二重の災厄
家に帰り、全員で机を囲み、話していたところ……天井からにょきりと頭が生えてきた。
「やぁ」
カラス、メイア、ステラは即座に立ち上がり、殺気を漏らす。
「落ち着け。こいつは、まぁ……大丈夫寄りだ」
「寄りって何だ、寄りって……」
呆れるように言うカラスだが、まだ警戒は解けていない。
「そいつは、妖怪だ」
「……もしかして、例の」
ステラの言葉に、俺は頷く。
「僕はぬらりひょん。今日はちょっと、話があってね」
「そういうことだ。こいつが、話していた瓢だ」
霧生の家であった出来事については既に共有してある。瓢のことについても、話はしている。
「主様の知り合いとは言え、断りも無く入り込んで許されるとでもお思いで?」
「いやぁ、ごめんね。僕はこういう生き物なんだ。許しておくれよ」
「ッ、ごめんで済むような話では……」
瓢を睨みつけるメイアを制止し、そのまま全員を座らせる。
「話ってのは、何だ」
そして、俺は本題について尋ねた。
「富士の山が噴火するみたいだ」
「あぁ、それか」
知っていた話題だったので、俺はあっさりと受け入れた。
「丁度、それについて全員で話していたところだ」
「おや、そうなのかい? じゃあ、もう一つ」
追加の情報に俺は耳を傾ける。
「大悪鬼、大嶽丸が鈴鹿の山にて蘇った」
「……誰だ?」
大嶽丸、聞いたことがあるような無いような、微妙なところだ。
「知らないのかい? 九尾の狐に並ぶ三大妖怪の一体さ」
「マジか」
このタイミングか。よりにもよって過ぎるだろう。
「参考までに聞いときたいんだが……玉藻前とそいつはどっちが強いんだ?」
「純粋な戦闘能力なら大嶽丸に分があるだろうね。彼は正に……鬼神と言って差し支えない力を持ってる」
鬼神、か。
「そもそも……どういう理屈で蘇るんだ、そいつらは」
「玉藻前は封印だったからね。それが解けただけさ」
まぁ、大抵の封印は時間が経てば解けるものだからな。しょうがないか。
「大嶽丸は、どうなんだ」
「三明の剣の一本、顕明連に移した魂魄によって黄泉返りを果たしたらしいね」
何を言ってるか良く分からなかったので、俺は黙って頷いた。
「三明の剣は国の管理下にある筈では? 顕明連も例外ではない筈です」
と、ステラが問い詰めるように聞いた。
「盗み出されたみたいだね。大通連と小通連も一緒に」
「……神器の保管場所は基本的に皇居であると認識していましたが、違うのですか?」
ステラの問いに、瓢は首を振る。
「さぁね。僕でもそこまでは知らないな」
「そうですか。参考になりました」
良く分からないが、皇居にあったとすれば内通者が居るくらいしか有り得ないだろうな。外から見ただけでもあの守りだ。侵入して奪うことは不可能と考えても良いだろう。
「それで、どうするんだ?」
俺の問いに、瓢はニヤリと笑みを浮かべた。
「僕からすれば、チャンスだと思ってね」
「……チャンス?」
瓢は頷いた。
「玉藻の位置が掴めた。この状況なら……説得が出来るかも知れない」
「つまり、どういうことだ?」
「彼女の願いは自由に生きる権利さ。大嶽丸の復活と、富士山の噴火。片方ならまだしも、同時に二つ。確実に人類に被害が出るこの災厄……利用できるとは思わないかい?」
あぁ、なるほどな。
「玉藻に協力させるってことか?」
「そういうこと。彼女も人類の敵じゃない。寧ろ、彼女は人間が好きだからね。説得出来る可能性は少なくない」
「つまり、大嶽丸と富士山の災害の対処に協力させて人類の味方であることをアピールするという話ですか?」
「うん。国民全体にその存在を知らしめれば、国も簡単に討伐なんてことは言えないだろうからね」
瓢の言葉に、メイアは懐疑的な表情を浮かべた。
「そんなに上手くいくものかしらね。玉藻前が協力したとしても、それがどの程度民衆に伝わるかは賭けに近いと思うのだけれど」
「まぁ、そこは僕に任せてよ。メディアに映るような手配は僕がしておくから」
「情報の拡散であれば、私も少しは協力出来ますね」
正直、それが上手く行くかはそんなに興味は無いが……
「問題は、説得が上手く行くかどうかだな」
「まぁ、そうだね……という訳で、明日暇かな?」
俺は眉を顰めた。
「出来れば、君にも着いて来て欲しいんだ。これは飽くまでもお願いだけどね」
「……俺が着いて行ったところでどうにかなるのか?」
「戦闘になる可能性も低くないからね。それに彼女は……自分より弱い相手の言うことに従わないかも知れない」
なるほどな。あんまり、行きたいとは思わないが。
「取り敢えず、義鷹と義鷹の孫は来てくれるらしい。他にも色々と知り合いを呼んでるから……まぁ、それも踏まえて考えておいて欲しいかな」
「知り合いってのは、妖怪か?」
「勿論」
しかし、そうか……御日が来るのか。
「まぁ、行きはする。飽くまで、御日の保護者程度だが」
「それでも十分さ。義鷹が自由に動けるようになるなら、それだけで価値がある」
アイツも自由に動きたがるタイプだろうからな。丁度良いだろう。
「ありがとね、助かるよ。じゃあ、明日の昼前には迎えに来るから」
そう言って瓢はぬらりと地面に沈んで消えていった。
「……じゃあ、焼肉行くか」
やるべきことは決まったからな。取り敢えず、今日のところは楽しむとしよう。




