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6 聖女さん、勧誘はしない

「あ、ちょっと待っててくれ。てんちょー! 俺ちょっと休憩取っていいっすかー!」


「いいよー!」


「あざーっす!」


 そう言ったボーイッシュなウェイトレスさん……否、ボーイッシュな元聖女さんは、近くの椅子を持ってきて私達のテーブルの前に陣取った……と思ったら何か忘れ物をしたかのように厨房へと走っていき、オレンジジュースを持参して着席。


「社割で飲めるんだ。良いだろ」


「そ、そうですね」


「い、良いんじゃないかな」


 そう言って私とシルヴィが苦笑いを浮かべていると、ボーイッシュ聖女さんは言う。


「俺の名前はステラって言うんだ。同じ追放された聖女同士これから仲良くしていこうぜ」


「ど、どうも、シルヴィって言います」


「私はアンナ。よ、よろしく」


「よろしく!」


 妙にテンションが高いステラと自己紹介を交わした。

 ……しかし追放された聖女同士仲良く……ね。


「しかしまさかこんな所で三人目に出会えるとは思わなかったよ」


「いやー俺もだよ。まさか俺みたいにアホみたいな理由で追放されてる奴がいて、それがまさかの二人もいるなんてよ。こんな事あるか普通。世の中狭いわー」


「いや、普通は無いと思いますよ……というか一人でも追放されてるのがおかしいっていうか……」


「しかも理由が理由だしね。聞いた感じだとステラの所も王様とかの女絡みでしょ?」


「そうなんだよ。聖女の仕事舐めんなってんだよマジで」


「ち、ちなみに後任の人、どんな感じの人でした?」


「あー俺と違ってすっげえ女の子女の子してたわ……俺と違って。すっげえ可愛かった。いや、あの王子にそういう気はねえんだけどさ……なんかすげえ負けた気がした」


「「……」」


 は、反応に困る。

 なんか私達とはまた別なベクトルのダメージの受け方してる!

 な、なんて声を掛けたら良いのか……。


「す、ステラさんも凄く可愛いですよ!」


 シルヴィちゃん行ったぁ!

 この難しい空気にうまく突っ込んだ!

 私も続け!


「そ、そうだよ。ステラさ、すっごい美人さんじゃん!」


 嘘は言っていない。

 この人がさつな喋り方とボーイッシュ差でなんというか……クセはあるんだろうけど、女の私が見てもすっごい美人だと思うよ。


「そ、そうか……ありがと」


 ステラは少し顔を赤らめて視線を反らす。

 ……うん、この人普通に可愛いよマジで。


     ※


「それで、二人はこれからどうするんだよ。話中途半端に聞いてた感じだと、追放されたのは昨日今日みたいな感じだろ?」


「一応私は冒険者をやる事にしたんだ」


「わ、私もそうですね……私なんかで大丈夫かなって思いますけど」


 ……いや、大丈夫も何も最強クラスでしょ既に。

 で、そのシルヴィと同じ位……ステラも凄い強い力を持っている。

 改めてそういう目でみれば、それはすぐに分かった。


「ふーん。じゃあ二人はパーティーって感じか?」


「いや違う違う、知り合ったばっか」


「そ、そうですね。お互い元聖女って分かって、それで一回お話しましょうかってなって……」


「なるほどね。でもまあこうやって境遇全く同じみたいな奇跡が起きてんだからよ、もう二人でパーティー組んじまっても良いんじゃねえの?」


「「……確かに」」


 ステラの提案に私達は思わず同時にそう口にする。

 そして同時にという事はつまりそういう事だった。


「えーっと……じゃあこれ、よろしくお願いしますって事で良いんですかね?」


「うん、良いんじゃないかな。よろしく」


 そんな風にあっさりと私とシルヴィはパーティーを組む事となった。

 そして奇跡は二度起きている訳で……だとすれば後一人はどうだろうか?

 ……というより、どうしてそんな凄い力があってウェイトレスさんなんてやっているのだろうか?


「おーなんかおめでとう」


 パーティーを結成した私達を祝福するようにそう言って手を叩くステラに私は疑問をそのまま問いかける。


「ところで私の見立てだとステラも無茶苦茶強いと思うんだけど、なんで冒険者とかじゃなくてウェイトレスなんてやってるの?」


「なんてっていうか、前職首になったから普通にどこか就職しないとって状況でウェイトレスっておかしいか? 冒険者より真っ当だと思うんだが」


「……」


 ご、ごもっとも過ぎてぐうの音も出ない!

 なんか……人としてとっても立派な気がする!

 と、なんだかあっさり冒険者になる事を決めた自分は結構やベー奴なのでは? と不安になってきた所でステラは言う。


「まあ最初から冒険者って選択肢は浮かんでこなかったんだけどさ、実はこうしてウェイトレスやってるのは自分でこの仕事をしようって決めたからって訳じゃないんだ」


「というと?」


「……聖女クビになって割と真面目にどうすれば良いか分からなくなってさ……そしたら偶々入ったこの店で、店長と女将さんが色々と察して話聞いてくれて……住み込みで働かせてもらう事になったんだよ。その結果仕事がこれだったって感じで。そんな感じだから真っ当だとかどうとか言える立場じゃなかったな。自分で何も選んでない」


 そう言ってステラは笑みを浮かべる。


「まあとにかく……二人共冒険者頑張れよ。俺も同じくらい頑張ってこの店を今よりもっと繁盛させてみせるからさ……あ、そんな訳だから今後ともご贔屓に」


「は、はい! 勿論です!」


「そうだね。また顔を出すよ」


 言いながら、一つ諦めが付いた。

 シルヴィとパーティーを組んだ時、ステラも一緒にどうだろうかと考えた。

 私達と同格の強さもあって、悪い人ではなさそうで。

 だとすれば一緒に仕事をしていく仲間としては大歓迎だなと、そう思った。


「さて、小休憩終わり! 俺そろそろ仕事に戻るよ」


「うん、頑張って」


「じゃ、じゃあまた……」


「おう、またな!」


 だけどそう言って私達の席から去っていくステラは、どこか居場所に帰っていく様な感じがして。

 だから彼女を無理矢理勧誘するような。

 この場所から引きはがすような事はしてはいけないと思った。


 だから、勧誘はしなかった。


 ただこれから普通に友達として付き合っていければいいなと、そう思った。

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