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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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夜叉

 黒を基調とした和装に身を包み、腰に刀を差した男。頭からは肌色の角が一本だけ、アンバランスに生えている。


「お前があの玉藻前か。確かに、凄まじい妖力だ」


「お主は……陰陽師か」


 玉藻の言葉に、男は頷く。


「如何にも。だが、剣士でもある……俺は、夜叉の鬼一(きいち)だ」


 鬼一法眼(きいちほうげん)。陰陽道の使い手にして剣の達人、そして死した後も夜叉として現世を生きる根っからの武人。間違いなく、あの舞台の上に立つ資格のある男と言えるだろう。


「ほう、陰陽師にして剣士か……面白いの」


 玉藻も驚くということは、昔から剣を使う陰陽師は珍しかったのだろう。


「さて、準備は良いかの?」


「無論」


 玉藻は頷き、扇子を広げた。


「ならば、始めるのじゃ」


 玉藻の体が浮き上がる。ゆっくりと空中に昇っていく玉藻に、鬼一は地上から刀を振るった。


「『霊法・飛紫電(とびしでん)』」


 刀に紫の電流が迸り、刀が振り抜かれると共にその先端から紫電が解き放たれ、少し遠くの玉藻まで電撃が届いた。


「ほう、痺れるの」


「これで効かんか」


 電撃を浴びた玉藻だが、少し痺れただけで地面に落とされることは無かった。


「『大妖狐結界』」


 玉藻を中心に青白い球状のバリアが展開される。


「ほれ、これでもう半可な攻撃は通らんのじゃ」


「……障壁か」


 鬼一は浮遊する玉藻を睨み、刀を構えた。


「『離天消塵、雷轟響野』」


 天井辺りに黒い雲が生まれ、広がっていく。その雲はあっという間に玉藻の頭上を埋め尽くした。


「『黒雲招雷』」


 黒い雲の中から、雷が玉藻に落ちる。


「ふん、無駄じゃ」


 幾度も落ちる雷。しかし、玉藻の結界を破壊するには至らない。


「『雷の仔らよ、集まりて落ちよ』」


 玉藻の上を覆った黒い雲が急速に集まっていく。


「『集雲黒雷』」


 一か所に圧縮された雲が、黒い雷となって玉藻に落ちた。


「……ふむ」


「ッ、ただの術では仕留めきれそうに無いな」


 黒い雷は玉藻の結界を一撃で破壊するも、その中の玉藻にまでダメージを与えることは出来なかった。


「そろそろ、こちらの番じゃな」


 玉藻の結界が一瞬で復活し、玉藻は扇子を天に向けた。


「『滅雷火落』」


「『転身』」


 青白い雷が迫るが、鬼一はそれを霊力で瞬間的に強化されたギリギリで回避し、地面が抉れて黒く焼け焦げた。


「直接斬る他無し、か」


 鬼一の体から闘気が、霊力が、妖力が、溢れ出す。


「『闘霊妖体』」


 鬼一の角が紫色に透き通り、その目が赤く染まる。


「『狐霊火』」


 玉藻が扇子を天に向けると、その先から青白い炎が噴き出し、無数の狐となって鬼一に迫る。


「『影走り』」


「む、捉えられんの」


 鬼一の体が黒い影となり、狐達の間を擦り抜けながら空を駆け昇っていく。


「『霊妙斬』」


「『蒼炎閃』」


 振り抜かれる刀に、玉藻は扇子を一閃する。紫のオーラを放つ刃と、巨大な蒼い炎の斬撃がぶつかり合う。


「『荼毘死突』」


「ッ!」


 蒼い炎の斬撃を掻き消した鬼一。しかし、弾け飛ぶ炎の中から更に蒼い炎が槍のように飛来し、鬼一の胸を貫こうとする。


「『無心空身』」


 炎が触れるギリギリの瞬間、鬼一から一切の表情が消え、蒼い炎が鬼一の胸を貫いた。


「む、何じゃこれは?」


 確かにそこに居る筈の鬼一。しかし、まるでそこには居ないかのように気配は希薄になり、そして自身の胸を貫く蒼い炎に対しても何の反応も無い。


「……どういう原理じゃ、それは」


 蒼い炎が消える。鬼一の体には、傷一つ付いていなかった。


「ッ、何とかなったか」


 突然目を見開いた鬼一。まるでそれまで眠っていたかのように周囲の様子を確認し、玉藻から距離を離した。


「今の術はなんじゃ? 何故傷付いておらぬ」


「無心空身は……欠陥の術だ」


 言いながら、鬼一は手印を結び始める。


「『臨兵闘者 皆陣列在前』」


「九字か」


 鬼一の体が霊力によって強化される。最も基本的な陰陽道の身体強化術らしいが、その性能は折り紙付きだ。


「『破界捻空』」


「『影走り』」


 鬼一の居る空間がぐにゃりと歪み、空間ごと捻り潰されるが、その頃には既に鬼一は影となってその場を逃れていた。


「『慈恩、中条、京念、直元』」


 距離を取った鬼一が言葉を紡ぐと、鬼一の刃が紫の光沢を放ち、赤い闘気を帯びる。


「『京八流、鞍馬之剣』」


 鬼一の持つ刀、その刃が赤紫色に染まった。


「『天狗駆け』」


「『青炎群葬』」


 鬼一が空中を駆けて行く途中、青い火球の群れが舞台を埋め尽くさんばかりの勢いで迫る。


「『飛身』」


「ぬッ!?」


 火球の群れが触れる寸前、鬼一の体が玉藻の眼前に転移する。


「京八流、夜分かち」


 鬼一の刀が、結界を割りながら玉藻の首筋を切り裂いた。


「危ないのぉ!」


 玉藻の体が青白い炎の霊体となって遠くまで逃れた。


「『目に映るもの、全てを灰に』」


 鬼一から距離を離し、玉藻は詠唱を始める。


「『蒼霊灰燼火』」


「ッ!」


 玉藻を中心に溢れ出す青い炎、それは一瞬で舞台の上に広がっていく。


「『天地断割』」


 視界を埋め尽くす炎に、鬼一が刀を振るう。一直線に振り上げられた刃は赤紫色の斬撃を放ち、迫る炎の波を切り裂いた。

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