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彩雲

 三対六枚の翼をはためかせる天使の如き悪魔、ベリアル。それに相対するは虹に輝く靄のような雲を纏う長身の女。


「いやぁ、本当に良く頑張ったねぇ。後はこの彩雲に任せておくと良い」


 女は地面に倒れた御日の頭に手を乗せ、軽く撫でた。


「良いねェ、早速次のチャレンジャーたァ驚いたぜェ」


「こんにちは、ベリアル。まさかあの有名な悪魔と生で会えるとは、私も驚いたよ」


 美男子と美女。向き合う二人はどちらも自信に満ちた表情を浮かべている。


「そうだァ、最初の熾天使にして王の悪魔……このオレを前に人間一人で勝つ気かァ?」


「そうとも。私はただの人間だけどねぇ、同時に一級の位を頂いた狩人の一人でもある。この最強の称号を頂いた以上、如何に強大な相手でも負ける訳にはいかないのさ」


 至近距離で視線をぶつけ合う二人。初めに動いたのはベリアルだった。


「さァて……睨み合ってる暇はねェからなァ、始めさせてもらうぜェ?」


 腕を振り上げるベリアル。その手に紅蓮の炎を放つ橙色の光の槍が生み出され、長身の女に振り下ろされる。


「全く、危ないな」


 しかし、その槍は女の周囲で幾重にも重なり漂う帯状の虹、彩雲のヴェールに触れて消滅する。


「……何だァ?」


 ベリアルは不愉快そうに顔を歪め、自身に向かって漂ってきた虹を避けた。


「これはね、彩雲さ。雲の中にある水滴による太陽光の反射、その度合いの違いによってキラキラと虹のような光を放つことがある……その彩雲と見た目がよく似ているから、そう名付けたって訳さ。ふふ、中々格好良いだろう」


「ッ、由来なんざ聞いてねェんだよッ!!」


 謎の能力の秘密を聞けるかと耳を傾けていたベリアルだったが、どうでも良い内容だったので顔に筋を浮かべて苛立ちのままに拳を振り上げる。


「彩雲よ」


「ッ!?」


 槍で駄目なら拳ならと殴りかかったベリアルだったが、その拳が彩雲に触れた途端に超高速で魔力を吸い取られていることに気付いた。


「なるほどなァ……タネは分かったぜェ?」


「大袈裟だね、ベリアル。別に隠していた訳でも無いさ」


 朧に揺れ動く彩雲。その本質は魔力の吸収と術の分解。故に、ベリアルの創り出した魔力製の槍は消滅してしまったという訳だ。


「……良いねェ」


 ベリアルは笑みを浮かべ、彩雲を纏う女を見た。


「テメェも中々おもしれェじゃねェかァッ!? 名前ッ、言ってみろォッ!!」


 ベリアルの言葉に、女は不敵な笑みを浮かべた。


陽景(ひかげ) 瑞華(ずいか)。だけど、私は二つ名である彩雲の方が好きだから、そっちで呼んでくれた方が嬉しいね。人に付けられた名前よりも、自分で付けた名前の方を気に入るのは当たり前だろう?」


「分かったぜェ、ヒカゲだなァッ!?」


 噛みつくように笑うベリアルに、陽景は溜息を吐いた。


「よりにもよって、苗字の方かい。可愛らしさも美しさも無いよ。いやしかし、かと言って瑞華と呼ばれるのも少し照れ臭いからねぇ。あぁ、下の名前は男女の親しさがどうこうとかじゃなくてね、瑞々しく華々しいなんて名前、もう二十歳も超えて三十に近付いている私には――――ッ!」


 慌てて体を逸らした陽景の眼前を拳が通り過ぎた。


「どんだけ長々と喋れば気が済むんだァッ!? 戦闘中だぜ今はよォッ!!」


「おっと、これはすまない。何と言っても、私は喋ることが好きなんだ。次いで、本を読むこと。研究すること。後は、映画を見ることなんかも――――ッ!」


 またベリアルの拳が振るわれ、陽景はギリギリでそれを回避した。


「喋り過ぎだっつってんだぜオレはァッ!! 良く喋る癖に耳は付いてねえみてェだなァ!?」


「……ふむ」


 陽景は近くでまだ動けずに居た御日を抱えると、ふわりとした動作で後ろまで大きく跳んだ。


「一先ず、この子は逃がさせて貰おうか」


 彩雲がもくもくと膨らんで御日の体を包み込み、そのまま何百メートルも下の地面へと下ろしていく。


「おいおい、逃がして良いなんて言ってないぜェ?」


「悪いが、駄目と聞いた覚えもないね」


 陽景の言葉に、ベリアルはハッと笑った。


「確かになァ……ま、良いだろ。このベリアル様もガキ一人殺すのに執着する程ダサくはねェ」


「それは何よりだ。格好良いよ、ベリアル」


 ベリアルは笑みを固まらせ、陽景を睨んだ。


「何かよォ、テメェ馬鹿にしてるよなァ? なァ!?」


「いやいや、とんでもないね。ほら、話に伝わる熾天使をそのまま現世に降ろしたような美しい翼、大昔の彫刻家が彫ったような美しい顔……いやぁ、格好いいね。ふふ」


「ふふ、じゃねェよ女ァッ!!」


 小馬鹿にしたような陽景の笑みに、ベリアルは怒りに身を任せて飛び掛かった。当然、彩雲はベリアルを呑み込んで魔力を吸収していくが、拳自体は止まることは無い。


「いやぁ、怖いねぇ」


「ッ、ズルくねェかァ!?」


 しかし、ベリアルの拳は陽景に触れる寸前で実体化した虹の帯によって防がれる。鋼鉄すらも容易に砕けるその一撃を、彩雲は衝撃すら通さずに受け止めた。


「確かに、私の能力はズルそのものさ。魔力の作用しない攻撃でも、彩雲に触れた瞬間に魔力の吸収自体は行われる。そして、吸収した魔力はそのまま利用することが出来る。例えば、今やったように彩雲を硬化し、障壁として利用するとかね」


「……クソ能力だなマジでよォ」


 闘気や異能など魔力に依存しない攻撃には弱いが、強い魔力を持つ相手にはすこぶる強い圧倒的なメタ能力。それが陽景の彩雲だ。魔力による身体強化すらも強制解除するこの彩雲は一級に相応しい強力な異能と言えるだろう。


「尤も、この能力を十分に活かすには豊富な魔術知識が必要になるけどねぇ。なんたって、この彩雲自体に大した攻撃能力は無い。重要なのは吸収した魔力を……どう使うかさ」


 ニヤリと笑う陽景。彩雲から魔力が妖しく漂った。

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