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再顕現

 完全に勝った気でいる砂取だが、悪魔が憑依した小戸の息の根はその程度では止まらない。


「……本当に意味が分からない状況です」


 久し振りに口を開いた杖珠院だが、これで終わったと思っているのか安堵の息を吐いている。


「も、う、キレた……ぞ……ぜってぇ、全、員……」


 僅かに弱まっていた炎、それが一気に息を吹き返す。


「ぶっ殺す」


「なッ、嘘だろッ!?」


 小戸から、完全に躊躇が消えた。溢れる炎と熱気は胸を貫いた金属棒を溶かし切り、木々の葉をチリチリと焦がしている。


「死ね、乙浜」


「えぇッ、私ッ!?」


 放たれる炎の槍。何故か心当たりのない乙浜に槍は直進し……そして、目の前に飛び出てきた野島に防がれた。


「下がっていろ。こういうのは大人の仕事だ」


「はいっ、下がってます!」


 気を纏う拳で炎の槍を防いだ野島は、小戸の前に出た。


「ハッ、お前まさか勝てると思ってんのかよ? 悪魔と契約した俺に? 無理に決まってんだろオッサンがッ!!」


 赤く輝く長槍が振り下ろされる。野島は冷静にそれを見切り、回避しながら拳を叩き込んだ。


「ぐッ!?」


「悪いが、気絶するまで殴らせてもらう」


 抵抗しようと身をよじる小戸だが、容赦のない拳が次々にその身に叩きこまれる。纏われた炎の鎧は呆気なく気の拳に貫かれている。


「お、れは……強いんだッ!!」


「ッ!」


 葉に火が点くほどの熱波が放たれる。至近距離でそれを浴びた野島は流石に怯んだ様子で一歩下がった。


「自分も戦います。これでも、現役のハンターですので!」


 代わりに青木が飛び出し、手に持った槍を突き出した。小戸も槍を振り回す。


「舐めんじゃねぇッ!!」


「ぐッ!?」


 かち合う槍。相手の槍を弾いたのは悪魔によって身体能力を大きく強化された小戸だった。槍を弾かれ、体勢を崩した青木の胸に吸い込まれていく赤い槍。


「ッ、塩浦ァ!!」


 しかし、槍の穂先に直撃した矢がその軌道を逸らした。


「ふぅッ、人生で一番緊張したわ。県大会より集中したかも」


 人一人の命がかかった射撃だ。緊張もするだろうな。


「チッ、先ずは……塩浦ッ!」


「そっち見てる場合じゃないでしょう」


 標的を簡単に殺せそうな塩浦にロックオンした小戸に杖を向ける杖珠院。鍵言を呟くと同時に大きな水の球体が放たれた。


「消火できると思ってんのかァッ!?」


「別に」


 迫る球体に、蒸発させてやろうと向き合う小戸だったが、その球体が一瞬で凍り付く。


「ぐッ、てめッ!?」


 直径三メートルはあろうかという氷の球体になったそれを一瞬で溶かすことは出来ず、小戸に球体が直撃し吹き飛ばされる。


「背骨が折れたらすまん」


「ぐぉッ」


 吹き飛ばされる先に立っていた野島の回し蹴りが小戸の背中に直撃し、小戸の体がくの字に曲がる。


「ぐッ、ぉ、ぅぅッ!?」


「すみませんが、落ちるまで殴り続けます」


 地面に倒れた小戸。その頭をガンガン、と何度も槍で殴りつける青木。


「ぐ、ぁ……ぅ……」


 次第に炎の勢いが弱くなり、遂に炎は完全に消え去った。


「もしかして、勝ちました!?」


「いや、まだだ。小戸は寝たが……中身まで寝てくれてるとは限らない」


 拳を構えたままの野島。その前で倒れている小戸の体がピクリと動いた。


「ッ、まだ完全に落ちてないか!?」


 小戸の体から炎が巻き起こり……そして、独りでに赤い長槍が浮き上がった。



「――――見事だ、と言うべきか。無能が、と言うべきか」



 炎は人の姿を形作り……悪魔が再顕現した。


「小戸 啓政。呆れるほどに才の無い男だ。小物で、醜く、弱い。だが、全く価値が無い訳ではない。俺の糧となることが出来るのだ」


「やはり出たか、悪魔……ッ!」


 高まる緊張感。炎の悪魔、アウナスは笑った。


「今喰らっても良いが……くくっ、先に願いは叶えてやるか」


 アウナスは地面に倒れた小戸を容赦なく踏みながら、俺たちの方へと歩み寄る。


「お前たちを殺し、それからこの小僧の魂を喰らう。では、始めるぞ」


 アウナスの姿が一瞬で掻き消え、野島の前に現れる。


「速いッ!?」


「先ずは、一人だ」


 振り上げた槍が、野島の心臓を目掛けて振り抜かれる。



「――――結局、こうなるか」



 振り抜かれた筈の赤い槍。しかし、それは宙を舞っていた。悪魔の腕と共に。


「ッッ!!? 馬鹿なッ、俺の腕がッ!?」


「答えろ、悪魔」


「ぐァッ!?」


 残っていた腕も斬り飛ばす。


「えぇッ!? 凄いですッ! でも、そんなに凄いなら最初から助けてほしかったですね!」


「……全ッ然見えなかったんだけど。何者なの、老日さん」


「何、コイツ……強すぎ」


 外野を無視し、俺は問いかける。


「アンタを召喚したのは誰だ?」


「ッ、契約すれば答えてやる、ぞ?」


 俺は足を斬り飛ばそうとしていた剣を下ろした。


「あぁ、それで良い」


「ッ!? 取り消しは効かんぞッ、契約成立だッ!」


 アウナスから伸びた炎が俺の胸に結び付く。


「じゃあ、答えろ。召喚者は誰だ?」


「くくッ、残念だが知らん。俺も驚いたものだ。召喚されたというのに周りに誰もおらんなど初めてだ」


 やはり、知らないか。会った時の口ぶりからしてそんな気はしていたが、一番嬉しくない答えであるのは確かだ。


「さて、契約だッ! 貴様の生命力を根こそぎ奪い、魂を喰らってやろうッ!!」


「そうか」


 出来るなら、やればいい。


「ッ!? 馬鹿な……契約が、契約がッ!?」


「あぁ、契約は破棄した」


「破棄だとッッ!!?」


 悪魔の契約は魂に結び付くものだ。故に、魂に絡み付いたそれを解けば契約は破棄される。『契約破棄コンタラクトゥス・スクリベレオフ』という魔術だ。当然、破棄できない契約もあるが、書物も魔術も使わず半強制的に交わされる契約にそこまでに効力がある訳が無い。

 まぁ、今回の場合は厳密に言えばそもそも契約は成立してすら居ない。あいつが契約したのは俺の魂ではなく、魂の表層を覆うフェイクだ。


「悪いが、遺言は聞かない」


 聞き飽きたからな。俺は剣を振り上げる。その刃が光を帯びていく。


「くくッ、悪魔は殺しても蘇――――」


 光を帯びた刃は、悪魔を真っ二つに両断し、それから一瞬の間に細切れにした。


「残念だが、お前はもう蘇ることは無い」


 聖なる光を付与した剣で斬られた悪魔に、次は無い。

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