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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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堕天

 日本で最も栄える都市、東京に数体の悪魔が現れた。



「――――殺戮を齎そう」



 赤い衣服と王冠を身に着け、赤い馬に乗った男の悪魔、ベリト。



「――――安心したまえ、殺しはしないとも」



 黒い豹の毛皮を纏った、炎のように燃え盛る目を持つ男の悪魔、フラウロス。



「――――ぁ、ロ、フォカ……お、レは……天、に……」



 グリフォンの翼を持った男の悪魔、フォカロル。



「――――私は女神アスタルテッ! 救済を求める者は私を信じッ、崇めよッ!」



 純白の翼を広げた天使の如き姿の美しい女の悪魔、アスタロト。



「――――ギャハハハハハッッ!!! 良いじゃねェかァ! 中々にカオスだァッ!!」



 燃え上がるチャリオットに乗った美男子の悪魔、ベリアル。


「ギャハハッ、良いねェッ! イカしてんなァッ! 最高だなァッ!」


 この五体の中で唯一王の位にあるベリアルは他の悪魔を見比べ、豪快な笑みを浮かべる。


「んーッ! テーマは()()ッ! 失った権威を知らしめて行こうぜェッ!」


「そう、私は堕天使だとも」


 ベリアルの言葉に頷くフラウロス。同時に周辺一帯が炎の海に変わり、人々が狂乱の声を上げながら逃げ惑う。


「さァ、固まってたって面白くねェ……全員、好きにやろうぜェ!」


 ベリアルの姿が消え失せる。続けてベリト、フラウロス、フォカロルもそこから消え失せた。


「忌々しく穢れた悪魔達は去ったッ! しかし、その脅威は未だ去っていないッ!!」


 残ったアスタロトが高らかに叫び、その天使の翼をはためかせて空へと舞い上がる。


「私を信仰せよッ!! 崇めッ、救いを求めて祈れッ!! さすれば私は、必ずお前たちを救うだろうッ!!」


 アスタロトの声は周辺の人間全員の脳内に直接響き渡る。


「そうだッ、私を信じてくれッ! 信じる者は救われるッ! いや、私が救ってみせるッ!!」


 アスタロトの言葉に耳を傾け、少しでも救いを祈ったものは即座にその場で膝を突き、手を合わせていた。


「あぁ、聞こえるッ! 救済を求める声がッ! 民の悲痛な叫びがッ! あぁ、思い出す! 思い出すぞあの頃をッ!!」


 アスタロトはどこか狂気を感じる笑みを浮かべ、大げさに手を広げた。


「お前たちの声、届いたぞッ! これが最初の救いだッ!」


 アスタロトが広げていた腕を戻し、パチリと叩いた。


「どうだッ、これが奇跡だッ!!」


 東京を襲っていた火の手が一瞬にして消え去り、祈りを捧げていたものに付いていた傷が全て消えていく。死にかけていたものは息を取り戻し、四肢の欠損すら再生する。


「ぎゃぁぁああああッッ!!?」

「熱いッ、痛いぃいいいッ!!」

「なんでぇっ!? なんで燃えてるのッ!?」


 しかし、代わりに祈りを捧げなかったものの体には消えた筈の炎が燃え上がり、祈りを捧げたものから消え去った傷が付けられた。

 中には突然四肢が消滅したものや、呼吸困難になり死に至る者も居た。


「私を信じろッ!! 信じる者は救われるッ! いや、信じる者のみ救われるのだッッ!!」


 祈った者は生き残り、そうでない者は死んでいく。正に神の如き、傲慢な選別。止める者など誰も居ないかと思われたその暴挙に、待ったをかける者が居た。


「俺は信じないけど」


 アスタロトの背後に現れたのは、闇の翼を生やし、漆黒の刀を握った少年。


「何だとッ!? お前は私が誰だか分かって言っているのかッ!? 私はアスタルテ、メソポタミアの女神だッ!」


「女神? ま、丁度良いよ。俺、自分より強い魔物と戦ったこと無いから」


 少年の名は黒岬 通也。ダンジョンによって闇の魔力と膨大な魔素を得た高校生だ。


「貴様……貴様貴様貴様ッ! 良くも私を魔物などと呼んだなッ!! この、私をッ!! 醜い魔物などとッッ!!!」


「良いから、来なよ。俺、多分最強だし」


 黒岬の言葉に、アスタロトは表情を憤怒に染め上げた。


「もう良い、もう許さぬ。女神たる私を見下す者など、居てはならない」


 アスタロトが右腕を掲げると、そこに暗い緑色をした液体が生まれ、球状にまとまった。


「死ね」


 緑の球体が黒岬に向かって飛んでいく。呆気なく回避された球体は地面に落ちていき、べちゃりと信者の足元に落ちた。


「ぎゃぁああああああああああッッ!!? か、神よッ! 神よッ!!」


 液体に浸かった足からドロドロと高速で溶けて行く信者。後数秒で体全てが溶けるかというところで、その腐食が止まった。


「あぁ、憐れなる我が信徒よ……当然、救うともッ!」


 信者のその肉体が再生していき……そして、アスタロトの視線が黒岬に向いた。


「ッ、な、何だこれ……?」


 黒岬の肩から下の皮膚がむずむずと疼き、痒みを呼び起こした。


「ほぅ、我が猛毒を肩代わりしてその程度で済むとは、確かに吠えるだけのことはあるな」


「は? 肩代わり?」


 アスタロトの言葉に怪訝そうな表情を向ける黒岬。


「そうだ。肩代わりだ」


 そう言って、アスタロトが右腕を上に伸ばすと……そこからボトボトとマグマが零れて行く。それらは当然地面に向かって落ちていき……


「ッ!」


 黒岬は焦りの表情を浮かべながら手を突き出し、闇の魔力の波動を放ってそのマグマを消し飛ばした。


「お前ッ、殺すからなッ!」


 まだ何かされる前にと、黒岬はアスタロトに漆黒の刀で斬りかかった。アスタロトはそれを回避しようとするが、後ろに出現した闇の壁によって退路を阻まれ、回避不能な状態に陥る。


「ぜりゃァッ!!」


 アスタロトの首を、漆黒の刀が切り裂いた。

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