3 聖女さん、冒険者ギルドでやべー奴と出会う
「ありがとうリュウ君。今度またゆっくり遊ぼうね」
隣国の門の関所の前まで辿り着いた私は、ひとまずリュウ君から降りた。
そして一旦リュウ君には帰って貰う事にした。
流石に連れて入る事はできないしね。
そして私は関所で手続きを進める。
入国審査だ。
……まあほぼ形式上の簡素な物だったけど。
「……うん、これ普通に大問題なんじゃないかな。私にとっては好都合だけどあまりに簡素すぎる。なんでこれで普通に治安悪くないんだろこの国」
本当に簡単に入国できて、流石に驚きながら私は王都を目指す事にした。
安く早く向かおうと思えばリュウ君に頼るのが一番だけど、流石に国から国への移動では無く町から都市への移動だ。
人だって既に一杯居るし、こんな環境でいきなりリュウ君に頼るとなると、問題行動扱いされてまた国外追放とかされるかもしれない。
今度は普通に自業自得で。
だから馬車を乗り継いで王都へ。
幸い聖女としての報酬はそれなりに貯め込んでいたし、私にとっては本業の感覚だった魔術研究でもいくらかの報酬は得ているから、節約するに越した事はないけど、馬車に乗ったからといって一文無しになる様な絶望的な状況ではない。
やっぱり人生何があるか分からないから、最低限度の貯金って大事だ。
私が浪費癖のある馬鹿じゃなくて良かった。
さて、流石にただ移動しているだけでトラブルなんてのはそう起きる筈もなく、私は早々と目的地へと到達した。
「ここが冒険者ギルドだね」
依頼者からの依頼をこなす事で生計を立てる冒険者。
その依頼者と冒険者の仲介役となるのがこの冒険者ギルドだ。
聞いた話によると、冒険者ギルドの発行する登録した冒険者の情報が記されたギルドカードはそのまま国内で身分証明書として使えるらしい。
……うん、本当に大丈夫なのかなこの国。
移民に対する色々なハードルが、あまりにも低すぎないかな。
ここまで両手を広げてウェルカムだと、流石に心配になってくる。
まあ、おかげで助かってるんだけど。
……まあ私が細かいことを考えても仕方がない。
今は職と、この国で生活していくための身分証明書……もといギルドカードを手にいれる。
その為には細かい事なんて気にしちゃダメだ。
そう考えて私は色々なツッコみ所に目を瞑りながら、冒険者ギルドに足を踏み入れたのだった。
※
ギルドでの会員登録はあまりにあっさりと終わった。
名前と性別、年齢を書いて、自分が得意とする技能などがあれば記入してそれで終わり。
……本当にそれで終わっちゃった。
「……ほんと、こんな簡単な手続きで貰ったギルドカードが身分証明書になって良いのかな?」
多分良くは無い。
もし私が政治家にでもなったらこの辺もうちょっと法整備したいよね。
まあ政治家になんてならないんだけどさ。
馬鹿の下で聖女やってるより面倒そうだし。
……さて、無事登録も終わった事だし、とりあえずギルドの中を見物でもしておこうか。
これからお世話になる訳だしね。
そう思いながら私は受付の近くに設置されていたクエストボードと呼ばれる、依頼が張られた掲示板の前へ移動。
どんな依頼がこの冒険者ギルドに来ているのかを、ちょっと見てみよう。
「成程、薬草採取からドラゴンの討伐まで。一杯あるなぁ」
特に一番難しいドラゴン討伐の報酬額が凄い。
討伐すればそれだけで半年分位の生活費になりそう。
……まあ複数人かつ、ある程度色々な依頼を熟して冒険者としてのランクを上げていかなければ受けられない依頼みたいだけど。
……駆け出しのFランク冒険者の私じゃ受けられない。
一人でもボコボコにできる自信はあるけど。
……でも一人だとこのクエストボードを見た感じだと不便な事も多そうだし、一緒に冒険者をやっていくパーティーメンバーを作った方がいいかもしれない。
そう思いながら、周囲を見渡す。
私程の人間になれば、見ただけでその人の大体の強さが雰囲気で分かるんだ。
本当になんとなくだけど、ほぼほぼ的中する。
で、色々と観察させてもらったは良いものの……失礼だけど、なんか微妙だ。
AランクとかBランクとか。それなりにランクの高そうなギルドカードを首から掛けてる冒険者は、凄いは凄いんだけど……なんだろう、微妙なんだ。
いや、正直頭数が揃えばドラゴン討伐は無理でも他の色々な依頼を受けられるし、そもそも私一人で十分に戦えるからそんなに強くなくても良いんだけどさ。
でもこう、一応危険な事やりに行くわけで……私と近い位の実力の人と組んで安心して背中預けたい感はある訳で!
……まあ仮にそんな人がいた所で。
というか私が失礼にも微妙と評価した人達だって、Fランクの駆け出し冒険者なんて相手にしてくれないだろうけど。
というかされたら警戒する。
絶対仕事目的じゃないみたいな、嫌な予感がする。
特に男性の方は特に!
と、そんな時だった。
ふと、一人の女の子が視線に入った。
多分平均的な身長である私よりもちっちゃい、多分年下の銀髪ロングの女の子
「……ッ!?」
Fランクのギルドカードを首から下げるその女の子からは……とんでもなくヤバイ奴の雰囲気を感じた。
いや、ヤバイ奴だと人格的にアレな人っぽいから訂正。
……無茶苦茶強い、この子!