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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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妖力

 青みがかった銀色の全身鎧。内側から青色の光が溢れる、無数の金属板が組み合わさったようなその姿からはどこか近未来的な雰囲気が感じられる。黒い鋼の三角形を組み合わせて作ったような長剣、その亀裂からは青い光が溢れている。

 そして、その騎士に中身は無い。中の人などいない。ただ、あるのは刻まれた術式とその身に満ちた魔力だけだ。


「ナイト、記憶の接続だ。期間は今から一時間以内」


 ナイトには俺の記憶の全てを共有していない。何故なら、魔導騎士(メモリアルナイト)の情報防護技術はそこまで高いものでは無い。操作権の乗っ取りへの対策はかなり組み込まれているが、それだけだ。その対策というのも、そこまで上等なものではない。

 故に、ナイトの作成時にはこうしてある程度の記憶を共有しておく必要がある。


「『目に映るもの、全てを灰に』」


 玉藻の詠唱が俺の耳に入った。それと同時に、記憶の同期が完了する。


「『蒼霊灰燼火』」


 玉藻を中心に溢れ出す青い炎。一瞬で舞台上の空間を埋め尽くすそれを、俺とナイトは軽く防御した。


「……流石に、この程度では溶けぬか」


 全範囲攻撃。その火力は当然、高いとは言えない。勿論、ただの人間であれば余熱だけで蒸発するような炎ではあるが。


「行け」


 炎を耐えた後、騎士が俺の横を駆け抜けていく。


「『光の環、重なり並ぶ』」


 玉藻の詠唱。騎士が玉藻の下まで辿り着く。


「『光差すは天より、回りて焦がす』」


 玉藻の持つ鍔が無く反りのある細い刀と騎士の持つ黒い剣がぶつかり合い、魔力と妖力が散る。


「『三陽輪』」


「『冥死線(グラミサナト)』」


 玉藻の背後に、太陽のように輝く三つの輪が生まれる。しかし、その瞬間に騎士の剣が玉藻の刀を弾き上げ……生じた隙を目掛けた黒紫色の光線が、玉藻の胸を貫いた。


「ぐ、ッ」


 効果は即死。玉藻はその身に満ちる死に抵抗するも、苦しそうに表情を歪め……


「『一魂消費』」


 その体から凄まじい勢いで青い炎の嵐が吹き荒れ、黄金色の光が輝いた。


「危ないところじゃったのぉ!」


「……なるほどな」


 強化と同時にデバフの打消し的なことも出来るのか。便利だな。


「残りの命はあと三つ、だな」


 三回殺す、それだけ。だが、玉藻は既に三度の強化を済ませている。生身ですら強いというのに、今はその五倍程度まで妖力が膨れ上がっている。


「先ずは鉄屑、貴様から葬ってやろう」


「ゴ、ォォ」


 ナイトから駆動音が鳴る。明確な敵意、殺意。それを向けられて隠密性の担保されたステルス性能を完全に捨て去ったのだ。


「刻め、三陽輪」


 三つの光の輪。三方向から迫るそれを、ナイトは軽快な動きで回避した。


「ゴ、ォ……『ルーンブレード』」


 突然玲瓏な声を放ったナイト。その手に握られた黒い剣の青い光が強まる。


「『性能変化・速攻』」


「ッ!」


 ナイトの体から溢れる青い光も強まり、ナイトは凄まじい勢いで玉藻に迫った。


「ゴ、ォォ」


「ッ、人形風情がッ!」


 至近距離で幾度も振るわれる黒い剣。その射程は見た目通りではなく、攻撃と同時に青い光の斬撃を放つ。つまり、斬撃の直線状に立てば攻撃は避けられない。


「むぅッ、当たらぬ!」


「ゴ、ォォ」


 そして、身体性能で言えば勝っている筈の玉藻が一度もナイトに攻撃を当てられないのには理由がある。それは、技術だ。速度に特化した現在の形態でも、玉藻と速度は同じか少し劣る程度だが、ナイトに記録された無数の剣士達の技術が、確かに発揮されているのだ。


「『それは月を蝕み、星を落とす者』」


「ええい、三陽輪ッ!」


 玉藻の下に呼び寄せられ、玉藻を中心に回転する三つの輪。ナイトは飛び退き、警戒するように剣を構える。


「『今ここに来たれ、奈落の残響』」


「くッ、面倒じゃな……!」


 玉藻が俺の詠唱に気付き、青白い炎の霊体となって急接近する。


「『滅導腕(ジルガダラ)』」


 目の前に現れた玉藻。その手に握られた刀が振り下ろされるよりも早く、俺の足元から伸びた()が玉藻を掴んだ。


「ッ、これは何じゃ……ッ!」


 黒い腕。その腕には、紫色に光る文字がびっしりと刻まれ、赤い光が鎖のように絡み付いている。


「滅びだ」


「ッ! 『一魂消費』」


 青白い炎が溢れ、玉藻の体が再構成される。玉藻を掴んでいた腕は外れ、青白い炎に焼かれて消えた。


「あと二つ、だよな?」


 俺の問いに玉藻は答えず、自身の胸に手を当てた。


「『一魂消費』」


 窮地で無いにも関わらず、玉藻は魂をまた一つ消費した。これで、九つの命の内、八つが消費されたことになる。後は、一度殺すだけだ。

 だが、玉藻はまだ終わっていないとばかりに胸に当てていた手を強く握った。


「『葬想蒼火』」


 玉藻の青白い炎が、圧縮される。それは、美しくも妖しく輝く蒼の炎。その炎があっても舞台が溶けず、舞台を覆う結界が壊れていないのは、それらを作ったのが玉藻自身だからだろう。


「どうじゃ、美しいじゃろう」


 蒼の炎は天女の羽衣のように玉藻の体を覆い、守っている。


「まさか、ここまで追い詰められるとは思わんかったがの」


 玉藻の体が、ゆっくりと浮き上がる。その瞬間に背後から急接近したナイトが剣を振り上げ……


「見えておる」


 いつの間にか蒼く染まっていた光の環に弾かれた。いや、燃え盛るそれは最早、炎の輪と言うべきかも知れない。


「『虚落天崩(ヘブンフォール)』」


「ふん、無駄じゃ」


 空中に浮き上がる玉藻は、地面に落ちない。あの蒼い炎が原因だ。魔術を無効化されている。


「最早、吾は完全無欠の存在よ……くふふ、負けはせん」


「なるほど、確かにな」


 妖力は神力に近いと言ったが、どうやらそれは間違いでは無かったらしい。超高密度な妖力は、ほぼ神力だ。あの蒼い炎は、神の炎と言っても良いだろう。


「……仕方ないな」


 俺は、自身の奥底に眠る力を引き出した。

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