報告と再会
黒い世界は崩壊し、俺は崩れ去った逆向きの教会の上に立っていた。富山湾に浮き上がる瓦礫は不安定に揺れている。
『いやぁ、楽勝だったね』
「あぁ、そうだな」
俺は夜の空を見上げ、聖剣の言葉に答えた。
「今度こそ、アンタもゆっくり眠れる筈だ」
『そうだね……うん、ちょっと疲れたよ』
空には星が浮かんでいる。けど、異世界の空ほど綺麗では無いな。
『それじゃ、お疲れ。楽しんで生きてね、勇』
「あぁ、ありがとな……助かった」
聖剣の姿が消えると、俺の髪と目も元に戻った。
「……ふぅ」
少し、疲れたな。どちらかと言えば、精神が。
「報告、しないとな」
一息吐いたところで、俺は使い魔達への報告を思い出した。
『ソロモンは倒した。復活の心配も無い。それと……』
続けて王の悪魔達とルキフグスについても話そうとしたが、その声は遮られた。
『おめでとうございます、マスター』
『おぉ、やったなボス。やっぱり、強かったか?』
『お疲れ様です、主様。こちらも無事に悪魔を処理できております』
良かった、こいつらも全員無事だったみたいだな。
『あぁ、お前らも無事でよかった。それと……強かったぞ。聖剣を抜くことになった』
『……マジかよ』
『驚異的ですね。流石はこの地球でも最強クラスの魔術士と言ったところでしょうか』
『主様、もしかして……一度、死んだのですか?』
それぞれ驚きを口にする使い魔達。こいつらは俺と魂で繋がっている故に、俺の本気の強さというのも知っている。
『あぁ、死んだ。こっちで死ぬことがあるなんて思わなかったな……それより、今の状況はどうなってるんだ?』
『各部で少なくない被害は出ておりますが、日本滅亡には程遠いですね。未だに詳細な被害規模は把握できていませんが、壊滅的な人的被害が出ている場所が無いのは確かです』
そうか、良かった。これで、俺が戦ってる間に日本は滅びてましたなんてことになったら無意味だからな。
『分かった。今、俺が介入すべき場所はあるか?』
『恐らくありません。現在も各地で戦闘自体は続いていますが、マスターが介入せずとも事態は沈静化するかと思われます』
そうか。じゃあ、帰るか。
『ただ、現在の王の悪魔の討伐数は三。まだ六体程度は王が残っている可能性が高いので、場合によっては……』
『あぁ、六体は俺が倒した』
『流石です、マスター』
しかし、王の悪魔はかなりの化け物だったように思えるが、三体も処理できたのか。人類も捨てたもんじゃないな。もしかすれば、俺が居なくとも今回の事件は……いや、無理か。
『じゃあ、そのまま俺は家に帰ろうと思うが、それで良いか?』
『はい、問題ありません』
ステラが居ると楽で良いな。思考放棄できる。
『分かった。皆も良く頑張ったな、ご苦労……』
何だ? 何か来てるな。これは、どっちも知ってる気配だ。
「前にも、会ったことがあるな」
片や、疲れ切った顔をした黒い髪の男。片や、綺麗な青い髪と目を持った男。
「竜殺しと……」
「佐渡海梦。一応、一級ハンターなんだけどなぁ」
あぁ、そうだ。
「蒼か」
「そう、最速一級ハンターのね」
そういえば、そんなことも言ってたな。
「……あぁ」
仮面、今付けてないな。死んだ時に外れたままにしていたか。
「まぁ、良いか。それで、何だ?」
尋ねると、蒼は笑みを浮かべた。竜殺しは一歩引いた位置で無表情を貫いている。
「いやさぁ、ここに親玉が居るって聞いてたんだけど……まさか、君のこと?」
「悪魔共の親玉の話なら、俺じゃないな」
そういえば、前に会った時もこんな風に疑いをかけられたな。碌な出会い
「どう思う? 竜殺し」
蒼が尋ねると、竜殺しは眼を黄金色に変色させる。
「……聞いてる?」
蒼の言葉に竜殺しは何の反応も返さず、瞬きすら出来ずに硬直していた。
「……嘘、だ」
竜殺しの表情が絶望に染まっていく。
「ソロモンでも、ダメなのか……? だったら、だったら俺はいつ……いつ、死ねるんだ……」
「えっと、竜殺し?」
蒼が怪訝な表情で竜殺しの顔を覗き込む。
「……君は……ソロモンを、完全に殺したのか?」
かなり深刻そうな顔で尋ねてくる竜殺し。答えるべきか悩ましいところだが、状況証拠的には完全に俺が倒したことはバレるよな。
「佐渡、アンタも話を聞きたいんだよな?」
「まぁね」
俺は頷き、そして決めた。
「詳しく話してやる。が、契約だ。俺のことについては誰にも話さないで欲しい」
「俺はそれで構わない」
「えぇ? いやだって、仮にこの人が敵だったとしても報告出来ないってことでしょ? それ、ヤバくない?」
直ぐに了承した竜殺しと反対に、佐渡は渋っているな。まぁ、当然と言えば当然だが。
「報告は出来なくとも、俺を殺すことは出来るだろう。一級が二人も集まって人一人にすら勝てないなんて言うつもりか?」
「……そこまで言われたら、受けるしか無いよね」
俺が挑発するように言うと、佐渡は簡単に乗ってきた。
「じゃあ、契約だ。手を出してくれ」
俺は二人の手を握り、契約の魔術を行使した。




