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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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 僅かにくすんだ白い骨。それが一本、舞台の上に転がっている。


「骨だな」


「そりゃ見れば分かんだが……」


 カラスの問いに答えるも、納得のいく答えでは無かったようだ。しかし、骨は骨としか形容できない。


「ただ、一つ言えることはある」


 俺は骨を指差し、言った。


「妖怪が扱う妖力。あの骨から感じられるそれは……今までの敵と比べても段違いに多い」


「それはつまり、強いってことか?」


 カラスの問いに、俺は首を振る。


「知らん。俺に分かるのは妖力が多いってことだけだが……どうなんだ?」


 瓢に視線を向けると、瓢はニヤリと笑った。


「強いよ」


 やっぱり、強いのか。


「妖力の量は、そのまま妖怪の格を表すと言っても良いくらいに重要なものだからね。妖力が多ければ、当然強い」


「……それで言うと、アンタからはほんの少ししか妖力が感じられないんだが」


 瓢から感じられる妖力は極めて少ない。最初に出会った鬼の方が多いくらいだ。


「あはは、単純に僕が弱いからじゃないかな?」


 多分だが、隠蔽しているな。魔力を隠すのと同じように、妖力を隠すことも出来るんだろう。


「それより、ほら。始まりそうだよ?」


「……話を逸らしたな?」


 俺の問いを無視し、視線を向けすらしない瓢に溜息を吐き、俺も舞台に集中することにした。


「ボス、骨が震えてるぜ」


「そうだな」


 カラスの言葉通り、骨が小刻みに震えている。その骨は何も言わないので、メイアも手を出して良いのかどうか分からず困っている。



「――――ォオオオオオオオオン」



 嘶くような声と共に、一本の骨は巨大な骸骨へと姿を変えた。無数の細かな骨の集合体であるそれは、ただの巨大な骸骨というよりも、骨が集まって骸骨の形を為したものと言う方が正しいだろう。


「随分大きいわね。貴方、名前は?」


「……ォオオオン」


 困ったように嘶く巨大骸骨にメイアは苦笑を浮かべて頷く。


「喋れないのね。失礼したわ」


「ォオオン」


 気にするなとでも言うようにその巨大な腕を振るう骸骨。その動作だけで風が起き、舞台の土を巻き上げる。


「こいつは……がしゃどくろって奴か?」


「その通り。本来はこの姿が普通なんだけど……何故か、骨になってたね」


「今も骨ではあると思いますが」


 ステラの指摘に瓢は嫌そうな顔をする。骨になっていたのは、もしかすれば玉藻の計らいかも知れないな。あのままの見た目で動けば目立つことこの上ない。


「……というか、これだけの妖怪が集まって良くバレないな」


 俺が呟くと同時に試合が始まった。


「ォオオオオンッ!!」


 メイアが後ろに飛び退き、巨大な骨の腕が地面に叩き付けられる。


「見た目通りに単調な動きしか出来ないのなら……私としては、楽だけれど」


 動きは速く、一撃も重い。しかし、単調な攻撃だ。見切れる程度の攻撃しか出来ないのであれば、メイアの霧化を突破することは不可能と言ってもいい。


「ォオオオオオンッ!!」


 がしゃどくろの体から無数の骨が飛び出し、メイアを追いかける。百本以上はある骨の大群は、全てに妖力が籠められている。


「ッ、これは中々厄介ね……」


 永遠にメイアを追尾する骨の群れは、霧になったところで意味は無い。その後もメイアを追い続けるだけだ。


「だったら、良いわ」


 メイアは霧となって飛び、骨の群れから距離を取ったところで腕を広げた。


「『夜の衣(ウティノクティス)』」


 メイアの体から闇が溢れ、それが体にぴったりと纏わりついて染み込んでいく。滲み出す闇の衣はメイアの身体能力を強化すると同時に、吸血鬼にとって有利な夜の闇の中を再現する。


「ふふ、全て砕いてあげる」


 迫る骨の群れ。メイアはそれを舞うような動きで避け、砕いていく。


「ォオオオオオンッッ!!!」


 がしゃどくろから骨の嵐が放たれる。骨の速度はさっきよりも倍以上速いが、直線的にメイアに向かっている。恐らく、誘導能力を犠牲にして速度を上げているんだろう。


「ッ、速いけど……無駄よッ!」


 凄まじい速度で迫る骨の嵐を何とか捌こうとするメイア。その内の半分程を回避し、更にその半分は砕き、残りはメイアの体を貫いた。


「ッ、ふふ……この程度、何てことないわ」


 メイアの体に開いた風穴は直ぐに塞がり、服と共に再生する。


「ォオオオオオンッッ!!!」


 がしゃどくろが嘶くと、その腕が元の形を失って鞭のように伸び、しなってメイアを狙う。


「『紅蓮武装(スカーレットウェポン)竜血爪(ドラコレテナ)』」


 メイアの体から滲み出した血が腕を覆い、巨大な爪を形作る。その表面には魔術紋が刻まれ、ただのこけおどしでは無いことを示している。


「正面勝負? 構わないわ!」


「ォオオオオオオンッ!!」


 百メートル近く伸びる骨の鞭を竜血爪(ドラコレテナ)で受け止め、弾くメイア。


「ォオオオオンッ!」


 弾いたその瞬間を狙って振り下ろされる巨大な腕。メイアの体が霧になってすり抜け、がしゃどくろの巨大な頭蓋骨の前で姿を現す。


「ふふ、ごきげんよう」


「ォオオオオ――――」


 巨大な血の爪が振り下ろされる。それはがしゃどくろの頭に直撃し、一撃で頭蓋を砕き破壊した。

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