5
俺はなんやかんやあり村を全滅させてしまった。
「あーあ、やっちまたなぁ」
最後の村人の亡骸を見下ろしながら、俺は今更ながらに後悔に襲われる。なんで俺は異世界に来てまで人殺しなどしているのだろう。こんなこと本当に俺のやりたいことか? 確かにこの世界の人間は俺からしたらなんの思い入れもないし、一切関係ない人物たちかもしれない。けれど種族としては一応同じ人間だ。人が豚を殺すことには何の罪も発生しないが、人が人を殺すという行為は多くの人に否定されてしまうことだろう。
それがなぜいけない行為なのかということは分からない。恐らく論理的に考えて理解できることではないと思う。それは恐らく人間という生き物の根幹に根付いていて、誰にも触れられることのない不変で当たり前で不確かな記憶なのだろうから。
「まぁ深く考えても仕方ないとは思うけどな」
そんなことを考え始めればキリがない。どこまで行っても水平線。大海原。キリマンジャロだ。俺は遠くを見つめない。今を見つめる。異世界転生したという今を見て、そこから何ができるのか考えていくのだ。
「まぁ俺のやることは変わらないさ。とりあえず魔族を滅ぼし、世界最強になる。これだな」
そのために行動しよう。
で、あるならばだ。
「とりあえずそこんじょらの奴じゃ今の俺に太刀打ちできないということは分かった。もうこれはいきなり魔族共に挑んでもいいんじゃないか?」
グダグダやってても結局は同じことだ。例えば同じような村を見つけてもう一度滅ぼしたところでなんの発展もないし、意味もない。まぁ今度は街単位で滅ぼしてみるというのも一つ面白いかもしれないが、そこまでするくらいなら魔族の集落を落としてしまったほうが早いという話になってくる。
「まずは情報収集だな。魔族を見つけるんだ」
俺は探知魔法を発動させた。
とりあえず街を見つける。そこで聞き込み調査を行い、魔族の情報を集めるんだ。そのうえでもう一度作戦会議を開こう。
「お、こことかいいんじゃないか」
俺は生体反応が一箇所に集まっている箇所を見つけた。
「でも少しおかしいな。範囲が小さすぎるというか」
確かに生体反応の数自体は相当なものだ。おそらく千はくだらないだろう。だが縮尺から考えてやけに反応が密集しすぎているような気がする。
「まぁ行ってみれば分かるか」
もしかしたらそういう街もあるのかもしれない。
「とう!」
俺は毎度のごとく身体能力を強化し、その地点まで突っ走った。
五分とかからずその場所に到着する。
そこは森の中だった。
そして目の前に洞窟があった。
この中に大量の生体反応がある。
中に入ってみる。
かなり暗い。
「前が見えないぞ……これはまたもや魔法の出番というやつじゃないか?」
俺は試しに光る球を作り出すイメージをしてみる。
すると目の前に人の頭くらいの大きさの光球が生まれた。
蛍光灯のようにほどよく明るい、完全にイメージ通りの代物だ。
「流石は俺様、天才だな。これで歩いていけるな」
そうして光球を頼りに、俺は歩を進めることにした。
けれど一つだけだと少し心もとなかったので、百個くらい作って前方や後方に広く伸ばす。
すごい、なんとなくやってみたけど案外スムーズにいくもんだな。ホントになんでもできそうな勢いなんですが。
そして少し歩くと、かなり広いスペースに出た。
学校の体育館くらいのデカさだ。
「くさ!」
俺は思わず鼻を塞いだ。
あまりの異臭に思わず嘔吐してしまう。
げぇげぇ。きもちわるい……
地面には腐敗物としか言いようのない物がごろごろと転がっていた。
それが何かというのを言葉で言い表すのも嫌なくらい、醜悪というものを体現した何かが大量にたまっている。
「は、鼻を麻痺させろ!」
俺は耐えられず思いつきのままに魔法を唱える。
すると途端に、苦痛が和らいだ。
匂いを感じなくなったのだ。
なんとなく状態異常の魔法で、自分の嗅覚を麻痺できるんじゃないかと思い、やってみた。すると完璧に上手く行った。
「くそ、許さん、許さんぞおお、俺にここまでさせやがって!」
ぽたりと何かが地面に落ちた。
上から降ってきた……?
見上げてみる。
そこには大量の何かが天井にぶら下がっていた。
慌てて生体反応を確認してみる。
まさにこの場所にそれらの反応はあった。
「こ、コウモリ……?」
そのシルエットは明らかにコウモリだった。
だが俺の目がおかしくなければの話だが、サイズが明らかに大きいように思えた。
成人男性くらいはあるだろうか。
そんな巨体をもつコウモリたちが、数百匹という規模で天井にぶら下がり、俺の方を凝視してきていたのだ。
……ああ、なるほど、合点がいった。俺はなんとなく生体反応を感知する魔法を行使していたが、その条件を詳しく決めていたわけではなかった。おそらくは無意識のうちに人間以上のサイズを感知するように設定していて、それらに当てはまる人間以外の生物も捉え感知してしまっていたのだ。つまりこのコウモリたちも相当な大きさを誇るため、こいつら全ての個体を反応として感知してしまったがゆえに起こったことなのだろう。
「なんだよそれ、折角ここまできたのに面倒クセェな!」
俺はついキレてしまった。
その声に呼応するように、コウモリたちが一斉に俺を襲ってきた。