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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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皇居

 堀に囲まれた緑豊かな空間、その内側には木々の背を優に超える巨大な建造物が建てられている。和城のようなその建物の高さはビル程もあり、広い空間を囲むように建っている。まるで壁のように建っている巨大な城の内側には幾つか館が立っており、そこだけで一つの完結した国のようにすら錯覚するレベルだ。

 その皇居から感じられる圧迫感というか、威圧感は凄まじく、現代日本にこんな建築物があるということには少し驚かされた。


「まぁ、流石に結界に入るのはナシだな」


 観光目的でそこまでやる理由は無いし、あの結界は相当厳重だ。あの城の中がどうなっているのかは少し気になるが、リスクを冒すまででは無い。


「っと」


 俺は皇居周辺、堀の外側に降り立ち、巨大な城を見上げた。


「……凄いな」


 下から見ると更に威圧感が凄い。しかし、これだけの建物だ。単なるシンボル以上の役割があるんだろうな。

 それと、外からじゃ中の様子は伺えないな。和城の部分が見えるだけだ。



「――――久し振りでござるな」



 俺の横に降り立ったのは、濃紺色の装束で身を隠したどう見ても忍者……服部半蔵正忠だ。周りには一般人も居るので隠蔽の為の魔術をかけようと思ったが、既に正忠がかけていたのでやめた。


「一応、姿は隠してるつもりなんだが」


「隠してるから来たんでござるよ。皇居の周りで何してるんでござるか」


 流石に怪しすぎたか。警戒が厳重そうな皇居の周りでこういうことをするのは良くなかったな。


「ちょっと人を待っててな。その間の暇潰しに見てただけだ」


「……怪しすぎるから勘弁して欲しいでござる。老日殿で無ければ速攻捕縛していたところでござるよ」


 だろうな。


「あぁ、悪かった。ところで、アンタはいっつも皇居の警備をしてるのか?」


「その質問もぶっちゃけ怪しいでござるが……今日は近くで表彰式とかいうのが行われてる故、有事に備えて警備に回っているという訳でござる」


 あぁ、相当な実力者が沢山集まるから、一応の警備って訳か。


「ところで、皇居の中には何があるんだ?」


「行事や儀式用の宮殿に、陛下のお住まいである御所。研究施設に、陰陽寮や天暁殿も主要な施設でござろう」


 陰陽寮、皇居の中にあったのか。いや、それより……


「天暁殿ってのは?」


「巫女殿がおられる場所にござる。それ以上は話せんでござるな」


 天暁殿、何か聞き覚えがあるとは思ったが……天暁会か。巫女ってのは預言の巫女のことだろう。


「しかし、ここまでの施設にする必要はあったのか? 流石に……物々し過ぎると思うんだが」


「必要でござるよ。物々しいと感じたのであれば、猶更に。天皇は日本の象徴であり、祭祀を行う者の頂点でござる。故に、畏怖と信仰が必要なのでござる。八紘一宇が正しいとは言わんでござるが、人々の畏れや敬意が無ければ扱えない力もあるでござる」


「……なるほどな」


 神格化というのは、魔術的考えにおいては深い意味を持つ。神が信仰や畏れを力にするように、天皇にもそれが必要なんだろう。


「異界接触現象によって溢れ出した魔物。日本が周りの救援も無い中で小さな島国にも関わらず生き残り、今では大きな力を持っているというのは……中々、()()()でござろう?」


 確かに、異界が無数に発生する中で国土でも人口でも国力でも上が無数に居る日本が、異界に関する分野でトップクラスの成果を上げているのは奇跡的と言えるだろう。

 普通に考えれば、人口の多い中国やインド辺りが最強になりそうなものだ。異能者の量も多い上に、異界に対してもある程度は人海戦術で立ち向かえる。それなのに、軍隊もおらず平和を謳歌していた筈の日本がこの分野で最上位層に居るのは不自然だ。


「ただ、壁自体は当時の名残でもあるんでござるよ」


「名残?」


 忍者は頷き、城を指差した。


「今でこそ、この城の中には無数の施設が内包されているでござるが、昔はただの壁だったんでござる。魔物が発生した当時、この皇居は人口が密集する東京の中で最も避難所として、防衛拠点として向いていたんでござる。面積は広く、周囲は堀で囲まれているでござるからな。ビルのように倒壊する恐れも無いでござる」


 なるほどな。ここが避難所兼防衛拠点になってたのか。


「そして、当時の魔術的知識を持っている者や陰陽道の者も集まっていたでござる故、皇居が魔術や魔物の研究拠点にもなっていたんでござる。元々、皇居にはそういう知識を持つ者が多かったというのもあるでござるが……とにかく、その時から皇居には魔術等の研究施設が出来ていったんでござる」


「じゃあ、今でもその時の繋がりを持ってる奴も居るだろうな」


 然り、と忍者は頷いた。


「今、皇居には巨大な地下があるでござるが、それも当時の名残でござるな。どんどん避難民が増える中で、魔術や異能によって地下に無理やり空間を作ったんでござる」


「なるほど……良く知っているな」


「当然でござろう。これでも、拙者は国直属のエリートでござる」


 知識面も万全って訳か。


「まぁ、拙者が話したのは殆ど調べれば分かるような話でござる。国家機密ではござらんので、ご安心願いたい」


「あぁ、分かった」


 寧ろ、ここまでの話が国家機密だったら流石にこいつの正気を疑うところだ。


「じゃあ、今この日本で一番力のある研究施設はここって訳か」


「まぁ、恐らくそうでござるが……」


 忍者が訝しむように俺を見る。


「……一応聞いとくでござるが、この国を裏切ったりとか無いでござるな?」


「あぁ、その予定は無いな」


 忍者はふぅと溜息を吐いた。俺が怪しすぎて不安になったんだろう。


「逆に、この国の為に戦う気は無いでござるか? 普通じゃ有り得ないほどの好待遇を約束出来るでござるよ」


 まぁ、日本や世界が未曽有の危機に見舞われてる世界線ならそれもありだったかも知れないが……


「いや、遠慮しておく」


「……で、ござるか」


 忍者は残念そうに、しかし分かっていたかのように言葉を受け止めた。


「じゃあ、拙者は警備に戻る故……あんまりビビらせないように頼むでござるよ」


「あぁ、じゃあな」


 忍者は姿を消し、俺達を囲むようにかかっていた術も効果を失った。しかし、まさかの遭遇だったな。こんなところでアイツと会うとは……いや、こんなところだから会ったのか。


「さて」


 時間も良い感じだろう。そろそろ、戻るとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 忍者さん、いい味出してますね。
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