾かれたッ!?」


 迫る青白い光線を、天明は手の甲であっさりと弾いてしまった。


「しかし……妖の気配が溢れていたので来てみたが、まさかの大当たりとはな!」


「ふん、吾と戦う気か……?」


 挑発するように言う玉藻だが、その視線には強い警戒が滲んでいる。


「当然。しかし、安心せよ。俺も仲間を呼ぶ気は無いからな……対策は済ませてあるとは言え、玉藻前とこれだけの妖を相手にすれば、俺以外の者は無事では済むまい。いや、加茂の爺くらいは呼んでも良かったか」


「随分と自信があるんだね……まぁ、安倍晴明の子孫だ。玉藻を倒せるだけの何かはあるってことかな?」


 天明は笑い、頷き……そして、表情が固まった。


「……瓢、か」


 天明は睨みつけるように瓢を見る。


「おや、僕のことを知ってるのかな?」


「ぬらりひょんの瓢。この立場にあってその名を知らぬ訳が無いだろう。今日この日までお前のことは伝わっているぞ、天下不遜の厄介者とな」


 玉藻に対してよりも警戒した様子が強いのは、対策の有無だろうか。


「あはは、大層な呼び名が付いたものだね。まぁ、そんなことよりさ……本当に君一人で勝てると思ってるのかな? 僕たちにさ」


「ハッ」


 天明は笑い、懐から黒い布で覆われた何かを取り出した。そこから感じるのは……神力だ。


「ッ、不味いぞ」


 俺が声を出した瞬間、布が取り払われ、中に隠されていた鏡から凄まじい光が放たれた。



「――――天照の光を食らえッ!!」



 止めようと踏み出した俺に光が触れる。感じるのは温かさと凄まじいエネルギー。どうやら人にとっては有害なものでは無いらしいが、妖怪にとっては……


「……馬鹿な」


 光が消え去った。いや、消えてはいない。ただ、光は俺達に触れることなく……体をすり抜けて行く。


「まぁ、君の気持ちも分かるけど……先ずは話を聞けよ、人間」


 瓢が俺の体を擦り抜けながら前に現れ、天明の持つ小さな鏡を奪い取った。


「僕らはお互い、立派な口が付いてるんだ。拳を振るうのは言葉を交わした後でも良いとは思わないかい?」


「……分かった。何にせよ、鏡を奪われてしまえば勝機は薄いからな」


 玉藻が指を鳴らすと、崩壊した舞台が巻き戻り、天井に空いた穴が修復される。そして、舞台の上に無数の椅子が現れた。


「先に言っておくがの、吾はもう人を襲う気は無いぞ」


「何だと? だが、預言では確かに……」


 あぁ、多分俺のせいだな。俺が関わると、預言や未来視の類いは大体バグる。


「絶対当たる預言なんて古今東西ありはしないさ。九割九分九厘当たるものはあってもね」


 実際、それはそうだな。預言の対策をしてる奴が一人いるだけで預言の結果は正確な者から外れる。実際、玉藻も居場所を探るような占いの対策はしていただろう。


「さて……話をしようか」


 ぽつぽつと、瓢は話を始めた。




 ♢




 話を聞き終えた天明は、笑顔で頷いた。


「なるほど、それは天晴だな! いやぁ、良かった。一時はどうなるかと思ったが、九尾の狐が味方となれば心強い!」


「……僕は良いけど、随分簡単に信じるんだね」


 瓢の言葉に、天明はハハハと笑う。


「まだ人里を襲うつもりであれば、普通はここで俺を殺すだろう。俺は土御門家の当主、陰陽師としての実力も一、二を争う程だ。殺しておいて損は無いだろう!」


「さぁ、君を通じて陰陽師を騙すつもりかもしれないよ? 君をここで殺せば警戒されるけど、嘘の情報を流せば不意打ちも出来るからね」


「だとして、俺はどうする? この場ではお前たちを信じる他になかろう! それとも疑って襲い掛かれば良いか?」


 まぁ、この場では一旦信じておく以上のことは出来ないだろう。嘘であれ本当であれ、そう話していたという情報は伝えるべきだ。


「信用できないなら、魔術による契約も出来るが……やっておくか?」


「無用。お前は人間のようだが、立場としては妖の側だろう。中立の者以外が提案した契約は信じられんからな。特に、俺は魔術について詳しくない」


 意外と警戒心が強いな。あの雑な登場をした奴とは思えない。


「まぁ、何にせよ……富士の噴火、大嶽丸。その災厄を前に戦力を減らされる訳にはいかない。そもそもお前たちが敵となれば詰みに近いという訳だ」


「そういえば、お主たちも契約の術は使えるじゃろう。結んでやっても構わんぞ?」


 ニヤリと言う玉藻に天明は笑いながら首を振る。


「狐と契約を結ぶ陰陽師は居らん」


「くふふ、何じゃ。今も変わっておらんのか」


 狐は陰陽師の中では悪魔のようなものか。


「ふぅ、結果としては悪くないね。ここで陰陽師に話を通せたのは良い」


 確かに、現場で敵対する可能性を考えればここで話が出来たのは僥倖だったかも知れない。


「じゃあ……後は本当に、大嶽丸と富士山に備えるだけだね」


 瓢は満足そうに笑みを浮かべ、そう言った。

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