表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/504

穢れたる女神

 首を切り裂き、向こう側へと通り抜ける漆黒の刀。手応えはあった。間違いなく、首を斬り落とした。そう黒岬は確信した。


「……は?」


 確かに首を断った筈のアスタロト。しかし、黒岬の目の前の悪魔は何故かぽろぽろと涙を流しながら無傷で佇んでいる。


「あぁ、憐れなる我が信徒よ……可哀想に……可哀想に……」


 黒岬は怪訝な表情を浮かべつつも、もう一度アスタロトに斬りかかった。無防備に涙を流していたアスタロトはそれを避けることも出来ず、また首を斬られた。


「あぁっ! また一人……無辜の信徒が、憐れにも野蛮なる神敵によって……」


「それ、どういう……」


 また無傷で涙を流すアスタロトの言葉に引っかかった黒岬は地上を見下ろし、そして気付いた。


「ぃ、や……ぇ」


 地面に転がる、二つの()()()()()()。黒岬は気付いてしまった。その死体の正体に。


「ぅお、ぉえッ」


 耐えきれず嘔吐する黒岬。自身が、何の罪も無い人間の命を間接的にとはいえ奪ったことに、平凡な高校生の心では耐えきれなかったのだ。


「そうだ。それが、お前の罪だ。良く噛み締め、そして……死ぬが良い」


 アスタロトの手元に顕現した純白の槍。それが項垂れる黒岬の頭部へと突き出された。



「――――神聖執行部、スフェイラ。任務を執行します」



 黒岬の頭を貫こうとしていた槍の穂先が飛来した何かによって弾かれる。それを為したのは、銀色の長髪の女だ。背からは白銀の翼が生え、その手には黄金の装飾が施された白銀のライフルが握られている。


「起きなさい、少年。悔いている暇はありません」


「で、も……俺、人を……」


「殺していません。殺したのはあの悪魔です。憎く、汚らわしい、穢れた、悪魔です」


「何だと、貴様ッ!!」


 槍を弾かれても尚、黒岬に止めを刺そうとしていたアスタロトだったが、スフェイラの言葉にそれを止めた。


「起きて、そして戦って下さい。この悪魔を滅することこそが犠牲者への唯一の報いです。それに、この街を守る為には――――ッ」


「死ね」


 黒岬に語りかけていたスフェイラに純白の槍が迫る。


「ッ、片手間とは行きませんね……!」


 スフェイラは顔に迫っていた槍を回避し、そのままライフルを叩き付けて弾いた。


「避けるなッ! 大人しく神の裁きを受けよッ!」


「貴方はもう、神ではありません」


 スフェイラは幾度も振られる槍を躱し、()なし、そしてアスタロトの顔に向けてライフルの弾丸を発射した。


「ぐッ、ぬッ、ォオオオオッッ!!?」


 神聖な輝きを放つ銀の弾丸は身代わりを許すことなくアスタロトの眉間を貫き、風穴を開けた。続けざまにスフェイラは弾丸を放とうとして……



「――――ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」



 竜の咆哮がスフェイラの手を止めた。生物としての格の差を知らしめるその咆哮は人間を心の底から震え上がらせる。


「ッ、やはり、一筋縄にはいきませんか……ッ!」


 震える手でライフルを構えなおすスフェイラ。その銃口の先に居たのは、純白の天使の姿をした女神の如き美しさの女……ではなく、顔以外の全身を竜の鱗に覆われ、天使の翼すらも竜の翼と化した怪物だった。


「クソ……クソ……私はッ、私は女神だッ!!」


 嘆きの声を上げるアスタロト。竜の尾がその激情を現すように跳ね上がる。


「邪魔だッ!!」


 スフェイラの放った弾丸をアスタロトは軽く避け、鋭い竜の爪でスフェイラへと切りかかった。


「ッ!」


「避けるなと言っただろうッ!」


 竜の爪を何とか回避したスフェイラは白銀の翼をはためかせて数十メートル後方まで飛んだ。


「『転廻(メテンサルコシィ)ッ!』」


 距離を離したスフェイラのライフルが銀色の光を放ち、二丁の拳銃に変化する。


「『聖弾(リエリスフェイラ)』」


「ぐッ、ぬッ!」


 二丁の銃から連続で何発も発射される弾丸。神聖な輝きを放つそれは、アスタロトの体を貫き、その傷跡に白銀の光を残す。


「私は女神だッ! 悪魔などではッ、断じて無いッ!!」


「いいえ、悪魔です。聖なる弾丸が貴方を貫いていることこそがその最たる証……貴方はもう、女神ではありませ――――ッ!」


 紫色の火球が迫り、スフェイラは慌てて回避した。


「もう良い。もう良いぞ……貴様は、不快だ。生かしては、おけない」


 アスタロトが不気味に竜の翼を広げた。


「ガァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 響く咆哮。すると、空に無数の魔法陣が開き、そこを門として無数の竜が現れた。


「ガァァアアアアッ!!」

「ギャァアアアアウッ!!」

「ォォオオオオォオォオオォォ……!」


 空を舞う多種多様な竜を見て、スフェイラは戦慄の表情を浮かべた。


「ッ、こ、れは……ッ!」


「もう良いと、言ったのだ。貴様が悪魔アスタロトとしての私を望むなら、そうしてやる」


 アスタロトはその冷たい表情でスフェイラを睨みつけ、現れた竜の群れは二人を囲んで周囲を飛んでいる。


「竜達よ……喰らえ」


「ッ!」


 一斉に動き出した竜の群れ。一体一体が最低でも三級は要する彼らの数は四十体。中でも強力なのはアスタロトと同じ公爵の悪魔でもあるブネという竜だ。

 犬、グリフォン、人間の三つの頭を持つ不気味な竜である。


「承知しました、アスタロト様」


 竜達の中でも真っ先に飛び出したブネはグリフォンの頭でスフェイラを食らおうと大口を開ける。


「『聖弾(リエリスフェイラ)』」


 その口の中に放たれた神聖なる弾丸。しかし、犬の頭がバウと吠えると凄まじい衝撃波が放たれ、その弾丸はあらぬ方向へと飛ばされた。


「この通り、無駄でございます」


「ッ!? 不味い……ッ!」


 饒舌に喋る人間の頭がにこりと微笑み、グリフォンの頭が人一人呑み込めるような大口を開いてスフェイラに迫った。



「――――どりゃぁあああああああッッ!!!」



 グリフォンの頭が凄まじい勢いで殴り飛ばされ、ブネの巨体はビルに叩き付けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ