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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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闘気は赤く

 続けて二人を突破した御日。首を落とされた鬼が蘇生され、白沢と共に舞台を降りた瞬間。


「死ねぇええええええええええぃいいッ!!」


 燃え盛る車輪を両手両足にはめ込んだ男が猛烈な勢いで舞台に飛び込み、そのまま御日に襲い掛かる。


「天日流、暁光」


 宙を舞う車輪の妖怪。御日はそちらに振り向きながら即座に居合の構えを取り、刀を振り抜いた。


「にゃぁああッ!?」


 四枚の花弁が四つの車輪をそれぞれ受け止め、空中で静止した妖怪の体を御日の刃が通り抜ける。


「……ふぅ」


 息を吐く御日。その背後で崩れるような音が鳴り、車輪の妖怪は倒れた。


「今の、何だ?」


「火車だね。まぁ、負けた側は好きなタイミングで戦えるってルールがあるから、奇襲を仕掛けたんだろうけど……それが通じる相手じゃ無かったみたいだね」


 何と言うか、ダサいな。


「しかし、これで三勝か」


「ふん、当たり前だろう。御日があの程度の相手に負ける筈も無い」


 まぁ、確かにな。それに、天日流の巫女としての力を目覚めさせた御日だ。何なら、今回のメンバーの中で最弱でない可能性も十分にある。


「もう、残り八人か」


「想定よりもかなり勝っていますね」


 相手の戦力が全く不明だったというのもあるが、ここまで勝ちが続くのは予想外だ。もしかすると、玉藻のワンマンチームな可能性まであるぞ。


「これは、俺の出る幕も無いかも知れないな」


「いやいや、頼むよ。玉藻なら、副将までは何があっても漕ぎつけてくると思うから」


 そうか、それは残念だな。


「……そもそも、何で俺が副将なんだ」


 別に、霧生とか他の妖怪で良いだろうに。


「そりゃあ、霧生が自分よりも強いって言うからね。霧生より確実に強いって太鼓判があるなら、副将になるのは当然だよ」


「……おい」


 霧生を睨むと、霧生は無言で視線を逸らした。


「そんなことより、ほら。次の敵が出て来るよ」


 瓢の言葉に舞台を見ると、目を逸らしたくなるほどに眩しく輝く赤い髪の男が立っていた。襤褸切れのような布で体を、笹と茅を巻き付けて足を覆い、少し日に焼けた浅黒い肌を隠している。


「おらぁ、赤頭(あかがしら)。名が吾川(あがわ)やき」


「……ごめん」


 かなり訛っている男の言葉を聞き取れなかったのか、御日は一言謝った。


「アイツは誰だ?」


「吾川。人間の呼び名で言えば赤頭だね。髪が赤色に光ってるから、人間の間じゃそう呼ばれてるみたい」


 確かに、髪はかなり特徴的だな。見るだけで目が焼けそうなくらいには眩しい。


「強いのか?」


「力が強いね。妖力も身体強化に費やすタイプだったと思うよ」


 純粋な身体性能特化タイプか。それに、見たところ……闘気の扱いも上手そうだ。


「準備はえぇが?」


「……うん」


 かろうじて聞き取れたのか、御日が頷く。


「ほんなら、行くぜよ!」


「ッ!」


 吾川の赤い髪が光を強め、その体からも赤いオーラが溢れる。強化されたその肉体で吾川は飛び出し、御日に迫る。


「天日流、陽炎(かげろう)


 振り下ろされる拳。それが触れる寸前で御日の体が陽炎のように消え、吾川の背後に回る。


「天日流、烈日」


「ぬおわっ!?」


 強烈な勢いで薙がれる刃。吾川はそれを軽快に跳躍して回避し、拳を構えなおした。


「めっそーな剣技や。おんし、強いにゃぁ」


「うん、ありがとう」


 御日も刀を構えなおし、吾川を正眼に見据える。


「ほんなら、こりゃどうや」


 吾川がその場で跳躍し、空中で拳を乱打する。


「『赤乱衝破拳』」


 吾川の乱打によって、拳程度の大きさの闘気弾が無数に生み出され、御日に向けて放たれる。


「天日流、赤鴉の舞」


 御日の周囲に黒い花弁が四枚浮き上がり、御日は舞うような動きで闘気弾をひらひらと躱していく。


「天日流、天陽耿々」


 闘気の光、そして吾川の髪から放たれる強烈な光、御日の刃はそれを集約し、吾川を目掛けてその光を煌めかせた。


「ぬわ!?」


「天日流、九陽之幻」


 吾川の視界を奪った直後、雨のように降る闘気弾の中で御日の闘気が、気配が揺れる。分散した闘気が四方八方から溢れ、吾川の感覚を錯乱させる。


「ッ、そこ!」


 地面に降り立った吾川。その背後から迫る強烈な闘気と気配に振り返り、拳を振るう。


「何やぁ!?」


 どうやら視界が回復したらしい吾川は目を見開き、迫っていたそれの正体に気付く。


「さっきの、花弁ッ!」


 黒い桜の花弁。御日の闘気を帯びたそれは振るわれた吾川の拳を切り裂き、血を噴き出させる。


「天日流、駕炎威光」


「危なぁ!?」


 直後に飛び出して来た御日が吾川の頭上を飛び越えながら刀を振るい、吾川の頭を切り裂こうとする。が、吾川は何とか頭を逸らして避け、その場から飛び退く。


「おぉッ、ととッ!? ぬわゃ!?」


 その後を追うように四枚の花弁が迫り、吾川を切り裂き、貫こうとするが、吾川は軽快な動きでそれを回避する。


「天日流、暁光」


「ッ!!」


 踊るように花弁を避け続ける吾川。その隙を黄金の刃が狙うが、吾川は上体を思い切り逸らし、紙一重でその斬撃を回避した。赤い髪がパラパラと宙を舞い、直ぐにその輝きを失う。


「だぁああああああああッ!!」


 吾川の体から、大量の闘気が放たれ、花弁が吹き飛び、御日もそこから飛び退いた。


「もうえいッ!! ここで終いぜよッ!!」


 吾川の髪が赤い輝きを増して、逆立っていく。溢れる闘気は濃く赤色に、吾川の体に纏わりついていく。


「退路は不要! おらに次はねぇ! ほんじゃけど、それでえいッ!」


 キラキラと輝く赤色の闘気。それは、目を逸らしたくなるほどに眩い。


「『赤輝天耀』」


 さっきまでとは段違いの闘気を纏い、吾川は拳を構えた。

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