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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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黄金色の眼

 詳しい戦闘内容についてはぼかしたが、一先ず説明は終わった。


「……と、こんなところだな」


 ソロモンを完全に消滅させたことについては話し、取り巻きの悪魔達については曖昧に話した。


「取り巻きの悪魔ってさ、絶対王級だよね?」


「確かに、王級も居たな」


 あたかも一体程度しか居ないように話したが、嘘は吐いていない。


「ソロモンと王級の悪魔を同時に相手取れるとか……ヤバいこと言ってる自覚ある?」


「……先ずは」


 引いたような顔をする蒼の横で、竜殺しが剣を逆向きにして振り上げた。


「試すか」


「ちょッ!?」


 竜殺しの胸に吸い込まれ、心臓を貫いた刃。竜殺しは血を吐きながら倒れ、そのまま緩慢な動きで自分の首を斬り落とした。


「はァ!? おいッ、竜殺し!? 一体何を……うわッ」


 竜殺しの死体が巻き戻るように再生し、元の無事な姿に戻った。


「……やっぱり、か」


 竜殺しは深く落胆するように息を吐き、その場にへたり込んだ。しかし、この力……この波動、少し俺と似ているな。


「俺は……いつになったら、この運命から……俺は、英雄になんて……」


 俺は聞き取った言葉から、浮かび上がっていた仮説を確信に近付けた。こいつも、俺と同じだ。選ばれし者、世界の命運を背負う者。

 俺は勇者だったが、どうやらこいつは英雄だったらしい。とはいえ、こっちの神は悪趣味だな。若しくは、この世界にかなりの危機が迫っているのか。


「……はぁ」


 しかし、運命か。それを断ち切ること自体は聖剣があれば可能だが、さっき別れを誓ったばかりの聖剣を起こすのはかなり忍びない。


「……君、は」


 いつの間にか俺を見上げていた竜殺しの目が、黄金色に輝いている。



「――――俺を、殺せるのか?」



 竜殺しが暗い眼差しで俺を見た。


「……」


 俺は返すべき言葉を見つけられず、ただ沈黙した。


「俺を、殺してくれ」


「……悪いが、断る」


 俺が答えると、竜殺しは両手に剣を呼び出した。


「君が俺を殺せるのは、分かる。俺の目は相手の思考を読む……とは少し違うが、それに近しいことが出来るんだ」


 なるほどな。運命を断ち切れるとか考えていたのが良くなかったか。


「だとしても、俺がアンタの死を背負ってやる必要がどこにあるんだ」


「そうだな。その通りだ……だから」


 竜殺しは両手に握った剣を構え、俺を見た。


「君が俺を殺すまで、俺は君を襲い続ける」


「おいッ、竜殺しッ!?」


 竜殺しは俺に向けて赤紫色の魔剣を振るった。蒼が悲鳴を上げて竜殺しに掴みかかる。


「そうか」


 放たれる赤紫色の波動。飛来する斬撃を俺は軽く回避した。


「別に、俺は封印って手段も取れるんだが」


「無駄だろう。俺の運命はいつかその封印を破る」


 まぁ、そうかもな。


「二人とも、待てって! 分かったか!?」


 蒼が竜殺しを抑えたまま叫ぶ。こいつ、意外と良い奴だな。



「『――――目覚めろ、我が鼓動』」



 竜殺しは蒼を振り払い、自身の胸を強く叩いた。


「ッ、竜殺し……!」


「『竜の血ドラゴニフィケーション』」


 轟く鼓動のような音。同時に、竜殺しの肉体が変容していく。


竜血の騎士ファクティ・サント・ドラコニス


 現れたのは、生物のように脈打つ赤黒い鎧を纏った騎士。その背からは竜の翼が生えている。


「……仕方ないな」


「ッ、本当にやり合う気?」


 俺は蒼の質問に答えることなく竜殺しに飛び掛かり、その首を掴んだ。



「『――――亜空転送(メタフォライコル)(クォロス)』」



 瞬間、俺の視界が黒一色の空間に入れ替わる。ソロモンの創り出した空間と見た目は似ているが、性質は全く別だ。


「……どこだ、ここは?」


「俺の創り出した亜空間だ。と言っても、俺の有利に作用するような空間ではない。単純に、戦闘用の空間だと思ってくれれば良い」


 一級との戦闘だ。余波が出たり痕跡が残るのは困るからな。こうさせてもらった。


「同じ境遇の(よし)みだ。全力で来い」


「……君が何者なのか、凄く気になるよ」


 竜殺しは二本の剣を構え、翼を利用して加速しながら俺に飛び込んできた。


「俺に勝ったら、教えてやる」


「それは困るな。俺が勝ったら、君に殺して貰えないだろう」


 俺はバルバリウスを虚空から引き抜き、竜殺しの剣を弾く。


「良い剣だ」


「こいつか? バルバリウスって言うんだが」


 意味は蛮勇、だったか。元は蛮族の王が魔族から奪って使っていた剣らしいな。巡り巡って俺の下に来た訳だが。


「俺のこれは、怒りの魔剣(グラム)突き刺すもの(フロッティ)。直接斬った際と同じ威力の斬撃を飛ばす剣と、あらゆる防御を貫いて相手を突き刺す剣だ」


「……そうか」


 別に聞いてないんだが、一応相槌は打っておいた。


「あぁ、すまない。何というか……少し、気分が高揚してるみたいだ。死が間近に迫ってる、そんな予感がする。危機を知らせる秘宝の全てが、君は危険だと警鐘を鳴らしてるんだ。こんなこと、初めてだ」


「……そうか」


 俺は竜殺しの剣を弾き、躱しながら相槌を打った。


「それと……君が俺のことを慮ってくれているのは分かるが、そろそろ本気で来てくれて構わない」


「そうか」


 俺は竜殺しの剣を強く上に弾き、そのまま懐に距離を詰めて思い切り蹴り飛ばした。


「戦闘術式、展開」


 竜殺しを蹴り飛ばした瞬間、俺は幾度も使ってきた戦闘用の術式を起動させた。

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