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俺は謎の場所で謎の人物と対峙していた。
「そうですか、どうしても僕に情報を握らせたくないとそういうことですか」
「無論そういうことになるな。だが勘違いしないでほしい。私は別に君が嫌いで嫌いで仕方がないといわけではない。むしろ君を好きか嫌いか、どちらかにカテゴライズするなら好きな部類に置いておくだろう。ただ今回教えないという行為に及ぶのは、ただ単に教えないことで私が気持ちよくなりたいという一心によるものさ」
「最悪な人ですね。じゃあいいでしょう、別の質問に切り替えてあげます。ここはどこなのですか? そしてあなたは誰なんですか?」
「おっと、一気に二つも質問をするのかい? 随分と欲張りさんじゃないか? その辺の教育はどうなっているのか、私は君に尋ねることはできるのだろうか」
「できませんね。今は僕が質問をしているターンです。あなたのターンはまだ到来していません」
「実にその通りだね、おーけー、それじゃあまずここがどこかということから教えよう。ここは天国さ。そして私は誰かという問いには、神であると答えておこう」
「へー、天国なんだ。その割には随分チンケな場所ですね」
遊園地が天国だとは思えない。
しかしそれを否定する要素は持っていない。
「結構あっさりと信じるんだね」
「そうでないと先に進まないでしょう。ここで仮に僕があなたを疑うという行動を取ったとします。しかしそれが何になるというのですか? あなたに歯向かったところでここはあなたの土俵だ、何も抗えやしない。それに場合によってはあなたを凄く怒らせることになる。そうではありませんか?」
「はは、ビンゴ、マジでビンゴだよ。よし分かった。気に入ったよ。君を異世界に連れて行ってやろう。本当はどちらにするかで迷っていたんだ。君を異世界に連れて行くか、連れて行かないか。でもこれでハッキリした。君は異世界に転生するべき人材だ。すぐにでもするべきだ」
「異世界ですか、これまた聞き慣れない言葉が飛び出してきたもんだ。その異世界というのは一体どういう世界なんです?」
「物凄い世界とだけ言っておくよ。動物がいて、人間がいる。ワニなんかもいるんだ! そして何と言っても魔法だね。魔法が使える世界なんだよ」
「魔法ですか、それは楽しみですね。ですが楽しみであることと楽しみたいと思っていることとはまた別の話ですよ。あなたは僕を楽しませることができるのかな?」
「それは補償しかねるね。あくまでも楽しむという感情は君の内に依存しているものだ。僕は精一杯君をもてなす用意はできているが、これをどう思うかに関しては君にしかわからない」
「まぁいいですよ、それじゃ僕は異世界に転生して、果たして何を成し遂げればいいというのですか?」
「そうだなぁ、特にはないがやはり目標というものは必要かな。どんな人間も乗り越えるべき壁がなければ堕落する。その壁が高すぎても挫折するだけなんだけどね。だから君にもある程度の障害を用意してあげよう。その世界には魔族という存在がいるんだけど、これが人間と常に争いを引き起こしてるまぁいわゆる人間の宿敵なんだよ。これをその世界から全て排除することができれば、君の願いをなんでも叶えてあげるとしよう」
「なんでもときましたか。そうというのであれば、僕は大量のアイスクリームをゲットしたいと考えている。これも果たして可能だというのですか?」
「もちろん、そんなの序の口も序の口だよ。君のお腹がピーピー丸になるくらいのアイスクリームを用意してあげるよ。これでいいだろう?」
「完璧、たしかに丁度いいモチベーションを管理できる条件だ。よしのった。僕はその世界に魔族を絶滅させる。僕がその世界の人間を、魔族の恐怖から救うんだ」
「それはすごいいい意気込みだね。でもそれはすごく困難な道のりになると思うよ」
「そこは神様がなんとかしてくれるんじゃないですか? 僕に凄い力を付与してくれればそれでいいじゃないですか」
「それは無理なことだ。なぜなら与えられる力の限界は決まっているからね。でも逆にいえばその限界までは力を与えることができるということだ。その匙加減は僕の手ひとつにかかっているんだけどね」
「そういう脅し文句得意ですよねぇ。そうですね。いいでしょう。乗ってあげますよこれでいいんでしょ」
俺は神様に向かって土下座した。
額を床にすりすりとこすりつけ、これでもかと力をこう。
「お願いします神様。僕に最強の力を付与してください」
「はぁ冷めたよ。まさか君がそんなことをしてくる人間だとは思わなかった。おしおきに最低の能力を君に授けるとするよ」
「そ、そんなぁ、やり直したい、凄くやり直したいです」
「うそだぴょーん、君にはとんでもなく凄い能力を与えてやろう。どうだい、神の懐の大きさが身にしみるかい?」
「染みてきますよ、染み込んできます。これが神様のエキスですか。たまんないですね」
「ありがとう、それじゃ君は最高の異世界ライフ確定だ。もちろん、君のやる気次第で、という言葉は付け足しておくけどね」