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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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闇の奔流

 アスタロトの口が大きく開き、そこから黒緑色の液体がレーザーのように放たれる。人体を崩壊させる猛毒でありながら、高圧水流のような速度と威力で迫るそのブレスに、黒岬は手を突き出して漆黒を展開した。神力を含まないそれだが、込められた圧倒的な量の魔力によって猛毒のブレスは受け止められ、消滅していく。


「次は、こっちからだッ!!」


 宙を蹴り、一瞬でアスタロトの懐まで距離を詰めた黒岬は神力を僅かに込めた漆黒の刀を振り上げた。


「グォオオオオオオオオオッッ!!!」


 アスタロトの巨大な腕が振り下ろされ、その竜の爪と闇の刃がぶつかり合う。


「ッ! クソ、流石に力じゃ勝てないか……」


 竜の爪に弾かれ、空中を大きく仰け反った黒岬は周囲の様子を観察する。


(まだ竜の数が多すぎる……スフェイラさんの負担が大きいな)


 黒岬は片手を掲げ、そこに巨大な漆黒の槍を生み出すと、ブレスを構えていたアスタロトに向けて放り投げた。


「黒刃乱舞」


 続けて、黒岬は自身の周囲に八つの刃を生み出した。ギロチンの刃のようなそれは無茶苦茶な軌道で飛び回りながらスフェイラを囲む竜に向かって行く。


「……ちょっと、使い過ぎたかも」


 全てに僅かな神力が込められたそれは次々に竜の首を刈り取っていくが、聖痕(スティグマ)から与えられる神力には限りがある。八つの刃全てに神力を籠めるのは少し贅沢な使い方だろう。


「助かりました、エイボスの少年」


「俺は通也です。黒岬 通也」


 黒岬はスフェイラの横に並び、四十体も居た竜がブネを残して全滅したのを確認した。


「分かりました、通也君。それと、悔しいことですが私よりも貴方の方が強い力を持っているようです。アスタロトは、任せてもよろしいですか?」


「勿論」


 黒岬は笑みを浮かべ、無数の毒の球体を浮かべるアスタロトに視線を向けた。


「黒刃乱舞ッ!」


 黒い八つの刃を呼び寄せ、アスタロトに向けて放つ。不規則な軌道で迫りながら、放たれた毒の球体を消し飛ばしていくそれをアスタロトは不快そうに睨み、そして両翼を広げた。


「ガァアアアアアアアッッ!!」


 広げられた竜の翼に合わせて無数に開く魔法陣。それらから黒い金属のメイスが顔を出し、一斉に放たれた。


「ッ、無視だッ!」


 黒い刃は黒岬に向けて放たれるそのメイスたちを無視し、アスタロトに迫る。一方、百を超えるメイスの標的となった黒岬は両手を突き出し、そこに漆黒を広げ、一滴だけ神力を零した。

 まるで空間に広がっていく黒いシミのようなその漆黒に触れたメイスはガリガリと抵抗するような音を立てながら闇に呑まれて消えていく。


「……受け切れた、か」


 百を超えるメイスを何とか受け切った黒岬は漆黒を消し去り、アスタロトを見た。


「ガァアアアアアアアッ!」


 八つの刃は消え去っており、代わりにアスタロトの巨大な体には刃が通り抜けたような細長い傷跡が幾つも付けられていた。


「ガァッ、ガァァ……」


 その傷跡から流れ出ていた黒緑色をした猛毒の血が止まり、代わりに色鮮やかな緑の植物が生え出て傷口を塞いでいく。


「ぐ、ォぉ……ッ!」


 赤い鱗の間から植物を生え育たせるアスタロトの爬虫類のような瞳に、僅かに理性が戻る。


「良かろう、人間……認めよう、貴様は戦士だ」


 アスタロトはそう言うと、両翼をまた広げた。すると、身体中から生えた植物が更に育ち、大木の幹ほど大きくなった茎が膨れ上がっていく。


「ッ!」


 膨張する茎。その先は恐らく破裂。黒岬はそれを見て思わず防御姿勢を取ったが、結果は黒岬の予想とは全く違っていた。


「さぁ、()()()()


 膨らんだ茎が食い破られ、内側から竜が飛び出した。竜の中でもワイバーンのようなそれだが、無数の茎から生まれる無数の竜達の口元からはだらだらと黒緑色の毒液が垂れている。


「これは……ッ!」


 黒岬は焦りの表情を浮かべ、思考を巡らせる。


(もう一回、黒刃乱舞を……いや、でも神力を使い過ぎるのは……)


 黒岬が悩んでいるその間にも、アスタロトの生み出す竜は数を増している。止まる気配の無い植物からの出産はもはや無尽蔵かという程だ。


「迷ってる暇は、無いッ!」


 その様子を見て黒い刃を三つ顕現させた黒岬。


「そっちがその気なら、こっちもだッ!」


 黒岬は両手を突き出し、体から魔力をひたすら湧き出させた。闇の異能によって無尽蔵に引き出されるその魔力は本来黒岬が制御できる量を超えているが、神力によってその上限は引き延ばされている。


「全員纏めてッ、消し飛ばすッッ!!!」


 幸い、相手は空中だ。全力で攻撃しても街や人への被害はそう無い筈だ。黒岬は人生初の全身全霊をその一撃に注ぎ、既に百を超えている小型の竜の群れを睨んだ。


「ギャゥ!」

「ガァァッ!」

「ギィィッ!」


 最初に生み出された竜達が黒岬に迫るが、三つだけ生み出された黒い刃が黒岬を守り、近付いた竜を切り刻んでいく。溢れた毒の体液は黒岬から溢れる膨大な闇の魔力が弾き飛ばす。


「こ、れで……ッ!」


 滲み出る脂汗。走る緊張。初めての試み。その中で、黒岬は遂に完成させた。



「――――消えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」



 突き出された両手、そこから放たれるのは超高密度の闇の魔力。それでもアスタロトを簡単に呑み込んでしまえる程に広がる闇の奔流は、竜の群れを巻き込んでアスタロトを呑み込んだ。

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