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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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神力

 空中で美しい黄金色の尾を広げた玉藻。


「『瑞白火』」


 九つの尾からそれぞれ白い火の球が放たれ、俺に向かって飛ぶ。


「……さっきよりも、強いな」


 体から溢れる神力だけで雑に呑み込もうとしたが、無理だった。


「少し、厳しいな」


 俺は白い火球を剣で切り裂き、溜息を吐いた。



「――――戦闘術式、肆式」



 瞬間、身体中に激痛や不快感が走り、精神を乱す衝動が幾つも溢れると共に、俺の体から莫大な魔力が溢れた。


「……嫌な気分だ」


 この身を埋め尽くす苦痛と不快。俺は小さく顔を歪め、剣を玉藻に向けた。


「『走れよ走れ。ただ、届くまで』」


「『兵を穿て、獣を穿て、魔を穿て、神を穿て』」


 お互いに詠唱を紡ぐ。玉藻の周囲を初めに、舞台の天井を埋め尽くすように白い炎の剣が生み出されていく。


「『無限加速アンリミテッドブースト』」


「『白火天剣羅』」


 玉藻の周囲から放たれた白い炎の剣。俺は凄まじい勢いで地を駆け、それらを躱す。


「吾には近付かせぬッ!」


「無駄だ」


 玉藻の全身から白い炎が溢れる。ただ触れれば焼き尽くされるのは当然だが、神力を濃く纏った状態では流石に耐えきれる。


「ッ!」


「逃がしたか」


 転移で逃れた玉藻。だが、無駄だ。今の俺は魔術によって常に加速し続けている。俺の肉体が耐えきれなくなるか、解除するまでは無限に加速し続ける。


「三陽輪ッ!」


「悪いが、もう当たらない」


 白い炎の輪が三方向から迫る。が、今の俺には当たらない。


「くッ!」


 玉藻に迫るが、その瞬間に転移。また距離を詰め、また転移。


「いつか、来るぞ」


 玉藻に向けて剣を振り上げる。その刃が触れるギリギリで玉藻の体が掻き消える。


「転移の発動よりも速く、俺がアンタを斬る時が」


「ッ!」


 例え転移の発動にラグが無く、意識と同時であったとしても……玉藻の反射よりも速く俺が剣を振るえば良いだけだ。


「『神妖術・白炎牢縛』」


「『時の残響(フェイズドライブ)』」


 堪らず仕掛けて来た玉藻。白い炎が俺の体を覆う寸前、俺の位置が()()()まで戻った。


「じゃあな」


「ッ」


 玉藻の背後に現れた俺は、玉藻が反応するよりも速く剣を振るった。


「……疲れたな」


 真っ二つに切り裂かれた断面から透明な神力が侵食し、玉藻の肉体は一秒と経たぬ内に消滅した。


「あぁ、忘れるところだったな」


 残った魂を神力で覆って捕まえ、舞台に駆け寄ってきた白沢に差し出す。放っておくと魂から復活しかねないからな。


「……まさか、玉藻が負けるとは思いませんでした」


 白沢は消耗した魂を受け取り、それに自身の力を送り込んだ。


「『帯回灵魂』」


 舞台の上、玉藻が蘇る。消耗した魂は回復し、そこから青白い炎が溢れて人の形を成していく。


「……そう、か」


 玉藻はしみじみと呟き、俺を見た。


「負けたか、吾は」


「あぁ」


 少しの沈黙。そして、玉藻が息を吐く。


「老日勇。其方に従ってやろう」


「……俺か」


 瓢に従ってもらうって話だった筈なんだが。




 ♢




 舞台の上、並べられた椅子は円卓を囲んでいる。


「玉藻は、どうしても僕に従うのは嫌なんだね……」


「お主の提案自体には乗ってやると言っておろう。吾はお主に従うのが嫌なだけじゃ」


 玉藻としては飽くまで俺の言葉に従ったという体にしたいらしい。


「何故、吾が自分よりも弱い者に従わなければならんのじゃ。そもそも、お主は戦ってすら居らんじゃろう」


「あはは、それはしょうがないでしょ。僕が出る前に全部終わっちゃったんだからさ。サボったって訳じゃないよ」


 ふん、と玉藻はふんぞり返り瓢から目線を逸らした。


「取り敢えず、実質的には僕の指揮下に入ってくれるってことで良いんだよね?」


「お主のではないと言っておろう」


 瓢は溜息を吐き、疲れたような表情で天井を見上げた。


「老日君……」


「これ以上俺を働かせる気か?」


 瓢は固まり、そして項垂れる。


「でもさ、どうせアレだよ。君の使い魔は協力してくれるんだよ? ほら、保護者として見守ってあげた方が良いんじゃないかな?」


「メイアのことなら心配は要らないな。アイツは、大抵のことじゃ死なない」


 俺の言葉に、瓢は真面目な顔をした。


「今回は、その大抵には収まらないよ。大嶽丸は言った通り玉藻に匹敵する強さがあるし、配下も強いみたいだ。そして、富士山の噴火も不味い。あそこの異界から流れ出して来る魔物達は並みの強さじゃない。それに、今回の騒動に合わせて何か仕掛けてくるような奴らも居ると思う」


 瓢は一拍置いて俺に顔を近付けた。


「死ぬ可能性は、十分にあるよ。吸血鬼の子も、この国で暮らす君の知り合いも」


「……そうかもな」


 まぁ、仕方ない。


「貸しだ」


「あはは、分かったよ。僕は中々借りが多いからね。君に返せるのがいつになるかは分からないけど、良いかな?」


 俺は期待することなく頷いた。


「瓢。何か来るぞ」


「え?」


 瓢が間抜け面を晒した瞬間、この地下空間の天井に大穴が開き、舞台上に土や瓦礫が降り注ぐ。



「――――ハハッ、ここに居たか九尾の狐!」



 そして、その大穴から降りて来たのは黒い和装を身に纏った白髪の男だった。

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