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32 聖女さん、VS黒装束の男 上

「……ッ!」


 咄嗟に正面に身を隠せる程度の結界を張る。

 流石にこの近距離で放たれると、一発一発処理するような真似はしてられない。

 ……する必要も無い。

 だってこの結界で全部防げるから。


 次の瞬間、黒い弾丸が全弾着弾。

 だけどそれでも、ある程度のヒビが入る程度で健在。

 私に弾丸は届いていない。


 ……流石にヤバい奴と対峙して、ただ何もせずに長話をしているような馬鹿になったつもりはない。

 折角時間があった訳だから……ちゃんと常識的な範囲ならどんな攻撃でも防げるような、ある程度の時間を掛けて発動させる類いの結界魔術をスタンバってた。

 この結界なら、全弾防いでも貫かれる事は無い。


 ……だけどその攻撃を止めた所で、黒装束の男の攻撃が終わる訳じゃなくて。


 全弾着弾した直後、既に刀を構えた男が私のすぐ隣にまで接近してきていた。


「うわッ!」


 瞬時にバックステップで男の切り払いを躱した。

 うん、反応が一瞬でも遅れたら今ので死んでたかもしれない。

 そしてそういう一歩間違えば死ぬような攻撃を、目の前の男が再びこちらに踏み込んで放とうとしているのが分かる。


 ……うん、まずあの刀どうにかした方がいいのかも。

 素手と刀じゃ相手の方が圧倒的有利。

 このままだとぶん殴りづらい。


 ……そうだ、ぶん殴らないといけない。


 このまま攻撃を躱し防いでやり過ごし続ければ、その間に風の塊を打ち込むよりも殺傷力が強い魔術を放つ準備ができる。

 そうなったら、多分目の前の男はそれで殺せる。


 だけどそれじゃ駄目なんだ。


 目の前の男からは色々と話を聞かないといけない。

 一体何をしようとしているのかって事もそうだし、直前に口にした聖女の加護の事も。

 とにかく聞かなくちゃいけない事が一杯あるから、死なれたら困る。

 それが理由の半分。


 そして残り半分は私個人の都合の話。


 相手は魔物じゃなくて人間だ。

 この状況で罪に問われるかどうかはともかく、一線を越えれば人殺しになる。

 ……たかだか薬草採取に来ただけで、人殺しなんてしたくない。

 そんなのは生涯やらないって決めてるから。


 だからぶん殴って倒す必要がある。


「……よし」


 その為にあの刀をどうにかして、私の戦い方のステージまで引き摺り下ろす。

 そうする為に私が導き出した最適解。


「……ちょっとシルヴィのパクろう」


 そう呟いた瞬間手に棒状の結界を作り出して、その結界で男の刀の斬り下ろしを受け止めた。

 結界で鈍器を作り出す。

 シルヴィがさっきやってた奴だ。


 ……とはいえこれでそのまま戦おうとは思わない。


 武器を持って戦うのは慣れてないし、両手が塞がって一部の魔術を使うのに支障が出るし、何より向うは刀を使って戦うという事が基本戦術に組み込まれているような相手だ。

 付け焼刃の戦い方で戦っても良い結果は生まれてこない。


 だからこれを有効活用するのはこの一度の攻防だけ。


 ……次の瞬間、刀が結界に沈んだ。

 沈ませた。

 結界の形状に刃が嵌る様な。押し込めるような薄い窪みを作り出した。

 そして表面を塞いで閉じ込める。


「はい捕まえた」


 これで私の結界の棒と男の刀は離れない。

 このまま力勝負をするか、男が諦めて刀から手を離すか。

 男の取れる行動はその二択に絞られた筈。


「……器用だな」


 男の判断は早かった。

 すぐさま刀を手放して一旦バックステップで距離を取る。

 よし……これで素手での殴り合いに持ち込め……って何あれ。

 男の両手の指の間に計8本、スティック状の結界の様な物が生成されていて……それをこっちに向かって放り投げてきた。


 ……結界に何かが刻まれている。

 魔法陣のような模様。


 ああ、なるほど。結界を媒体にして魔術を発動させようとしてるんだ……へえ、面白い使い方するじゃん。

 ……って感心してる場合じゃない!


 これ……爆弾とかじゃないかなぁ!?


 まずい、とにかく結界で防御を……ッ!


 そう考えて前方に壁となるように身長程の結界を張る。

 まだ私と男の距離があまり離れていない以上、仮に爆弾だったとしてもそれ程の威力は無い筈。

 だからこれ位の結界で十分に防ぎ切れる筈。


 そして次の瞬間、スティック状の結界から強い光が放たれた。


 文字通り強い光。

 直視すれば目を潰す程の、光の爆弾。


「……ッ!」


 次の瞬間、着地した男が再び動いた。

 音も無く、私が張った結界をかわすように、こちらに向かって高速で走ってくる。

 手に武器は無い。

 さっきいつの間にか刀を持っていたように、再びその手に武器が握られていてもおかしくはなかったけど、刃物はこちらに有効ではないとでも判断したのかもしれない。


 その手に何もなく、代わりに何かしらの魔術を付与したように黒く光っている。

 そんな状態で、私に止めを刺すように接近。

 ご丁寧に、何かしらの魔術で全く違う方向から足音を発生させて。


 ……と、ここまで私には全部見えている。


 私の張る結界は強度が高いだけじゃない。

 ちゃんとそれ以外の害を及ぼす何か。

 例えば目を潰すほどの強い光もある程度遮断してくれる。

 ……だから眩しかっただけ。


 そしてそれを知っているのは、その結界を張っている私だけだ。


「あ……あぁ……!? 何も見え……ッ!」


 それらしい演技をする。


「そこか……!」


 足音に反応して手を向けて、魔術を放とうとする仕草をみせる。


 それで私は隙だらけの馬鹿になりきれる。

 だからこそその私に攻撃する黒装束の男にも、警戒心の低下という隙が生まれる。

 そして男が私に接近した瞬間、足音のしていた方向。

 男の迫る逆の方向に風を噴出する。


 男に向かって飛びかかりながら。


「何……!?」


「隙有ィ!」


 そして風で加速しながら男の腹部に飛び蹴りを叩き込んだ。


「ぐぉ……!?」


 男から鈍い声が聞こえると同時、私の蹴りで弾き飛ばされて少し遠くの大木にぶつかり止まる。


 ……よし、此処だ……追撃!


 再び足元に風の塊を作り出し、それを踏み抜く。

 そして急接近。

 大木を背に座り込む形になっていた男に対して拳を放つ。


「……ッ!」


 だけど次の瞬間、男の姿が消える。

 文字通り跡形もなく。

 目の前には衝撃で折れて倒れ始める大木だけ。


 そして背後に気配を感じた。


 ……近距離の空間転移魔術!


「くっそ面倒!」


 放たれたのは私の側頭部目掛けた蹴り。


「……ッ!」


 それをギリギリの所で体勢を低くして回避。

 ……一発叩き込んだのに、まだ動きのキレが凄い。

 本当に相当な強者だ。


 ……だからこそさっきから一つ違和感がある。


 私と相対できるだけの力の出力や技量があるのに、シルヴィやステラから感じた、ヤバい奴を前にしているような、そんな感覚がこの男からはあまりしないんだ。

 さっき言ってた聖女の加護といい、この人は色々と意味が分からない。


 ……聖女の加護?


 自分で改めて考えて、一つ引っ掛かる事があった。


 目の前の男から感じない圧倒的な強者の感覚。

 聖女の加護。


 ……一つ、試して見る必要のある事ができた。


 私は男の蹴りをかわした流れでカウンターを叩き込む準備をしながら、一つ発動までに時間の掛かる魔術を構築し始める。


 この戦いに勝つ為の突破口になるかもしれない、そんな魔術を。

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