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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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大金

 契約を済ませた俺は、そのまま外に出てぶらぶらと歩いていた。


「……八百万、か」


 その内のどの程度か俺に入るかは不明だが、降って湧いたような大金に俺は浮足立っていた。


「流石に多すぎるな」


 竜の爪、幼竜のものならばと思ったが、竜自体の質が高すぎたか。少し考えが足りなかったが……


「まぁ、悪くないか」


 俺という存在がバレる可能性は低い中でこれだけの大金を手に入れることが出来たんだ。幸運だと思っておこう。

 とは言え、余り多用したくない手段ではある。働く理由が無くなるからな。


「……まぁ、折角だ」


 全員で焼肉でも食いに行くか。




 ♢




 という訳で、俺は異界に来ていた。勿論、異界で焼肉をする訳ではない。


「他に欲しいカスタマイズはあるか?」


 ステラのボディを作りに来たのだ。焼肉を全員で食べに行くには、ステラも飯を食えるようになっておく必要がある。


「腕をドリルに変える、くらいでしょうか」


「今度は何のアニメを見たんだ、お前は……」


 隣に浮かぶ青い金属球から声がした。まぁ、出来ないことは無い。一応やっておくか。


「しかし、マスター。竜の爪を売るとは大胆なことをしましたね」


「幼竜のものだからセーフかと思ったんだが……まぁ、駄目だったな」


 大して後悔している訳でも無いが、今後は気を付けよう。


「私としては、ボディを作ってもらえるきっかけになったので好都合でしたが」


「あぁ、遅くなって悪かった。最初は直ぐ作るつもりだったんだが」


 俺は体を伸ばし、空を見た。異界の森の隙間から、青い空が見える。


「しかし、随分と戦闘用に傾けたな?」


「正直、他の性能は間に合っていますので……情報収集に関しても、ネットワーク上の調査と鳥やネズミ型子機での調査の方に分がありますし」


 まぁ、そうだな。


「……良し、殆ど完成だな」


「ドリルも付けて頂けましたか?」


 俺は溜息を吐きながら頷いた。


「仕上げが終わったら、少し試して調整するか」


「了解致しました」


 俺はまだ生気の宿っていないボディに魔力の籠った指先で触れ、最後の仕上げを始めた。




 あれから約十分後、俺はほぼホムンクルスと言って差し支えないステラのボディと並んで歩いていた。


「ほら、ゴブリンが居るぞ」


「アレで性能試験が可能かは怪しいですが……やりましょう」


 日差しを受けて輝く銀色の長髪、ライトグレーの瞳、バランスの良い肢体、デザインしたのはステラ自身だ。俺がデザインを担当していれば、悲惨なことになっていたかも知れない。


「では、行きます」


 ステラの姿が掻き消え、六体のゴブリンの前に現れる。


「性能試験及び、殲滅を開始します」


 驚きに目を見開く六体のゴブリン。慌てて武器を構える彼らの視界からステラの姿が消える。


「グギャッ!?」

「グゴギャッ!!」

「グギャギャッ!」


 六体全員の死角に移動したステラは、手の平を広げて突き出した。


「発射」


 手の平に六つの穴が開き、そこから金属弾が放たれる。


「グギャ――――」


 反応する間もなく、六体のゴブリン全員の頭に穴が開き、一体残らず地面に倒れた。


「全対象沈黙。殲滅完了」


「あぁ、悪くないな」


 俺の言葉に頷き、ステラは自分の腕を伸ばして眺める。


「相手の視界の把握、弾丸の軌道計算、どれも0.01秒以内に完了しました」


「想定通りだな」


 俺は並んだゴブリンの死体に歩いて近付き、手を合わせた。


「還しておくか」


 どうせ回収しても売ることの無い素材だ。森に還しておこう。


「……さて」


 ゴブリン相手だとテストしきれないことも多いだろう。とは言え、この異界の魔物でステラの性能を引き出せる奴が居るかは怪しい。


「次のテストに移るか」


「構いませんが、どのように?」


 俺は答えることなくその場に屈みこみ、土の地面に手を当てた。六体のゴブリンを還した地面だ。


「ゴブリン達の分もあるが、流石は異界の森だな……良いのが出来るぞ」


 俺が作ろうとしているのはゴーレムだ。土を使った、最も基礎的なゴーレム。条件はかなり良い。ゴブリンの死体六つを丸ごと吸った異界産の地面は高い生命力と魔力を担保している。


「核は……いや、これで良いか」


 俺は手頃な石を探そうとして止め、土の中にある無数の小さな石に意識を向けた。これら全てが小さなコアだ。


「『起きろ』」


 その内側に魔力が満ちると、土の地面が蠢き、人の形で起き上がる。


「出来たぞ」


 見上げる程の巨体。三メートルを超える土のゴーレムは、ホムンクルスであるステラの方にぐらりと体を向けた。


「……これが相手ですか」


 ステラはゴーレムに向けて構えを取り、目の無い顔を見上げた。


「感覚器官は魔力と温度探知のみ。視覚や聴覚に作用する攻撃は無意味と見るべきですね」


 まだ命令が与えられていないゴーレムは、解析を始めたステラを前に動こうとしない。


「じゃあ、始めるぞ」


「了解、戦闘を開始します」


 ゴーレムが腕を振り上げた瞬間、ステラの拳がゴーレムの胴を貫いた。

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