暗闇の中で
美帆は一人、会社を出て帰宅の途についた。残業で時刻は23時を指し、早く帰って寝たかったので急いでいた。
しかし丁度の雨で、傘をさして僅かな街頭の灯りの下、水溜まりのない場所を選びながらの急ぎ足だった。
──その時だった。
雷鳴の中、街中の灯りが消える。雷による停電であろう。
空には雨雲、ビルの影で一切の光がない。車のヘッドライトが遠くの通りに見えたがそれだけだ。
そう言う時こそ、他の神経が過敏になる。なぜかゾッとして鳥肌がたった。
なにかがいる──。
美帆はさしている傘の持ち手を前に向け、自分の前をそっと横薙ぎにした。
ホッ。何もない。
少しばかり安心した美帆は、今度は大きく左から右へと横薙ぎにする。
やはり。何もない。
自分の臆病さから、なにかいると思い込んでしまったのだと苦笑した。肩が少し濡れてしまったなと思いながら、二、三歩進んだ。
そして思い立って、また左から右へと傘を横薙ぎにした。今度は背中までだ。
何もないと思いながら遊びのように背中まで傘を回すと、バサリと音がして何かに当たった。
美帆は振り向けなかった。