話し合い
パチリと鳴り響く音に、瓢は口を閉じる。
「じゃが、かも知れぬで吾の道を決められては堪らぬ。となれば、やるべきことは一つじゃ」
「やるべきこと?」
玉藻はそこで、妖艶な笑みを浮かべた。
「昔からずっと、こうして決めて来たじゃろう。勝負じゃ、勝負」
「やっぱり、そうなっちゃうか……」
瓢は残念そうに呟いた。
「出来るなら、僕の言葉で納得させてみたかったんだけどね」
「それが出来ぬと予見していたからこそ、そこな仲間達を連れてきたんじゃろう?」
玉藻が扇子でこちらを指した。
「まぁね。だけど、僕は武力解決は好きじゃないからさ」
「諦めよ。それで、勝負の形式はどうするのじゃ」
あっさりと戦闘することが決定した話し合いに俺は異議を申し出たくなったが、ややこしくなるだけなので瓢を少し睨む程度に留めておいた。
「先ず、この場の全員で殺し合いってのは流石に品が無いよね」
「そうかの。吾は無茶苦茶な合戦も嫌いではないんじゃが……まぁ、よかろう」
合戦か。さっきは好戦的では無いと判断したが、好戦的ではあるかも知れないな。血生臭いのも、きっと好きなのだろう。
「吾としても無為に仲間が散るのは本意では無いしの……お主の連れてきた仲間で、戦えるのはどの程度おるのじゃ?」
玉藻の言葉に、瓢が後ろを向く。
「僕が連れて来たのは五人だけど……御日ちゃんも戦うんだったかな?」
御日はコクリと頷いた。
「じゃあ、老日君達はどうかな?」
「俺か……俺は、正直戦う気は無いが」
俺の言葉に、瓢はニヤリと笑った。
「メイアちゃんの立場を作りたいんでしょ? それなら、協力した方が良いと思うけどね」
「……あぁ」
確かに、俺も出れば勝利はより確実なモノになるだろう。それはつまり、メイアの願いを叶えることにも繋がる。
「勿論、君が協力してくれるなら僕からも積極的に協力させてもらうよ」
「分かった。俺も出よう」
ここまで言われてやらない訳にもいかないだろう。それに、人外ばかりのこの場であればそこまで隠す必要も無いしな。
「君の仲間は?」
横に並んだ使い魔達を見ると、全員が闘志に満ちた表情をしていた。
「私も出とう御座います、主様」
「このボディの実戦試験には丁度良いかと」
「カァ、オレだけ出ねえって訳にも行かねえからな」
じゃあ、全員だな。
「四人全員、戦えるってことで良いかな?」
「あぁ」
一つ頷き、瓢は玉藻に向き直った。
「という訳で、僕を抜いたら十人だね」
「何を勝手に抜いておるのじゃ。十一人じゃな……ふむ、全員で戦うか、一人ずつ戦うか」
個人戦を連続でやるか、団体戦をするかの二択って訳か。
「悪い、質問良いか?」
そこで、俺は浮かんだ疑問を解消するために手を挙げた。
「む、何じゃ?」
「これは殺し合いか?」
「あぁ、お主は人間か。なら、白沢のことも知らぬな」
納得したように頷き、玉藻は後ろで控えていたその獣を呼び出した。
「こんにちは、人の子よ。私は白沢です。玉藻と同じく、海を渡ってこの国にやって来た妖です」
現れたのは三つ目に角の生えた白い獅子。響いたのは深い知性を感じる女の声。彼女から発せられる雰囲気は寧ろ、神聖さのようなものを感じる。
「霊獣や瑞獣と呼ばれることもありますが、私は飽くまで私の好きに生きているだけですので、人間の味方という訳ではありません」
「あぁ、俺は老日だ」
一応、自己紹介は返しておいた。
「私は死者を蘇らせることが出来ます。と言っても、蘇生が可能なのは死後間もない者だけですが」
「なるほどな。それで、殺し合いが出来るって訳か」
白沢は頷いた。
「私は血みどろの争いというものは好みませんが……止めることもしません。ただ、蘇らせるだけです」
「じゃあ、アンタは今回の勝負に加わらないんだな」
「えぇ、その通りです」
そうか、良かった。
「分かった、ありがとう」
「うむ、話を再開するんじゃが……瓢、どちらが良い」
ぶん投げられた瓢は少し硬直したが、直ぐに元の表情に戻る。
「えぇと、集団戦か個人戦かって話だよね」
「その通りじゃ」
すると、瓢は迷った様子も無く答えた。
「勝ち抜き戦にしよう」
「ほぅ……良いのじゃな?」
玉藻が妖艶な笑みを浮かべる。
「この吾を相手に、それで勝てると判断したのじゃな?」
「うん、そうだよ」
あっさりと言い放った瓢に、玉藻は僅かに殺気を漂わせた。
「全員でかかるでもなく、一人一勝にするでもなく、勝ち抜きで良いんじゃな?」
「うん。但し、次の勝負までの時間は負けた方が決めるってルール。これなら、君がもし切り札か何かを使って強化されても次の相手はすかせるし、君が消耗していれば即座に戦闘することが出来る」
怯むことなく提示された具体的なルールに、玉藻は真剣な表情に戻る。
「次の勝負までの時間、流石に制限ナシとは行かんぞ」
「勿論。明日や明後日なんて言い出したらズルだからね……うん、最大三十分としようか」
「ふむ、良かろう」
玉藻が扇子を宙に放り投げると、それは炎となって消えた。
「早速、始めるのじゃ」
玉藻は立ち上がり、好戦的な笑みを浮かべた。




