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学級崩壊

 あれから、十分程度歩いていると、突然青木が足を止めた。進行方向に幾つかの気配を感じる。


「……皆さん、この先に何か居ます。数までは分かりませんが」


 五体だ。ゴブリンだな。最初に出会ったのは、所謂はぐれだ。大抵のゴブリンは二体以上で動いている。繁殖力が強く数の多い魔物だからな、一体で動く必要がない。


「五つだ」


 野島が言った。その体からは気が漂っている。闘気とも呼ばれるそれを空間に広げ、感知に使ったのだろう。しかし、気が使えるってことは中々の肉体派だな。


「闘気ですか、凄いですね野島さん」


「元警察だからな」


 野島は言いながら、拳を構えた。グローブのようなものは装着しているが、武器は使わないスタイルらしい。


「とはいえ、武術は柔道の経験しかない。魔物相手にはそう活かせない」


「大丈夫ですよ。闘気を使えればゴブリン五体くらい柔道だけでも倒せます」


 木々の向こうから、五体のゴブリンが姿を見せる。しかし、さっきのゴブリンとは違い、こいつらは武器を持っている。なまくらだが、金属製の武器だ。


「……あいつら、既に人を殺した経験があるかも知れません」


「何故分かる?」


 俺が思わず質問すると、青木は目を細めた。


「あの武器です。ゴブリンは武器を作る術を持ちませんから、鉄製の武器は殺して奪うか死体から拾う他ありません。あれが殺して奪ったものだとすれば、厄介です。一度人の殺し方を知ったゴブリンは迷いがなく、強いです」


「なるほどな」


 こっちのゴブリンは製鉄技術が無いのか。まぁ、いきなりこの世界に現れて鉄を作るってのは難しいだろうが。しかし、向こうのゴブリンよりも……何というか、気迫が無い。


「次の敵は皆さんに任せようと思って居たんですが、五体は流石に危険ですね」


 言いながら前に出ようとした青木の頭上を炎の球が通り過ぎた。それは真っ直ぐにゴブリンに着弾し、小さな爆発を起こして丸焦げにした。


「ちょっ、黄鋳ちゃん! 勝手にやっちゃダメだよ!」


「早く帰りたいから、早く終わらせるだけ」


「ていうか、森の中で火ってどうなの?」


 それを為したのは杖珠院黄鋳だ。杖を持っていたので察しては居たが、魔術士だったか。


「ハッ、オレも好きにやっちゃうぜ?」


「ちょ、ダメです砂取さん!」


 どすどすと前に歩いていく砂取の肩を青木が掴むが、目の前に走ってくるゴブリンを見て離す。


「っしゃぁッ! オラッ、どうよ? オレ、結構強いっしょ」


 砂取の持つ金属の棒。強化版鉄パイプのようなそれが直撃し、ゴブリンの頭が破裂する。


「じゃ、じゃあ俺も……俺もやる!」


「あぁっ、ダメだって小戸君!」


 慌てる乙浜の脇をすり抜けて小戸は走っていく。


「うらぁああああああッッ!!!」


 振り下ろされる直剣。しかし、ゴブリンはそこまで動きの速くないそれを回避し、手に持っていた短剣を突き刺そうとする。


「う、うわぁッ!?」


「危ないぞ」


 短剣が小戸の腹部に刺さる瞬間、野島が小戸の襟首を掴んで後ろに投げた。


「本当に、いい加減にしてください」


 残り三体のゴブリン。青木は丁度三発槍を放って一瞬で殺害した。


「……皆さん、これは講習です。自分の腕を見せつける場でも、協力して魔物を狩る場でも無いです」


 青木は血の滴る槍を地面に刺し、俺たちの方を睨んだ。


「魔物を倒して自分は楽しいかも知れませんが、他の参加者は迷惑するだけです。特に小戸さん。貴方は野島さんが居なければ絶対に怪我をしていました。いえ、怪我で済むかすら分かりません」


「ぅ、す、すいません……」


 身を小さくする小戸に青木は溜息を吐く。


「砂取さんもそうですが、杖珠院さん」


「何ですか?」


 挑戦的に視線を返す杖珠院を睨む青木。


「何故勝手に手を出したんですか?」


「別に」


 尚も反省する様子の無い杖珠院に絶句する青木。


「……あの、ですね。百歩譲って手を出したことは良いとしても、何故何も言わずに仕掛けたんですか? それでチームが混乱して、小戸さんが大怪我していた可能性もあったんですよ?」


「そもそも、小戸が怪我するのなんて小戸が弱いのが悪いだけだと思いますけど」


「黄鋳ちゃんッ! 本当に良くないこと言ってるよ? 分かってる?」


「あーあ、学級崩壊ね」


 青木が怒り、杖珠院が小馬鹿にし、天利が叱り、塩浦がどうでも良さそうに言う。青木、可哀想だな。しかし、意外と怒るタイプだったんだな。


「そもそも、何もしてない方が悪くないですか。そこの人とか、何もしてないし何も喋らないし、居ないのと同じです」


「黄鋳ちゃんッ!!」


 なんか飛び火したな。


「……あぁ」


 来るぞ、かなり多い。不味いな。


「おい」


「そうやって他人のことばかり責めて、自分がやったことは認めないつもりですか? そんなやり方じゃ誰も貴方の味方になってくれませんよ!?」


「余計なお世話です。何であなたにそんなこと言われなきゃいけないんですか?」


 青木に話しかけるが、聞こえていない。


「おい、青木」


 肩をひっつかみ、寄せる。


「ッ、な、なんですか」


「来てるぞ。ゴブリンの群れだ」


 俺の言葉に青木は目を見開いた。

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