表彰
七里の番が終わり、代わりに全く知らない男が壇上に上がった。チャット欄を見る限り、彼も有名なハンターらしい。
「何を見てるんですか? マスター」
機械の小鳥が肩の上に飛び乗り、スマホの画面を覗き込んだ。
「覗き見は行儀が悪いぞ、ステラ」
「やろうと思えば遠隔で画面を見ることだって出来ますが、それよりはマシでしょう」
まぁ、音を垂れ流しにして見てる時点で別に隠す気も無いんだが。
「あぁ、表彰式ですか」
「そうだ」
俺は答えながらサバの塩焼きを箸で切り分け、口の中に放り込んだ。
「マスターも出てきたらどうですか? 間違いなく、一番の功労者ですよ」
「出る訳無いだろ。そもそも、今から乱入しても不審者扱いされて終わりだ」
前提として、俺がソロモンを殺したという事実を知っているのは蒼と竜殺しの二人くらいだからな。俺が出て行っても誰だこいつはとしか思われないだろう。
「竜殺しは出てないのか」
記事の方には既に表彰予定の人物が並んでいるが、一級の欄に竜殺しは居なかった。まぁ、断ったんだろうな。
「運命を断ち切る前であれば、強制的に出ることになっていたかも知れませんね」
「あぁ、そうかも知れないな」
因みに、竜殺しと一緒に居た蒼はこの式に出ているらしい。流石だな。
『三級のハンターだった彼女は……』
記事から配信に画面を戻すと、そこには黒い短髪の少女が居た。質素な黒いTシャツと灰色のズボンを着ており、腰には一本の刀を差している。
「……ミカ?」
八研御日、視界と少女の後ろに投影されたディスプレイには聞き覚えのある名が書かれている。
『彼女が戦ったのは悪魔の中でも王の位を持つ最上位の難敵で……』
「ッ、王級?」
王級と戦ったのか? 俺と会った日から毎日鍛錬を続けても王級と戦えるまでに成長するのは普通無理だろう。
『挑戦者を待ち、時間を過ぎれば市民を殺すというベリアルに最初に刃を向けたのは他でもない彼女でした。彼女はたった一人で果敢に立ち向かい……』
王の悪魔と一対一……? 五体満足で居られるだけで奇跡ってレベルじゃないのか、それは。
『最後は一級のハンター彩雲が作った隙を突き、ベリアルの腕を見事に斬り落としてそのまま勝利へと繋げました。更に、その際には……』
おぉぉ、と歓声が上がる。配信のチャット欄を見ても好意的な言葉が多いのは、市民の為に明確に命を賭けて戦ったからだろうか。それと、見た目が可憐というのもあるかも知れない。
『そして、今回の功績を受けて協会は彼女を三級から二級へと昇格させたとのことです。御日さん、昇格おめでとうございます!』
パチパチと拍手の音が鳴り響く。俺は思わず箸を置いていた。そして、チャット欄を監視するように目を滑らせる。
「二級、か」
『御日さん、最後に何か一言頂けますでしょうか?』
画面の中のミカがマイクを受け取り、カメラの方を向いた。
『二級、なったよ。刀の人』
周りを気にする様子も無く、微笑みながらミカは言った。
「……あぁ」
会いに行かないとな。二級になったら会うって、約束したからな。
「ステラ、この場所までのルートを貰っても良いか?」
「了解しました。例の子ですね。その件が終わりましたら、そろそろ私の端末を作って頂けますね?」
ステラから俺の脳内に情報が伝わって来る。別にスマホで調べても良いんだが、こっちの方が早い。
「あぁ、約束する」
「お願いします。私も、食の楽しみを味わいたいので」
ステラにはホムンクルスのような肉体型の端末を作ってやる予定だったが、ソロモンの件が片付いてからは割とダラダラしていたからな。
「じゃあ、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
俺は着替えを済ませ、外に出た。
♢
会場の外、俺は透明化した状態で出口を見張っていた。
「……ストーカー、だな」
年端も行かない少女を相手に出待ち。しかも、その後人気の無い場所まで尾行する予定もある。今からでも帰った方が良いかも知れないな。
「ん、来たな」
ぽつぽつと出口から現れる参加者たち。しかし、どこからかカメラやマイクを持った取材陣が現れ、そこに群がっていく。
「まだ、かかりそうだな」
それに、ここでじっと待っているのもストーカー染みていて嫌だ。
「少し歩くか」
範囲内に留めておけば、気配で場所は分かるからな。
東京都千代田区。日本でも最上級に発展している場所だが、異世界に行く前の俺には全く縁のない場所だった。
「……皇居とか、見てみるか」
確か、皇居って千代田区だよな。折角だし行ってみよう。
しかし、背の高い建物が多いな。俺は東京に行ったことすら無かったからな、そんなもんだと思ってたんだが、どうやら異界接触現象以降で建築の技術が上がり、コストが下がったことで大きな建物が増えたらしい。まぁ、魔術の力は偉大ってことだろう。
「ふっ、と」
ビルの上に飛び上がってみると、一瞬で皇居らしきものが見つかった。明らかにこれだろうっていうオーラが凄い。
「しかし、デカいな」
しかも、内側の建物は結界に覆われている。思ったよりも厳重だな。いや、当然か。
「皇居って元からこんなに大きいのか?」
そこにあったのは、巨大な城だった。




