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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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天狗と河童

 地面に叩き付けられる旻。しかし、しっかりと受け身を取っていた旻は落下によるダメージを受けることは無かった。


「ぐッ、ちょいと舐めてやしたなぁ! 伊草の袈裟坊、聞きしに勝る豪傑でさぁッ!」


「どうした、はよう来いッ! オラは退屈が好かん!」


 地上でどっしりと構える袈裟坊に、旻は錫杖を振った。すると、凄まじい風が吹き、袈裟坊を飛ばさんとする。


「そんな風でオラを飛ばせると思うたか」


 袈裟坊は風に向かって行くように地を駆け、一瞬で旻の下まで迫る。


「分かってまさぁ!」


「なぬッ」


 袈裟坊が触れる寸前、旻の体が掻き消える。袈裟坊の背後に転移した旻はその錫杖で袈裟坊の背を突こうとして……


「『流水力道』」


 袈裟坊の体から溢れ出した水流に錫杖は受け流された。


「その力が、お前さんの妖術……ッ!」


「そうだ。オラは気を見て、力の流れを操る。それを妖術として具現化したのがこの力……オラ達河童の誰もが使える力や」


 袈裟坊の言葉に、旻は首を振る。


「今まで色んな河童を見てきやしたがぁ……そんな技は見たこともねぃ」


「九千坊や禰々子に会ったことは無いんか?」


 頷く旻に、袈裟坊は笑う。


「そのくらいの奴なら、この力は使えるやろう。河童の持つ水を操る力、それをちょいと極めただけのことよ。相撲の強い河童なら、皆使える」


「……そういやぁ、河童は相撲が大好きでしたわなぁ」


 確かに、これまでの攻撃も張り手やら投げ飛ばしやら、相撲らしい技が多かったように思える。


「オラも普段は同じ力が使える相手にしか使わんのやが、ここは相撲場じゃあねぇしな」


「わっしも相撲の心得はあらんせんなぁ」


 旻は笑い、そして錫杖をしゃらりと地面に突いた。


「『風天嵐候』」


 旻を中心に嵐が吹き荒れる。ただ暴れるように吹いているだけに見える風だが、旻の意思にその流れは従っている。


「水の流れなど、嵐で吹き飛ばしてやりやしょうや」


 宙に浮き上がり、錫杖を向ける旻に、袈裟坊は構えを取ってニヤリと笑った。


「来い、天狗」


「『嵐よ、穿て』」


 旻を取り巻く嵐から一陣の風が吹き、旻に向かって一直線上に向かった。風の槍とでも呼ぶべき透明なそれを、袈裟坊はこともなげに回避し、旻へと駆けた。


「近付けるかぃ、河童ッ!!」


 吹き荒れる嵐。旻の操るそれは袈裟坊にとって完全な向かい風となり、袈裟坊の足が止まる。


「舐めるな、天狗ッ!!」


 袈裟坊の体から溢れる水流が袈裟坊の全身を覆って巡ると、袈裟坊に吹いていた風は水流に呑まれ、流れを支配する。


「ッ、わっしの風を!?」


「力の流れを操ることこそオラの力の真髄。流れそのものたる風を奪うことなど容易よ」


 流水は袈裟坊の体から広がり、袈裟坊の周りに幾つもの流れを形成して巡り続ける。その流れの一つ一つが風を呑み込み、水流の中に巻き込んで受け流す。


「『颶風之刃』」


「『呑爆流』」


 巨大な風の刃を放つ旻だが、袈裟坊も対抗するように大量の水を生み出して風の刃を呑み込んだ


「『水遊龍』」


 風を呑み込んだ大量の水はそのまま龍へと形を変え、旻に襲い掛かる。


「タネは分かってまさぁッ!」


 正面から迫る水の龍に旻は錫杖を振り下ろし、穿つような暴風に龍は一撃でその身を崩壊させた。流水力道は水の流れで相手の力を奪う技、つまり正面から真っ直ぐに迫るその龍では敵の攻撃を受け流せない。


「『集水潰』」


「ッ!」


 しかし、弾け飛んだ龍の体、つまり大量の水が旻を中心に一斉に集まり、旻を圧し潰さんとする。


「無駄でしょうやッ!」


 旻の体が掻き消え、袈裟坊の遥か頭上に現れる。


「全部凌ぎ切れますかぃ!?」


 空中に浮かぶ旻の周囲に無数の魔法陣が浮かび、無数の式符が飛び、風が渦巻く。


「潰れてしまえ、河童ッ!!」


「『水明結構(すいめいむすびがまえ)』」


 魔術、陰陽道、妖術。迫る無数の攻撃に袈裟坊は腰を深く落とし、片方の手の平を突き出す構えを取った。


「気を見れば……流れが分かる」


 袈裟坊はゆっくりと目を瞑り……そして、迫る全ての攻撃を流水で受け流し、回避していく。強化された筈の舞台がどんどんと抉れ、削れる。


「ッ、まさか本当に全部凌ぎ切れるたぁ……お前さん、化け物かぃ」


 そして、全てを無傷で凌ぎ切った袈裟坊に旻は呆れるような声で言った。


「まさか、終わりじゃねぇよな?」


「……良いでしょうや」


 旻は溜息を吐き、そして赤い天狗の面に手をかけた。


「『吠える天の狗、轟くは雷鳴の如く』」


 その面が炎と化して消え、中から現れたのは白い犬の頭だった。人型の胴体に乗っても違和感の無い大きさの頭、その口が開き、高く鳴いた。


「『星炎天狗』」


 続けて響いた人の声。天狗の姿が炎に包まれ、そして駆けるように天に昇っていく。


「お望み通りの本気でさぁッ!!」


 この地下の天井付近から、袈裟坊に向けて真っ直ぐに落ちるモノ。炎に包まれたそれは天狗だ。但し、その姿は元の形とは全く異なり、一言で言えば白い犬だ。


「さぁ、受け流すよりも早く焼き尽くしてやりましょうやッ!」


「面白いッ、受けて立つッ!!」


 袈裟坊はどんと構えを取り、火球のように迫るそれに手を伸ばし……


「ぬぅうんッ!」


 一瞬で蒸発する水流。それでも袈裟坊は天狗に手を伸ばし、その身を焼かれながら天狗の体を掴んだ。


「一本背負いッ!!」


「ッ!?」


 天狗の体が一回転し、背中から地面に叩き付けられる。落下していた勢い全てが自身の体を駆け巡り、天狗は声も出せずに気絶した。

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