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59 聖女さん、新しい日常を歩み始める

 さて、冒険者ギルドでやるべき事を終えた時点で、今日はもう完全にオフだ。

 ……しかし考えてみれば、本当に何もないオフの日ってのは凄く久しぶりな気がする。

 聖女をやっている間は毎日やることが少なからずあった。

 自分が張り巡らせた超大型の結界を管理しなければならないのだから、何もしなくて良い日なんて基本は無い。

 まあ私が神経質なだけかもしれないけど……とにかく、毎日何かをやっていた。


 それが今は無くなって。

 ここから先にあるのは全く新しい日常だ。


「それで、案内できるだけするっすけど、行きたい所のリクエストとかってあるっすか?」


 ギルドを出て歩きだした時、シズクが私達にそう聞いてくる。


「そもそも何あるかよく知らねえしシズクのお任せでいいんじゃねえの? まあ何か思い付いたら言うけど……ってそうだ、あったわ行きてえ所というか、行かなきゃいけねえところ」


「行かなきゃ行けない……ああ、なんとなく察したっすよ」


「私も。それだけは外せないよ。本当は昨日行きたかった訳だし」


「え、どこですか?」

 

「「「シルヴィの枕を買いに行こう」」」


「まだこのノリ続くんですか!? いやまあ欲しいんで賛成ではあるんですけど……」


 シルヴィは不服な表情を浮かべるも、私達の発案に同意する。



 ……この和気藹々とした空気が私は好きだ。

 楽しい。

 そしてこういうのは、この国で皆と会うまでは久しく感じていなかった感覚だ。


 昔から自分の周りに居た人間の多くは碌でもない連中で。

 そうではないと断言出来て、尚且つ同じ空間で過ごしていたいと思える人間なんて極僅かで。

 私が追放された時点では、その僅かな人達も色々な理由で自分の周りには居なくて。

 それでも全然平気ではあったけど、まあお世辞にも彩り豊かな歩みをしていなかったと思う。


 それが今こんな事になっているのだから……私は確信を持って言える。

 あの国から追放された事は、私の人生にとってあまりにも大きなプラスだった。



 と、少し昔の事を思い返すと自然とこの思考に辿り着く。


 ……今、あの国はどうなっているのだろう?


 私の張っていた結界は私が居なくなった所で、そう簡単に無くなりはしない。

 今はまだ引き継ぎ期間のようなものだ。

 あの山で黒装束の男が張っていた罠みたいにその場に残り続ける。

 メンテナンスをする術師が居なくなり、劣化して朽ちるその時まで。

 私の結界の場合は、少なく見積もって三か月は効力をまともに維持すると思う。

 その間にちゃんと次の人が引き継がないと駄目なんだけど……まあ難しいと思う。


 無事に結界を張れても拙く脆いだろうし、そもそも間に合うかも分からない。

 私ですら国全体を覆う結界を張るのには三週間は掛かったしね。


 そんな訳で……新しく任命された聖女さんはどうしているんだろうか?

 ……まあ私の見立てが間違っていて、案外うまくやれているなら、それはそれでいいけど。

 多分、難しいと思う。


 ……まあどうであれ、私には関係ないけど。

 私にはもっと考えないといけない事があるから。


「じゃあシルヴィの枕を買うのは確定って事で。あと今思い出したんだけど、折角だから軽く楽器とか見に行かない? 多分だけどシルヴィとかステラは自分の国から持ってきてないでしょ」


 今日の休日を。

 これからの新しい日常をどう楽しんでいくか。

 そういう事に脳のリソースを使っていきたい。


「あ、それいいですね」


「今度セッションするって話してたのに楽器持ってませんってのはアレだからな。てかシズクはそういう店の事は知ってんのか?」


「ああ知ってるっすよ。なんなら貸しスタジオとかライブハウスとか大体把握してるっす」


「なんというか……凄い私生活充実してそうだね」


「無茶苦茶充実してるっすよ。最近仕事クビになりかけた以外は今結構最高な感じっすから……そんな訳で皆さんも色々あった訳っすけど、楽しくエンジョイしていこうっすよ」


 そう言ってシズクは笑みを浮かべ、私もそれに同調する。


「そうだね。色々あったし色々起きてるけど、今が楽しければそれでいいやって事で」


「いやそんな駄目人間みたいなニュアンスで言ってないっすよ? もうちょっとこう……将来設計とかも考えた方が良いんじゃないっすかね?」


「私もそんな駄目人間みたいなニュアンスで言ったつもりないよ!?」


 ……とにかく。

 今はとりあえず、今が楽しければそれで良いって感じで新しい日常を歩んでいこうと思うよ。



 ……駄目人間的な意味では無く!

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