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異世界恋愛【短編】

わたし聖女召喚に巻き込まれただけなんです〜激高な魅了値のせいで本物の聖女が追放に!?逆ハーなんて望んでなかったのに、わたしザマァされませんか?〜


 まずい、まずい、まずい、まずい、ヒジョーにまずい!



「さあカエデ様、みなにお言葉を」



 私の左側で跪き控える赤髪イケメン騎士がわたしにお願いしてきちゃいましたよ。



「そう急かさないの。誰よりも愛らしいカエデ様は微笑まれているだけで尊いんだから」



 同じように右手で跪いている金髪イケメン魔導師が潤んだ瞳で見てますよ。



「だが、みな全てを見通す大賢の聖女様よりのお言葉をお待ちしている」



 私の背後に立つ青髪イケメンくんの低く渋い声に押されるみたいに、思わずわたしは一歩前に進んでしまった。


 その瞬間、下からウオォォォオ!っと怒号のような歓声が上がる。



「聖女様だ」

「我らの希望!」

「聖女! 聖女! 聖女! 聖女!」



 城壁から見下ろすと、スッゴイ大軍勢が声援(コール)を飛ばしながら期待の視線をわたしに向けてくるんですけどぉ。



 どうしてこうなった!!!




 時を遡ること1年――



「おお!」

「成功だ!」

「聖女様がご降臨あそばされた!」



 わたしの名前は(さくら)(かえで)

 ただの女子高生だったんだけど……


 なぜか気づけば見知らぬ大広間にいたの。

 床には大きな魔法陣が描かれているし……


 魔法陣の中心には私達(・・)だけがいて、周囲には黒いローブを着た人達が囲んでいる。



「あなたが聖女様か?」

「なんて愛らしい少女なんだ」

「2人とも落ち着け、聖女様が困ってらっしゃる」



 わたしの前に現れたのは赤髪、金髪、青髪と色とりどりのイケメン。


 ああ、これはあれだ。


 周囲の反応から見ても間違いないと思う。



 聖女召喚よね。



 だけど……


 わたしはチラリと横でボーゼンとしているスーツ姿のお姉さんを見た。


 この女性(ひと)が道端でうずくまって辛そうにしていたから声をかけたんだけど、その瞬間いきなり足元が光ったの。


 驚いて下を見たら、お姉さんを中心に(・・・・・・・・)魔法陣のようなものが出現して、気がついたらここにいたってわけ。



 つまり、わたしとお姉さんは異世界転移したってことで間違いないと思う。



 そして、聖女召喚である証拠が目の前にあるの。


 名前:慈見(ジミ) 奈緒(ナオ)

 年齢:26

 種族:人族

 属性:聖

 職業:聖女

 レベル:1

 HP:6/12

 MP:9999/9999

 攻撃:2

 防御:3

 抵抗:100

 魔力:100

 魅力:10

 スキル:癒しの手Lv1、浄化Lv1、魔法の申し子Lv1



 わたしの目にはバッチリお姉さんのステータスウィンドウが見えてるんだ。



 そう……聖女はわたしではなく隣のお姉さんなんやあ!


 ふわわわ。

 お姉さんてばMPと魔力が激高じゃない。

 スキルも1つ変なのがあるけど、やっぱ聖女って感じよね。

 職業まんま聖女だし。



 それに比べてわたしのステータスは――


 名前:(サクラ) (カエデ)

 年齢:16

 種族:人族

 属性:精

 職業:女子高生

 レベル:1

 HP:14/14

 MP:100/100

 攻撃:3

 防御:3

 抵抗:20

 魔力:20

 魅力:100

 スキル:鑑定眼Lv2、偶像崇拝(アイドル)



 これってスキル鑑定眼のおかげで他人のステータスウィンドウが見えているのね。


 周囲の人達と見比べてみるとレベル1にしては魔力量(MP)なんかの魔法系能力は高いけど、お姉さんとは比べるべくもないわよね。


 なんか異様に高い魅力が気になるけど……


 あっ、鑑定のレベルが2になった。

 聖女を看破した経験値は高いのかも。

 これも聖女効果ってやつかな?


 だけど、この偶像崇拝ってナニ?

 属性や職業も他と比べて変だし!

 嫌な予感しかないんですけど!?



「お部屋を用意しております。聖女様、どうぞこちらへ」



 お姉さんを無視して青髪の眼鏡イケメンがわたしを部屋から連れ出そうとする。



「ち、ちが…わたし聖……じゃ」

「君ホント可愛いねぇ」



 慌てて否定しようとしたけど、ローブ姿の金髪チャライケメンに気安く肩を抱き寄せられちゃって最後まで言えない。わたしはこの手のチャラ男が苦手なのよ。



「せ、聖女は…そっちの……」

「こらジャック、聖女様に馴れ馴れしいぞ!」



 それでも何とか間違いを訂正しようとしたんだけど、わたしの小さな声は鎧姿の赤髪ガチムキイケメンの大声でかき消されちゃった。



「さあ、参りましょう」

「お茶や美味しいお菓子もあるよ」

「だから貴様は聖女様から離れろ!」



 だから、そっちの本物のお姉さんを無視しないでぇぇぇ!



 わたしの心の絶叫も虚しく、3人のイケメンに高そうな家具に囲まれた部屋へ連行されちゃったの。



 お姉さん大丈夫かしら?


 えっ?

 そんなに心配するくらいなら説明をちゃんとしろって?


 わたしってば昔っから口下手だからリームー!

 心では饒舌でも思った言葉が口から出ないのよ。



「さあ、聖女様おくつろぎください」

「あ、あり…と……」

「すぐ侍女にお茶を用意させます」

「い、いえ、おか、お構いな……」



 と、こんな感じでしっかり自分の意思を伝えられないの。



「それでは私からこの度の聖女召喚についてご説明致します」



 わたしがソファーに腰を掛けると、ちょっと神経質そうな青髪の眼鏡イケメンが対面に座って話し始めた。



 ちなみに青髪の眼鏡イケメンは貴族のお偉いさんのグラス・ワークさん、

 ローブをまとった金髪チャライケメンは魔術師のジャック・ナーンさん、

 鎧姿のガッチリした赤髪の筋肉担当イケメンは騎士のキーン・ノゥさん。


 もちろんスキル鑑定眼で確認したの。

 あっ、鑑定眼Lv3まで上がったわ。



 それで、話を戻してグラスさんによると――


 魔族ってのがこの世界にいて昔から人族と争ってたんだって。


 ただ、ここ50年はお互い不干渉が続き平和だったみたい。


 だけど、去年くらいから魔獣が凶暴化し、魔族の動向も活発化してきたんだって。


 これは魔王が誕生したんじゃないかって人類サイドは騒然。


 慌てて魔王と対極の勇者を探したけど見つからず、そうこうしてるうちに魔族の侵攻が始まって人類も対抗したけど……


 もともと強かった魔族の力がより活性化しており、対抗できる勇者がいない人類はなす術もなく連戦連敗。


 切羽詰まった人間サイドは最後の希望、過去の文献にあった聖女召喚に全ての望みを託した――


 で、召喚されたのが、さっきのお姉さん慈見(ジミ)奈緒(ナオ)さんで、それに巻き込まれたのがわたし(サクラ)(カエデ)ってわけ。



「それで聖女様には……」

「あ、あの、わたし聖女じゃありません」



 やっと言えた。


 わたしの告げた事実に3人のイケメン達は目を大きく開けて驚いている。


 もうひと押し。



「わたしはただの女子高生の桜楓です」

「なるほど、良く分かりました」



 グラスさんが納得したと頷いた。


 ああ、やっと理解してもらえ……



「ああ、俺も理解した。つまり、聖女などと大それた呼ばれ方はされたくないと……なんて奥ゆかしいんだ!」

「それに、確かに聖女とお呼びしていては貴女個人としての尊厳を傷つけてしまいますね」

「これからはカエデ様と呼ぶね」



 コイツらぜんぜん分かってないやんけ!!



「ふっ、カエデ様はとても慎み深いお方だ」

「ああ、俺の剣を捧げるに相応しい」



 もうなんなのこの人達……



「お待たせ致しました」



 その時、ガチャと音を立てて扉が開かれメイド服っぽい格好の女性が入ってきた。



 茶器を載せたワゴンを押し、わたし達の前にお茶とお菓子を準備してくれているんだけど……


 鑑定眼で見れば種族が魔族に、職業が暗殺者になってるんですけどぉ!?



「さあ、カエデ様どうぞお召し上がりください」

「の、飲め……ません」

「茶は嫌いだったか?」



 美味いのにとキーンさんがティーカップに手を伸ばした。



「ダメッ!」



 わたしは思わず立ち上がってキーンさんの持つカップを叩き落とした。



「それ毒が入ってる」

「どう言うことだ?」



 ギョッとしたキーンさんがお茶を淹れたメイドさんへ視線を向けると、彼女は少し怯えた素振りを見せたけど、わたしの目は誤魔化せないんだから。


 演技よねそれ。



「お、お疑いなら私が毒味を致しますが?」

「その毒はあなたには効かないんでしょ?」



 毒味で言い逃れしようとしたけど、鑑定眼はお茶に入ってる毒も見抜いてるんだから。


 その毒は人間にしか効果がないんだって。



「あなたみたいな魔族には無効の毒だから」

「なに!?」



 わたしの言葉に驚きながらも、キーンさんは一瞬にして抜刀して女魔族に斬りかかる。


 まさに電光石火!



「ちっ!」



 だけど、驚くべきことに女魔族はその早業をすんででかわした!



「まさか正体を見破られるとは……さすが忌々しい聖女だ」



 そう吐き捨てメイド服をバッと脱いだ女魔族は全身黒尽くめのピッタリした服装へ切り替わる。


 なんだかすごく色っぽい魔族さんね。



「魔族め、聖女様に手を出そうとは!」

「ここから生きて帰れるとは思わないでよね」



 キーンさんが油断なく剣を構え、その少し後ろでジャックさんが杖を掲げる。



「人間ごときが生意気な。こうなれば間怠っこしい真似はやめよ」



 わたし達を見下すように腕を胸の前で組み、不敵に笑う女魔族。


 そのステータスは……


 名前:カルラ

 年齢:35

 種族:魔族

 属性:火

 職業:暗殺者

 レベル:38

 HP:105/105

 MP:150/180

 攻撃:71

 防御:52

 抵抗:58

 魔力:65

 魅力:18

 技能:暗殺術Lv3、変装Lv4

 魔術:火炎系Lv5

 スキル:毒生成Lv3


 あー、これはいかんやつや。


 レベルが20ちょっとのキーンさんとジャックさんに勝ち目ないや。


 能力値の上がり方も魔族の方がいいみたいだし。


 案の定、2人は女魔族(カルラ)に押されて敗色濃厚だ。



「グラスさんは水氷系の魔術が使えるんですよね」

「えっ、ええ、はい使えますが……私の戦闘力は高くないですよ?」



 うん、ステータス見えてるから知ってます。あなたもキーンさん達とたいしてレベル変わりませんものね。


 でも、わたしの読みが正しければ、勝利の鍵を握るのはグラスさんだ。



「わたしを信じてください」

「カエデ様がそこまで仰るのでしたら」



 グラスさんは頷くと呪文を唱える。



「アクアカッター!」



 ブーメランの形状をした水の攻撃魔術がカルラを襲う。



「ふん、人間風情の魔術など――ギャア!」



 小馬鹿にしていたカルラは水刃をモロに食らって悲鳴を上げた。

 予想外の大ダメージにカルラはショックを隠せないでいる。



「バ、バカな!」

「あなたの弱点が水属性だってのはお見通しよ!」



 鑑定眼さまさまね。



「ぐっ、水属性を弱点と看破したのね……だけど、これだけの力量差なら弱点の属性攻撃も意味がないはず……」

「確かに私の魔力ではヤツとは力差がありすぎる」



 えっ、そうなの?



「はっ、そうか!」



 何か思いついたグラスさんの魔術が再びカルラに炸裂する。



「ぐはっ!」



 血を吐き満身創痍で膝をついたカルラを見下ろしグラスさんが頷いた。



「やはり、私の魔術の威力が信じられないほど上がっている」

「確かに本職の僕よりも威力ありそう」

「どう言うことだ?」



 クイッと眼鏡を持ち上げたグラスさんはふっと笑う。



「きっと聖女様が我々の力を上げてくれたのだ」

「なるほど!」

「凄いよカエデ様!」

「ああ、さすが我らの聖女様だ」

「もはや魔族など恐るるに足りぬ」



 勢いづいたイケメンズはここぞとばかりに女魔族をタコ殴り。


 こうして見るとキーンさんもジャックさんもさっきより強くなってない?


 ホントにわたしの能力なの?


 でも、ステータス見てもそんなスキル……あっ、偶像崇拝(アイドル)か!


 画面の文字に触れたら説明文が――


偶像崇拝(アイドル)

 自分の熱狂的信者(ファン)に強力な支援バフがかかる。対象信者の距離が近いほど、信者の熱狂度が高いほどバフ効果が強くなる。また他スキルと違いレベルは上がらないが信者の数で能力UP。頑張って信者を集めよう!


 ……ナニコレ?


 ただのバフ系スキルの上に能力を上げる手段が自分のファンを増やすことって……どんだけ使えないスキルよ!


 だけど今は役に立ったわ。



「おのれ〜人間ごときが……聖女さえいなければ――うぎゃぁぁぁあ!」



 目の前で断末魔を上げてカルラが消えてくれてホッと安心。



「カエデ様の聖女の力の一端を拝見させていただきました」

「凄い力だぜ」

「魔族が命を狙うのも無理ないよね」

「ええ、ですが、私たちが必ずカエデ様をお守りします」

「ああ、それにカエデ様の力があれば怖いもの無しだ」

「あ、あははは……」



 過度な期待に乾いた笑いが漏れる。

 熱狂的な盲目信者が3人ばかり増えました。


 急に力が抜けて崩れるようにソファに腰掛けるとなぜか隣にジャックさんが座って、ぶしつけにジロジロわたしの顔を見てニヤつく。


 何この人?

 馴れ馴れしいんですけど。



「カエデ様って力も凄いけど可愛いさもハンパないよねぇ」



 またか……


 わたしはいつも受けるチャラ男の反応にげんなりした。


 自分で言うのもなんだけど、わたしってば容姿にはかなり自信がある。


 色素の薄いわたしの髪は黒より少し茶色がかって、目も綺麗な琥珀色。

 顔立ちも日本人離れしていて彫りが深く肌は抜けるように真っ白なの。


 ハッキリ言ってそーとー可愛い。

 そこらのアイドルにも負けない。


 だけど、この容姿で得をしたことはない。

 むしろマイナスしかなかったんじゃない?


 男子にモテていいんじゃないって?


 冗談ではない!


 同世代の女の子からはやっかまれ爪弾きにされてたし……

 男からは老若関係なくつきまとわれ怖い思いしてたし……


 満員電車に乗ったら痴漢に会うし、ストーカー被害も日常茶飯事。


 つけ狙われバンに連れ込まれ拉致られそうになったこともあったっけ……


 もうね、軽〜く人間不信なのよ。


 だから、わたしは男の人、特にチャラ男は好きじゃない。


 まあ、口下手で大人しく自己主張が苦手なわたしも悪いんだけど。


 それに、ちょっと顔のいいチャラい男子生徒がやたら絡んでくるんで女子のヘイト集めちゃって女友達が1人もできないの(泣)


 だから、こんなイケメン逆ハー状態なんてノーサンキューなのよ!


 ああ、わたしも女友達欲しかったなぁ。

 欲を言えばキレイでカッコいい人ならなお良し。


 そう言えば一緒に召喚されたお姉さんって美人さんだったなぁ。


 髪を引っ詰めて黒縁眼鏡を掛けた暗い色のスーツ姿で地味だったから分かりにくかったけど。


 マジメで優しそうだったし、グヘヘへ……あんなお姉さんにヨシヨシされた〜い――ッて!



「お姉さん!!!」



 いけない忘れてた!



「どうなされました?」

「あ、あの、わたしと一緒に召喚されたお姉さんは今どこに?」



 すっかり忘れられて怒ってないかしら?


 あっちが本物だし、怒らせたらマズいわよね。



「一緒に?」

「いたか?」

「ん〜僕の目にはカエデ様しか映らなかったなぁ」



 えっ、バッチリ一緒だったじゃない。

 むしろ魔法陣のど真ん中に占拠してたでしょ?



「ジャックと同じなのは不本意ですが、私もカエデ様が召喚された瞬間から他に霞がかかったみたいに貴女以外の者が目に入らなくて……」

「俺もだ。カエデ様が輝いて、その眩しさに他の者などどうでもよくなっていた」

「なんだよグラスもキーンも僕と同じじゃないか」

「ええ、悔しいですが女性の容姿に興味のないと思っていたのに、カエデ様を一目見た時から心が揺れ動くのです」

「お前もか。実は俺も剣一筋で女などと思っていたが、カエデ様の顔が脳裏を離れんのだ」



 ま、まさか!

 これって一種の魅了魔法なんじゃ!?


 そうよ、だってわたしの魅力値は本物の聖女のお姉さんや色っぽい女魔族さえ届かない他の追随を許さぬ100!


 そのせいで3人はおかしくなったんじゃ?


 しかも、さっきの女魔族の経験値が入ったみたいでさらにレベルアップ!


 名前:(サクラ) (カエデ)

 年齢:16

 種族:人族

 属性:精

 職業:偶像(アイドル)

 レベル:8

 HP:28/28

 MP:163/163

 攻撃:10

 防御:10

 抵抗:35

 魔力:38

 魅力:200

 技能:なし

 スキル:鑑定眼Lv3、偶像崇拝(アイドル)(信者3)


 魅力値だけ異様な上がり方してない!?


 もしかして、わたしの立ち位置って………



 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!



「お姉さんもわたしと同じ世界から召喚されたんです!」

「もう1人召喚されていたとは……」

「お願いします。お姉さんに会わせてください!」



 わたしの必死のお願いに3人は大丈夫だとにこりと笑った。



「安心してカエデ様」

「俺達が召喚したカエデ様とご同郷の方を無下には扱わん」

「国より召喚者へきちんと生活を保証し保護する予算がついております」



 グラスさんはすぐに配下を呼んで手配してくれました。

 おお、グラスさん頼りになります。



 ところが――



 部屋でお姉さんを待っていたんだけど、いくら待ってもお姉さんは現れず……



「大変です!」



 現れたのは扉を破るようにやってきたグラスさんの配下の人。



「そんなに慌ててどうした?」

「そ、それが、聖女様のお連れ様が城外へ追い出されてしまったようなのです!」

「そんな!」



 それってマズいやんけ!



「何故そんな仔細となった?」

「どうやら召喚者への支給金を横領しようと聖女様のお連れ様に僅かな金品だけ渡し、その不正を隠蔽する為に追放したらしいのです」

「なんだと!!」



 いぃやぁぁぁぁあ!!!


 やっぱりわたしの立ち位置って魅了で男達を虜にして本物の聖女を追い出しちゃうヒロインのライバルじゃん!?


 これって、お姉さんに恨まれて仕返しに追放ザマァされるヤツやん!!!


 そんなのイィヤァァァア!!


 違うのお姉さん!

 わたしは追放したかったんじゃないの!



「も、申し訳ございません!」



 そして、お姉さんを追放してくれやがったクソヤローがグラスさんの配下達に拘束されて連行されてきた。


 青くなって土下座したって許しまへんでぇ!



「この不埒者め、俺が叩き斬ってくれる!」

「そんなのいいから早くお姉さんを連れ戻してぇ!」



 こんなヤツの生死などどうでもいいのよ。

 処刑してもお姉さんは戻ってこないもの。



「あなたが死んでもお姉さんは戻らないわ。それよりも捜索に力を入れるのが先決よ!」

「こんな私めを許してくださるのですか」

「お姉さんを丁重に連れ戻せたなら許してあげる……でも、お姉さんに何かあれば…分かっているわね?」

「はっ、身命を賭して探し出します!」



 グラスさんの指示のもとお姉さん捜索隊が組織され、数多くの人達が各地へ散った。



「さすがカエデ様」

「うむ、俺も見事な裁きと感服した」



 なんで急に持ち上げられてるの?



「処刑にするより少しでも人員を増やし……」

「かつ命がかかっているから奴も必死に捜索するし……」

「周囲へは聖女の慈愛も示せる一手で三得の妙手だね!」



 いや、わたし別にそんな考えなんてないわよ?



「まさに賢者の如き知謀……このグラス・ワーク感服しました」

「さっきは女魔族の弱点を看破し、見事な作戦で撃退したしな」

「カエデ様はすごいや」



 ちょっ、やめてぇ!

 変に持ち上げないで!



「これからカエデ様を『大賢の聖女』と呼びましょう」

「カエデ様の聖女としての資質は疑いようもないね」

「俺達が魔族を打倒した実績を示せば聖女召喚に懐疑的だった老害どもも黙らざるえまい」



 このままじゃ聖女じゃないって言いだしにくくなる。

 急いで本当の事を3人に教えないと!



「ちょっと待ってください。本物の聖女は……」

「しかし、魔族が城の内部にまで手を伸ばしてくるとは」

「他にも潜んでいるやもしれん」

「大丈夫さ。カエデ様の弱点を見抜く目と能力向上(バフ)があれば魔族の1人や2人ものの数じゃないよ」



 そうだった!


 わたしは魔族に狙われているんだった。


 そして、3人はわたしを聖女って勘違いして崇めるから、偶像崇拝の効果で強くなっているのよね?


 これって偽聖女(プラシーボ)効果!?


 マズイわ!

 わたしが聖女じゃないってバレたら崇拝度が下がって偶像崇拝の効果無くなっちゃうじゃない!


 そしたらわたしを守ってくれる3人が弱体化しちゃうじゃない。


 これって本物の聖女が見つかるまで偽物ってバレちゃダメなやつ!?


 お姉さんが見つかるまで偽物だってバレないようにしないと。



 そして、一年があっという間に過ぎた……


 わたしは偽聖女であるとバレるんじゃないかビクビクしながら、本物の聖女のお姉さんが見つかるのを祈っていたんだけど……


 一向に捜索は進展せず、わたしは本物の聖女のように振る舞う日々。


 そうこうしているうちに、幾つもの魔族との戦闘(エンカウント)聖女の試練(イベント)がわたしの前に次々と立ちはだかり、それを観察眼で弱点をあばいて偶像崇拝(アイドル)で強化された信者(ファン)達の力でクリアしていく度にわたしの狂信的信者が増えていったの。


 魔族によって人族は心も体も傷ついており、他にも町や村への慰問(ドサ回り)、戦意高揚目的の戦地の慰問(地方コンサート)孤児達との触れ合い(握手会)偶像崇拝(アイドル)活動も忙しかったわ。


 気がつけばステータスは……


 名前:(サクラ) (カエデ)

 年齢:17

 種族:人族

 属性:精

 職業:偶像(アイドル)

 レベル:26

 HP:77/77

 MP:586/586

 攻撃:20

 防御:37

 抵抗:132

 魔力:143

 魅力:999

 技能:なし

 スキル:鑑定眼Lv5、偶像崇拝(アイドル)(信者547652)



 …………この魅力値はなに? それにまた信者増えてない!?



 それに……


 眼下に広がる壮大な光の乱舞。



「ははは……」



 数十万人の男たちが生み出すその光景と熱気に乾いた笑いが自然とこぼれた。


 それは魔王討伐の為、魔族と戦う為、各地よりわたしの下に集まった信者(ファン)たち。



「おらぁ! もっと声を出さんかい! 『カエデ様親衛隊』の意地見せろやぁ!」

「ハァ〜イせぇの、ハーイハイ、ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」



 頭には鉄の兜の代わりにドピンクのハチマキを締め――



「『聖女様を見守り隊』は永遠に不滅です!」

「L! O! V ! E! ラブリーカエデ!!」



 鎧ではなく『すきすきカエデ様』と印字されたハッピをまとい――



「我ら『鉄剣の乙女ンズ』、みんな止まるんじゃねぇぞ!」

「言いたいことがあるんだよ! やっぱりカエデはカワイイよ! 好き好き大好きやっぱ好き! やっと見つけた聖女様! 俺が生まれてきた理由! それはカエデに出会うため! 俺と一緒に魔王倒そう! 世界で一番イカしてる! イ、カ、シ、テ、ル!」



 両手に光る剣(ライトセイバー)を持って踊り狂う……



「あははは……」



 眼下に群がる聖女軍団(ファンクラブ)から怒声のような声援(コール)の大音響を聞きながら、涙を流しながら笑うしかないわたし。



 なんなのこのノリは!?

 わたしにここで歌えと?



「ゴラ゙ァ部隊(支部)を乱立するのは許すが、我ら聖女軍団(ファンクラブ)の鉄の掟を忘れんな!」

「聖女様はみなのもの!」

「命に代えてお守りします!」

「抜けがけ禁止!」

「触れざる聖域!」

「イェス!カエ〜デ、ノータッチ!」

「掟を破れば即死刑! 忘れるんじゃねぇぞ!」



 ああ、もう逃げたい。


 見渡す限り人、人、人、人……



 わたしは武道館も横浜マリーナも…そして幕張の伝説の20万人ライブさえ超えてしまった。


 もはや総動員数100万人突破も夢じゃない。

 そんなわたしの職業は伝説のアイドル……



 ううう……


 ショタからイケオジまで色とりどりのイケメン達が徐々に集まり、魔族達を圧倒していったら、いつの間にか数十万人からなる逆ハー状態となっちゃったの!?


 今や破竹の勢いで魔族に対して連戦連勝。


 この城を魔族から取り戻したので、今は聖女の戦勝記念公演(コンサート)のため城壁の外に軍団(ファン)が集まっているのだ。


 えっ、このまま信者を増やせばフツーに勝てるんじゃないかって?


 それは無理なのよ。


 魔王は『瘴気の衣』って言う特殊な闇の瘴気に覆われてて通常の攻撃では全く通用しないんだって。


 だから、いくら私の偶像崇拝で信者が強化されても敵わない。


 魔王を倒すには勇者の聖なる攻撃か聖女の浄化で瘴気を祓ってから攻撃するしか方法がないらしい。


 だから、勇者か本物の聖女であるお姉さんを見つけないといけないの。


 それに偶像崇拝なんてスキャンダル一発で信者を失って無力になっちゃうから完全な砂上の楼閣よね?


 ああもう!

 このままみんなを騙し続けていたら、きっと追放ザマァされちゃうよぉ。


 その前にお姉さんを見つけて保護しなきゃいけないのにぃ!


 うわぁぁぁあん!

 お姉さんどこへ行ったのぉぉぉ!





――――《聖女視点》――――



 私の名前は慈見(じみ)奈緒(なお)


 それなりの大学を卒業して、それなりの会社に就職した――と思ったら、その会社はとんでもないブラックだった!


 4年あまり身を粉にして働いても罵倒が飛んでくるような会社だったわ。



 しだいに私は朝起きるのが億劫になり、食事もただのエサ感覚。

 気力が湧かず不眠症になって体がなんだか重たくなっていった。


 このままでは不味いとは思ったけど、不思議と会社を辞めようとは考えられなかった。


 おそらく、一種の洗脳みたいなものをされていたんじゃないかな?


 そんな日々を過ごしてきたけど、ついに限界を迎えた私は通勤中にうずくまって起き上がれなくなってしまった。


 誰もが他人に無関心。


 一瞥をくれながらも気づかぬ振りして通りすぎていく通行人。



「大丈夫ですか?」



 そんな中、声を掛けてくれた天使がいたの!


 紺のブレザーにチェック柄のミニスカートの女の子。


 どこかの女子高生だと思うけど……ちょっと可愛すぎない!


 染めたのではない色素の薄い自然な茶色がかった髪に大きな琥珀色の瞳。


 雪のように白い肌、堀の深い顔立ちで日本人離れして美しいのに愛らしさがあって……カワイイ、カワイイ、カワイイ!


 いかん語彙が死ぬ。


 しかも、みんなが無視する中、心配そうに声を掛けてくるほどメッチャ良い子。


「こんな妹欲しかったなぁ」「絶対に可愛がるのに」って思っていたら、急に周囲が発光しだした。


 そして、気がつけば見知らぬ大広間。


 私も女の子も茫然と言葉を失う。



「おお!」

「成功だ!」

「聖女様がご降臨あそばされた!」



 周囲の騒めきに私は我に返った。


 あっ、これって聖女召喚なんじゃない?


 それにしても聖女召喚なんて現実にあるものなのね。


 流行りの小説なら喜ぶところなんでしょうけど、どうせ聖女は私じゃないでしょう?



「あなたが聖女様か?」

「なんて愛らしい少女なんだ」

「2人とも落ち着け、聖女様が困ってらっしゃる」



 ほらね。


 見知らぬ人をいたわるほど優しくって、あんなに可愛い子なんですもの。


 それに比べて私なんてブラックな会社ですり切れた地味なよれよれのアラサー女。


 どっちが聖女かなんて考えるまでもないわ。


 そうとなれば私はもう必要ないわよね?



「あのぉ」

「えっ、あなたは?」



 近くにいたローブを纏った人に声を掛けると驚かれた。



「あの子と一緒に召喚されたんですけど」

「えぇぇぇ!?」

「どうやら巻き込まれてしまったみたいで……」

「そ、それは申し訳ありませんでした」

「元の世界に帰してもらえませんか?」



 通勤途中だったから急いで戻らなきゃ。

 遅刻なんてしたらまたドヤされるもの。



「あの、その、非常に申し上げにくいのですが元の世界へ戻す方法はないのです」

「そう……ですか」



 なんとなくそんな気はしていた。


 だけど、帰れないと分かっても私は冷静に事実を受け止められ、あまりショックを受けていなかった。


 むしろホッとしている自分がいる。


 この時、私は理解したのだ。


 私はいつの間にかブラック会社の洗脳を受けていたんだって。


 考えてみれば酷い会社だった。


 無理なノルマに無茶な要求。過度のサービス残業を強いられ、仕事は出来て当たり前、どんな無茶苦茶な業務も出来なければアホが無能がと罵倒を浴びせられた。


 なんで仕事を辞めようと思わなかったのか?


 それはいわゆるやりがい搾取による洗脳を受けていたから。


 もう、あんな会社に戻らなくていいんだ。


 戻れないと分かったら急に目の前が晴れた気分になり、今までの自分を冷静に分析できるようになった。


 だけど、これからどうしよう?



「ですが、ご安心ください。召喚された者には国から援助金が支払われます。すぐに手続きを致しますので」

「ありがとうございます」



 良かった。

 どうやら生活は保証されるみたい。



「ああ、それから一応ご自分のステータスをご確認ください。もしかしたら聖女が2人召喚された可能性もありますから」

「ステータス?」



 その男性に教えられて、私は自分のステータスを見たんだけど……



 あれ? これって私も聖女じゃない?



「どうでした?」

「あっ、私もせ……」



 聖女だと告げようとして私は待てよと思い止まった。


 もし、私が聖女と祭り上げられたらどうなるだろう?


 この人達は聖女を召喚しなければならない事情がある。

 つまりは、その聖女――私に何かをさせたいのだろう。

 それは、恐らくかなり面倒な事であるのは間違いない。


 ああ、また私はこき使われるに違いない……


 そんな考えが脳裏を過ぎる。


 だから、ブラック企業の呪縛からやっと解放された私は自分が聖女だと告げる気にはどうしてもなれなかった。


 聖女はもう1人いるんだし、私が聖女しなくても大丈夫よね?


 さっきのアイドル並みに可愛い女の子の顔が脳裏に浮かぶ。


 やっぱり、あっちの方が聖女っぽいし、女子高生の方がヒロインに相応しいわよね?


 私は心の中で聖女と申告しない言い訳を作って誤魔化した。


 ごめんね……


 あの優しい女の子に全てを押し付けた罪悪感がちょっと湧く。



 後ろ髪を引かれたけど、私はその思いを断ち切ってお金を手に城を出た。


 もらったお金はそこそこ大金。


 聞いた価値から逆算すれば、おおよそ1〜2千万円相当じゃないかな?


 よ〜し、このお金を元手にお店でも持とうかな。




 それから1年――



 名前:慈見(ジミ) 奈緒(ナオ)(偽名ミオ・ナージ)

 年齢:27

 種族:人族

 属性:聖

 職業:喫茶店マスター(聖女)

 レベル:15

 HP:60/60

 MP:9999/9999

 攻撃:18

 防御:20

 抵抗:169

 魔力:512

 魅力:89

 技能:料理Lv5、裁縫Lv2

 スキル:癒しの手Lv3、浄化Lv2、魔法の申し子Lv4

 称号:隠棲の聖女



 私はミオ・ジーナと偽名を使って喫茶店を経営している。


 魔法で髪と瞳の色も変えて……


 どうしてかと言うと、城を出てから急に私の捜索が始まったから。


 もしかしたら私が聖女だってバレたのかもしれない。


 連れ戻されたくない私はまず偽名を使ったんだけど、この世界で黒髪と黒目はかなり目立つ。


 色を変える魔術はあるらしいんだけど、魔術って高度な学問で簡単には習得できなかったの。


 だけど私にはスキル魔法の申し子があった。


 魔術は一般的に知られたこの世界の学問だけど、魔法はもともと存在しない不思議な力。


 魔術と違ってイメージで色んな現象を引き起こせるの。


 魔法で髪や瞳の色もこれで変えて王都を脱出し、地方の都市に居を構えたの。


 ミオ・ナージと名乗って喫茶店をオープンしたら意外と繁盛して今に至るってわけ。


 魔法は便利で、治安が日本より悪いこの世界で女が1人で行動するのは危険だけど、この力のお陰で魔獣も盗賊も撃退できたわ。


 今は喫茶店のマスターとしてゆったりまったりした平穏な毎日を送っている。



 それから……



「ミオ、小麦粉を持って来たよ」

「ありがとうキーノ」



 ちょっとカッコいい彼氏も出来たの。


 キーノ・ヤーツイ。

 私の2つ歳下の若き商人。


 王都からこの街に来る途中の街道で魔獣に襲われていた彼を助けた縁で交流しているうちに、お互い意識するようになっていたの。


 先日、キーノから告白されて今に至るってわけ。



「それから新しい茶葉も見つけたんだ」

「うわぁ、とっても嬉しいわ」



 私がパッと笑顔を向けるとキーノは少し照れたように赤くなった。



「な、なあ、ミオは本当に俺と恋人になって良かったのか?」

「なぜそんな事を言うの? 私が歳上だって知って嫌になった?」



 どうやらこの世界でも日本人は童顔で若く見られるようで、私は周りから20歳前後くらいに思われていたみたい。



「そ、そんなはずないよ」

「それじゃどうして?」

「そ、それは、だって……ミオはすっごく美人で素敵な女性だからさ」

「もう、おだてたって誤魔化されないわよ」

「お世辞じゃないよ。店に通う男のほとんどはミオが目当てなんだぜ」

「ウソ」



 日本では地味女って言われてぜんぜんモテなかった私よ。

 そんな事を言われても信じられるはずがないわ。



「本当だって。ミオと恋人になったって公言したらやっかみが凄かったんだぜ」

「そうなの?」



 聞いたらキーノは私と付き合ってから色んな嫌がらせを受けたみたい。


 知らなかった。



「ごめんねキーノ」

「いいよ。それだけミオが魅力的だってことさ」



 仲直りした私達は店にお客さんがいないのをいい事にそのままイチャイチャして時間を過ごした。


 ああ、ホント平和でいいなぁ。

 この幸せがずっと続けばいいなぁ。



 そう、続けばいいと思う幸せだけど……


 ――チクリ


 平和で幸せであるほど罪悪感という針が私の胸に突き刺さるの。


 そして、脳裏に浮かぶのは1年前のあの子の顔。


 ――カエデ・サクラ


 大賢の聖女と呼ばれ、最前線で戦い続ける心優しい少女。

 あの小さな肩にみんなの期待を背負っている健気な少女。


 今も人類の希望とされ、聖女軍団と呼ばれる軍を率いて魔王軍と戦っている。


 本当なら私も彼女と一緒に戦う必要があったのかもしれない。

 私の全ての責任をあの子に押し付け逃げ出してしまったのだ。


 今の幸福な暮らしはカエデちゃんの犠牲の上に成り立っている。



「どうかしたのかい?」

「ううん、なんでもないわ」



 心配そうな顔をするキーノから視線を逸らして窓の外へと視線を向けた。


 そして、いつものように心の中で呟くの。



 カエデちゃん、ごめんなさ……



「いっ!?」



 その視線の先には店の窓ガラスにヤモリの如くへばりついて店内を覗く美少女の姿。



「…………」

「…………」



 とっても可愛い少女とバッチリ目が合ったまましばしの無言。



「いたぁぁぁあ!!!」

 バァァァン!!!



 扉を蹴破るように乱入してきたのはカエデ・サクラだった!?


 彼女は猛進して来ると私の肩をガシッと掴んだ。



「見つけたお姉さん!」

「えっ、あっ、ド、ドチラサマデショウ?」

「誤魔化さないでください!」

「ナンノコヨデショウ?」

「慈見奈緒さんでしょう」

「イエ、ワタシハ、ミオ・ナージデスヨ?」



 カエデちゃんの追求に私の目が盛大に泳ぐ。

 隣のキーノは突然の出来事に完全にフリーズ状態だ。



「偽名を使っても髪や瞳の色を変えてもムダですよ。わたしには鑑定眼のスキルがあるんですから!」

「えっ、全部バレバレ?」



 こくこく頷くカエデちゃんに私はため息をついて諦めた。



「ごめんなさい……あなたの言う通り私は慈見奈緒よ」

「うわぁぁぁあん、やっと見つかったよぉぉぉ」



 カエデちゃん私の胸にしがみついて、わんわんと泣きだす。


 抱き締めると想像以上に華奢で小さな身体に私の罪悪感はいっそう強くなった。


 だけど、それと同時になんだかホッともした。


 これでカエデちゃんと一緒に責任を分かち合えると思ったから……


 きっと、これから私は大変な事に巻き込まれるに違いない。

 それでも、カエデちゃん1人に全てを押し付けてはいけなかった。



 私のこの平和な日々は終わりを告げた――


 お互いの1年間を話し合い、それぞれの事情を知った私はカエデちゃんと共に戦う決意をした。


 キーノごめんね。

 やっぱり私は彼女を見捨てられないの。


 私はキーノに必ず戻るからと約束して戦地へと向かったのだった……なぜかカエデちゃんと手に手を取って。


 だってカエデちゃんが離してくれないの。

 やたらスキンシップも激しいし。


 私には一応キーノという恋人がいるんですけど……



「奈緒さん、これからずっと傍にいてください」



 まっいっか、カエデちゃんとっても可愛いから許す。


 だって、頬を赤らめ上目遣いしてくる彼女の愛らしさは悪魔的なんだもの!



「わたし、初めて会った時からお姉さんに惹かれるものがあったんです……お姉さんが見つからなかった1年間とても心細かったんです」

「ごめんねカエデちゃん。私が逃げ回っていたから……」



 私は誓った――これからは逃げずにカエデちゃんを守っていくんだって……



「もう絶対に離しません。これからはずっと一緒ですから……」


 カエデちゃんが腕に絡みついてくる。

 ああ、カエデちゃんホント可愛いな。



「ぐふっ、ぐふふふ……」



 あれ?

 変な笑い声が聞こえたような?



「なんか恋人さんがいるみたいだったけど……既成事実作っちゃえばいいよね」



 ぶつぶつ何か呟いているけど……何かしら?



 それから数か月が過ぎ――


 その間、私はカエデちゃんと一緒に魔族と壮絶な戦いを繰り広げた。


 幾多の困難や強敵を乗り越え、最後には魔王を討伐に成功した――までは良かったんだけど……



「離してください菜緒さんはわたしんです!」

「ふざけるな! ミオは僕の恋人だぞ」

「ふ、2人とも痛い、痛い!」



 今、私はカエデちゃんとキーノに腕を掴まれ両側から引っ張られています――痛いです(泣)


 帰還した私を待っていたのは私を巡る2人の壮絶な恋の戦い。



「わたし達は寝食を共にした戦友。お風呂で洗いっこして絆を深めた仲なんですよ!」

「君は女だろうが!」

「わたし達の世界では同性婚だってあるんですぅ!」

「本当なのかミオ!」

「いえ、日本ではまだ一般的ではないですが……」

「ほらみろ!」

「菜緒さんはわたしのこと嫌いですか?」

「カエデちゃんは好きよ。可愛いし」

「えへへへ……」

「ミオ、君は女の子の方が好きだったのか!?」

「いえ、キーノの事はちゃんと愛してるわよ?」

「なんで疑問形なんだ!?」

「プー、クスクス。ほらほら菜緒さんはやっぱりわたしが一番なんですぅ」

「待って待ってカエデちゃん。私の恋人はキーノよ」

「そんな酷い菜緒さん! わたしとは遊びだったのね」

「えぇぇ!?」



 私を巡る壮絶な三角関係戦争が勃発!?



 確かに人類には平和が訪れました。


 でも、私の生活にはまだまだ平和はやって来そうにありません……


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― 新着の感想 ―
鉄剣の乙女ンズに吹いたわ!! きっとエースくんは「ねぇカエデ様、次は誰を殺せばいい?」とか言ってくるに違いねぇ。 それはそうとねぇ。 見つかって良かっただなぁ。 瘴気を遮断するアイテムさえあればね…
[良い点] ありそうでなかった聖女(じゃない方)と聖女(真)の年齢差百合 長編で見たい。いやでも長編で書かれたら100話くらいお姉さんと合流しなさそう…… [気になる点] キーノっ!邪魔ッ!
[良い点] 返信ありがとうございます! ではもしカエデちゃんのタイプがカルラさんみたいなエロおねーさんなら、彼女の運命は変わっていたんでしょうか笑
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