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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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玉藻前

 俺の体から透明な力が溢れる。理そのものとでも言うべき、圧倒的なエネルギー。傲慢なる創世の力。


「眠れ、ナイト」


 ここからは、少し荷が重いだろう。騎士が剣を地面に刺して片膝を突くと、光となって消滅する。


「……其方は」


 玉藻は目を細め、俺を見た。


「其方は、人では無いのか……?」


「いいや、人間だ」


 玉藻はふるふると首を振った。


「有り得ぬ。それは……神の力、じゃろう」


「あぁ、神力だ」


 だが、と俺は続ける。


「アンタが使ってる力も、似たようなもんだろう」


「吾は九尾の狐、畏れられし大妖怪じゃ。だが、人の身で()()()()()()()神力を使うなど――――」


 俺は空中に浮かぶ玉藻の目の前に転移し、刃を突きつけた。


「良いから、さっさと殺し合うぞ」


「……くふふ、そうじゃな。あぁ、そうじゃった」


 玉藻の姿が消える。そしてその姿が無数に現れる。


「この吾は、大妖狐玉藻前は、常に余裕で無ければならぬ。驚く程度ならまだしも、恐怖を抱くなど……くふふ、有り得ぬ」


 俺を囲む無数の玉藻。それらは妖力で作られた分身だ。


「恐れ慄け、老日勇! 吾こそは大妖怪、九尾の狐じゃ!」


 分身が俺に飛び込んで来る。それらは戦闘要員と言うよりも……


「自爆だな」


 分身達が爆ぜた。撒き散らされる蒼い炎は俺の魔術障壁を突破しながら俺に迫り、透明な神力に呑まれて消えた。


「ほう、これでも無傷か!」


「一旦、消すか」


 俺の体から透明な波動が放たれる。舞台の結界に触れぬギリギリまで到達した波動は全ての分身を消し去った。


「刻め、三陽輪!」


 三方向から蒼い炎の輪が迫る。これは流石に当たると不味いが、避けるのはそこまで難しくない。


「『蒼炎走狐』」


 玉藻の周囲から数百匹の蒼い炎の狐が生まれ、空中を駆け出した。


「多いな」


 まともに対処するのは面倒な上に、リスクも伴う。だったら……


「終わらせるか」


「ッ!」


 玉藻の眼前に転移した俺は、そのまま神力を纏った剣を振り下ろす。


「まともに相手をする訳が無かろう!」


「……まぁ、逃げるか」


 俺の剣が触れるよりも早く、玉藻は転移によって姿を消す。直後、狐の群れが俺の背後から迫った。


「面倒だな」


 転移で距離を詰めても転移で逃れられる。そして、相手はあの狐や三陽輪のような遠距離攻撃手段で俺を攻め続ける……ジリ貧だ。


「まぁ、もう良いか」


 俺は眼前まで迫る狐達を次々に切り裂きながら、呟く。


「力技で行こう」


 俺の体から、凄まじい勢いで神力が溢れる。透明な力は狐達を呑み込みながら舞台の上に広がっていく。


「ッ、何じゃ……その、量はッ!」


「あぁ、帰って来てから気付いたんだが……どうやら、前より増えてるらしい」


 神力は玉藻の居場所を奪うように舞台上に満ちていき、そして遂に玉藻の体すらも覆い尽くした。


「う、動けぬ……この、吾が……動けんのじゃッ!」


「あぁ、そうだろうな」


 やってることは単純な力押しだ。玉藻の妖力を圧し潰す程の神力を押し付けているだけ。だが、単純故に対抗することは難しい。


「悪いが」


 俺は玉藻の前に転移し、神力を纏う剣を振るった。


「『一魂消費』」


 瞬間、白い炎が溢れた。


「……どういうことだ?」


 俺は距離を取りつつ、神力を自身の体に引き戻した。



「――――くふふ」



 笑い声が響く。白い炎の勢いが落ち着き、その奥に隠されていた姿が露わになる。


「九尾の狐、か」


 そこに居たのは、巨大な狐。九つの尾を持つ黄金色の狐だ。白い炎を纏い、赤い化粧の施された美しく凛々しい顔で俺を見ている。


「くふふ、騙されておったな……吾の命は九つと、一つ」


 九つと、一つ?


「吾は尾が持つ九つの命に加え……生まれた時より授かった、吾自身の命を持っておる」


「……あぁ」


 なるほどな、九つの命は飽くまでも追加ライフって訳だ。実際は、そこに元からある命を加えた十の命を持っていたんだな。


「まぁ、つまり……その命が、アンタのラストライフってことで良いよな?」


「……らすとらいふ?」


 クソ。こいつ、英語通じないのか。


「次死ねば死ぬんだろって話だ」


「くふふ、確かにそれはそうじゃ。しかし、如何に其方が神の力を操れると言えど……それは、吾も同じこと」


 玉藻の体から溢れる白い炎。それは、妖力というより……最早、ただの神力だった。


「封印されて長き時は過ぎたがの……寧ろ、我が力は増しておる」


 確かに、知名度という点では昔よりも上かも知れない。更に力が増していても、なんら不思議では無いだろう。


「どうじゃ、吾の姿は? 美しかろう。恐ろしかろう……今なら、逃げても良いぞ? なに、後ろには大将が控えておる。其方は既に、十分な働きを果たしたじゃろうて」


 今の玉藻は、ほぼ神格と言っても良いだろう。普通ならばその圧倒的な格の差を感じ取っただけで意識を失っても可笑しくない。


「俺が、怖いのか?」


「……何じゃと?」


 だが、俺はその程度で気を失うことも、膝を突くことも、恐怖を感じるようなことも、無い。


「アンタが心の奥底で考えてるのは……逃げても良いじゃなくて、逃げて欲しいだ」


「ッ!」


 俺には分かる。相手の感情が。こいつは……俺を、恐れている。少しだけ、怯えている。


「其方は……お前は、彼奴(あやつ)と同じじゃ!」


 玉藻は声を荒げた。


「安倍晴明……彼奴も、其方と同じ目をしておった! 自分の負けを疑ってもおらん、余裕に満ちた目を……強者の目をのッ!」


「安倍晴明か」


 こいつの時代、生きてたんだな。まぁ、何でも良いが。


「それで、どうする。逃げたいなら……逃げても良いが」


「ッ! 舐めるでないぞッ、人間ッ!」


 玉藻が高く跳躍し、空中でその尾を広げる。

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