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ex 受付聖女達、状況を正しく理解する

「え、ちょ……えぇ……ま、マジでどういう状況なんすかこれ!?」


 流石に二度言った。一度だけで感情を発散させる事なんてできない。


(こ、これボクの立てた仮説盛大に外れまくってるんじゃないっすか!? いや、仮に普通のデートだったとしても相当頭おかしい展開になってるんすけど!?)


「ほ、本当に一体どういう流れでそんな話に……で、でもルカ君も男の子だし……」


(凄い頑張って肯定しようとしてるっすね……いや、敵なのか違うのかははっきりしないっすけど、この子が無茶苦茶可愛そうになってきたんすけど!)


「いや、これ多分あんまり良くない奴だよ。ちょっくらウチ突入してくる」


「ちょ、シエルさんストップストップっす!」


 動き出そうとするシエルを慌てて止める。

 意味が分からない状況ではあるが、それでも色々な仮説が立てられる位には二人の情報が濃いから、下手に突っ込めない。

 突っ込ませる事ができない。


「もうちょっと、もうちょっと様子見ないっすか……ほら、ノイズだらけで現在進行形で殆ど情報得られてない訳っすから。まだ色々判断するには早いっていうか……」


「いや、結構はっきりとアレな事聞こえたけど……」


「と、というかえーっと、向こうの女の人、あっちゃんさんだっけ?」


「一応本名はアンナさんっす」


「ああ、じゃあアンナさん。あの人もなんでそういう会話をすっごい真面目な表情で聞いてるんだろ」


「た、確かに……! やばい、ちょっと会わないうちに親友の考えている事が分からなくなってるのかもしれない! うわーッ!」


 そう言って頭を抱えるシエル。

 こっちにもどんな言葉を掛けるべきか悩む。


 そして。


「……しかし駄目っすね。あれ以降殆どノイズしか聞こえてこないっす」


「とんでもない一幕だけ抽出しちゃったね」


「シズクちゃん、もうちょっと精度上げられたりしない?」


「いや、ここが限界っすね。これ以上やると100パーセントバレるっす。さっきの一瞬がある程度鮮明に聞き取れたのが奇跡って感じっすね」


(なんか凄いとんでもない所で奇跡使った気がするっすよ)


 内心ため息を付きながら、ノイズだらけの盗聴魔術から意識を外して二人を改めて注視する。


(……やっぱデートって雰囲気じゃないんすよね。後は変な事を話してる感じでも無さそうだし)


 先程の単語こそ意味が分からなかったが、やはり雰囲気は真面目な話をしている様子で。

 やはり自分が立てた仮説がある程度正しかったのでは無いかと思えるようになってくる。


 と、そこでノイズだらけな盗聴魔術が、ようやく聞き取れる音声を拾ってくる。

 聞こえてきたのは再びルカという男の声だ。


「クーデター………………異質……」


 先程とは打って変わって重苦しい単語。


(……クーデター?)


 その言葉が何を意味するのかは分からない。

 だけど。


「……」


 ミカが一瞬はっとするような表情を浮かべた後、どこか納得するような。そして複雑な表情を浮かべていたのが見えた。


「わ、分からない……ビックリするくらい凄いエロいクーデター……異質なのはお前らの会話じゃい!」


 頭を抱えるシエルをよそに、シズクとミカは完全に落ち着きを取り戻した。


(……多分ボクの仮説で当たってるっすね)


 ミカが五人目だったとすれば、高確率で自分達と同じように何か問題を抱えていて。

 そして自分がいなかった北の山での戦いの事やその背景を問い詰めようとすれば、そういう問題の話も引き出せそうで。


 自分達とは全く毛色が違う問題になるけれど、聖女が国外に追放される経緯としては、自分達の抱えた問題よりもクーデターの方がよっぽど現実的に思えて。


 そしてニワカ知識ながら新聞や週刊誌などで最低限の世界情勢を頭にいれるようにしているシズクは、少し前にクーデターが起きた国があるのを知っている。



 クラニカ王国。



 クーデターが起きた経緯など、具体的な経緯などは全く入ってこないけれど、クラニカという国がどういう国なのかはある程度把握している。

 とにかくとても住みやすい良い国だと。

 週刊誌で旅行先として特集が組まれていた時に目にして印象に残っている。

 そして今接している感覚だけでいえば……ミカという女の子は悪い人には思えなくて。

 そして黒装束の男というのも、悪人にしてはおかしな言動が山のようにあって。


 だから……なんとなくだけど、分かってくる。


 今、向こうのテーブルは外野がちょっかいを出してはいけない程の大切な話をしているという事。

 ……そして。


 ミカという少女は、自分達の敵ではないという事が。


 そしてミカの方も、シズクがある程度の状況を把握した事に気付いたらしい。


「……」


「……」


 自然と二人でアイコンタクトを取る。

 言葉を交わした訳ではないが。

 お互いがお互いの事をどこまで把握したのかは分からないが。


 それでもこの場で自分達が取るべき行動は何なのかという意思は統一できた気がする。


「次の……次の情報プリーズ!」


「シエルさん」


「ん? どったのシズクちゃん。何か分かった?」


「あ、いや、そういう訳じゃないんすけど……とりあえず注文した物を食べ終わったら、お店でないっすか?」


 今やるべき事は、とりあえず二人の邪魔にならないようにシエルをこの場から連れ出す事だ。

 

「え? 急にどうしたの?」


「私も同意件です。ちょっとこれは邪魔できないですね」


「ミカちゃんまで!? えぇ!? 色々と謎が残ったままじゃん! 二人の関係性とか、これそのままにして大丈夫なのかとか!」


「多分恋仲とかじゃねえっすよ。まあ、その……あれっす。今のアンナさんが置かれた状況が色々と大変って事は知ってるっすよね」


「え、あ、うん、知ってるけど……あっちゃん追放された元聖女な訳だし。無茶苦茶大変……」


 そう言ったシエルは少し考えるように一拍空けてから呟く。


「……そっち絡みの話って事?」


「そういう事だと思うっす。根拠は……まあ、説明難しいんで、同じ立場のボクには何か感じる物があったって事で。正直あまり外野が口出ししない方が良い感じの話っすよ」


 説明を今、面と向かって言う事はできない。

 それを話せば、自分が辿り着いたルカとミカの正体を口にすることになる訳だが、それができない。


 今ミカがこちらの情報をどこまで掴んでいるかが分からないから。


 多分自分やアンナが元聖女だとは把握していても、アンナが先日ルカやミカと戦った三人の聖女の内の一人だとは把握していないんじゃないかと思う。

 もししていれば、此処までもっと違った反応をしていた筈だ。

 直接的に相対しなかったのか、ミカはアンナの事を知らなかった。


 故に今も、世界中で同時期に追放されている聖女の一人と接触したと認識しているだけの可能性だって十分ある。

 自分の事も、自分達と戦った相手の仲間ではなく、ルカが偶然知り合った何処かの国の聖女の仲間だと思われている可能性も十分にある。


 だとすれば。


(……いくら敵じゃないって思っても、結局慎重に進めていくに越した事は無いんすよね)


 仮にも一度自分の居ない所で命のやり取りをしているのだから。

 こんな街中で。

 そして有事の際にどこまで動けるか分からないシエルの居る状況で、ミカ達を、きっとあの山でそうだったような、戦わざるを得ない状況に陥らせる訳にはいかない。

 そういう状況下では、実は善人なんていう条件など何の意味も持たないだろうから。


 事実三人は殺されかけたのだから。


 だから、此処は無理にでも誤魔化す。

 余計な火種は灯させない。 

 歩み寄るにしても徐々に、徐々に慎重にやる。


 目の前の少女との付き合い方は、自分が思っている以上にデリケートな筈だから。


「うん……じゃあそういう事……なのかな? 同じ立場のシズクちゃんがそう言うなら」


(よし! 話が分かる人で助かるっすよ!)


 心中で胸を撫で下ろす。

 面倒な事態にならなくてとりあえず助かった。

 ……と、そう思っていた訳だけど。


「あ、そしたらミカちゃんは何でそんな急に態度変わっちゃったの? シズクちゃんみたいに元聖女とかなら分かるけど」


 シエルが今度はミカに話を振り出した。


「あ、それは……」


 きっと、何か適当な嘘を吐こうとしたのだろう。

 だけどそれがミカの口から出る前に。


「……あ」


 突然天啓が下りたようにシエルは言う。


「あ、分かった。ウチ分かったよシズクちゃん」


 真剣な表情で、事件を調査する名探偵の様に。


「ミカちゃんと向うのルカって男の人が、あっちゃん達が戦ったっていう黒装束の二人組だ」


 そのまま胸に秘めていて欲しかった名推理を。

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