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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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成仏

 地面に倒れたメイアの体がゆっくりと接合され、そして起き上がる。その周囲で砕け散った骨達が白い炎に浄化されて消えていく。


「……勝った、か」


 舞台の上に残されたのは、メイアと一本の白い骨の刀だけだった。


「待てよ、アレ大丈夫なのか?」


「ん、何がかな?」


 瓢が呑気な顔で尋ね返す。


「あの、がしゃどくろ……消滅してないか?」


「……そうかもね」


 瓢は玉藻の後ろに控える白沢に視線を向けた。


「白沢、どう思う?」


 白沢は、首を振った。


「治せませんし、治す必要も無いでしょう。彼らは、死霊に近い妖でした。それが成仏出来たのですから……無理に呼び戻すこともありません」


 それも、そうだな。


「取り敢えず、だ」


 メイアは呼び戻すべきだな。アレ以上は、流石に無理だろう。


「白沢、メイアを治してやってくれ」


「棄権させるということですね?」


 白沢の問いに俺が頷くと、白沢は直ぐに舞台に飛んだ。


「……これで、残すところ四体だな」


 玉藻を抜けば三体、か。


「じゃあ、行ってくるぜ」


「あぁ、頑張れ」


 カラスがパタパタと飛び、舞台に向かって行った。


「しかし、この分だと俺が出る必要も無さそうだな」


「そうとは限らんぞ」


 俺の言葉を霧生が否定する。


「まだ、肝心の玉藻前が残っている。儂はその強さを良くは知らぬが……見たところ、尋常の強さでは無いぞ」


「アンタじゃ勝てないのか?」


 霧生は深く息を吐いた。


「あんなことがあった手前……好き勝手に本気を出す訳にはいかんからな」


「……なるほどな」


 天照の力は封印して戦うつもりか。まぁ、その方が良いかもしれない。


「少し、ほんの少しなら使うかも知れんが……あの時ほどの死闘を繰り広げるつもりは無い」


「そうだな。それが良い」


 老い先少ないその身の未来を少し引き延ばしてやったんだ。折角ならば、長く生きれば良いだろう。その方が、御日も喜ぶ筈だ。


「主様」


 近付いて来た気配に視線を向けると、メイアが立っていた。


「如何でしたか?」


 にこりと微笑みを湛えたメイア。


「あぁ、良かったぞ。メイアらしい戦い方だった」


「ふふ、それは誉め言葉と受け取っても?」


 俺は頷いた。人を褒めるのは得意じゃないが、喜んでそうな顔をしているので良いだろう。


「では……褒美として血を頂いても?」


「あぁ、後でな」


 メイアには定期的に血を飲ませているが、こうして特別に血を飲ませることもある。まぁ、人というか妖怪の多いここで血を吸わせはしないが。


「ところで、このようなことになったのですが……」


 メイアが腕を掲げると、その手の平から白い骨の刀が伸び、メイアの手に握られる。恐らく、がしゃどくろの消滅後、舞台の上に残されていたものだろう。


「使え、という意思を強く感じます」


「まぁ、そんな感じはするが……使いたいなら使えば良いんじゃないか?」


 呪いの刀って雰囲気だが、実際のところ悪い呪いではないように見える。使っても問題は無いだろう。


「何というか、最後に遺された物なので使いたい気持ちはあるのですが……」


 メイアは難しい顔で刀を見る。


「刀は扱えないか?」


「いえ、扱い方は握っただけで伝わって来るんです。ただ……」


 メイアがずぶりと刀を体内に納めた。


「使う理由が、無いんです」


「……そっちか」


 そもそもの性能的な話か。


「それ、見せてくれ」


「はい」


 メイアの腕から現れた骨の刀を受け取り、じっくりと観察する。


「……なるほどな」


 恐らく、この刀を握っている間はあの骸骨の剣術を扱えるんだろう。それプラス、この刀に籠められた霊力を使えると言ったところだろうか。


「分かった。少し弄っておく」


 俺の専門分野では無いが、少しくらいなら出来るだろう。


「ありがとうございます、主様」


 にっこりと微笑んで頭を下げるメイア。俺は刀を虚空に放り込み、舞台に視線を向けた。


「既に役者は揃ってるな」


 片方は当然、カラスだ。


「次の相手は……アイツか」


 目元を髪で隠した子供だ。腕がやけに長く、その口元はにやけている。


「あはは、こんにちは!」


「よぉ、誰だ?」


 無邪気に挨拶する子供に、カラスは気さくに片羽を上げる。


「僕は……うーん、決まった名前は無いんだ」


「あー、そうか。オレはカラスだ」


 俺は瓢の方を向く。


「誰だ、アレは?」


「あの子は……隠し神だね」


 何だそれ、誰なんだ一体。


「簡単に言えば、そうだね……人を攫う妖怪さ」


「何の為に攫うんだ?」


 俺が尋ねると、瓢は首を振った。


「さぁね。僕はあんまり彼のことは知らないから……ただ、聞いた話だと子供を攫ってるらしいね」


「悪い奴なのか?」


 瓢は首を振る。


「さぁ? 知らないとしか言えないよ」


 まぁ、そうか。


「それで、アイツは何が出来るんだ?」


「さぁ、僕も良く知らないんだよね」


 さてはこいつ、全然知らないな。

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