ex イラショナル・インフレーション
ドルドットへと向かったアンナ・ベルナール達を見送った後、ルカは静かに考える。
(任せた……か)
別れ際にアンナから言われた言葉が脳裏を反響する。
(……本当に俺にできる事なんてあるのか?)
醜態を晒した。
醜態を晒した。
醜態を晒し続けた。
色々な人達が頼りにしてくれて、託してくれているのに、此処暫くの自分はそれを裏切り続けている。
では、この先は。
この先の自分は目の前で起きるかもしれない何かに対して、誰かの役に立てるのだろうか?
『……前向きに物事考えられなくなってきてんのは俺達も同じだ』
昨日、自身の無能さが原因で事の手懸かりの一つを失った事が判明した後、マルコに連れられて行き着けらしいバーへ行った。
その際あまり酒に強くないのか早々と酔いが回ってしまったらしいマルコとの会話が脳裏を過る。
『俺はあの地下で、操られたお前と聖女連中の戦いを目の当たりにした。その後、事の大きさがこの都市この国を飛び越えて世界規模の問題だという事が分かった』
『……』
『これでも俺達は強いって自信がどこかに有ったんだ。憲兵団の腕利きよりも……いや、分かりやすく言えば冒険者ギルドのトップ層とかよりも。そんな力で大きな問題にもぶち当たってきたんだ。だけど今起きている事はそういう次元じゃない』
『……』
『……力も規模も、突然馬鹿みてえにインフレしやがって。ふざけた話だな全く。途端に自分が何もできねえ無能に思えてくる』
酒の勢いで溢れ出ていたのはそういった弱音だった。
それを聞いて、マルコがこちらを気遣うように飲みに誘ってくれた理由が分かった気がした。
短期間でそれなりに砕けた会話が成立するようになっている理由も。
良くも悪くも自分達は同類なのだ。
『だから僕達の敗因は世界に選ばれなかった事だ。僕もキミも、持って生まれた力が無かったから敗北者なんだ』
地下で戦った敵の言葉を借りれば、選ばれなかった者とでも言うべきだろうか。
『ルカ。折れるなよ』
『……』
『自信があるかどうかは関係ねえんだ。たとえ不相応の立ち位置に立ってしまったと思っても、目の前にやるべき事がある内は立ち止まっちゃいけねえんだ』
同類。
否、この言葉を彼に向けるのはきっと失礼に値するだろう。
こうして弱音を吐きながらもマルコは全く折れてはいない。立ち止まってはいない。
あの敵もそうだ。
やってる事は称賛しないが、自身の事を敗北者と語りながらも強い意思がそこにはあった。
では自分は。
「……」
平気な振りをしているだけで、足が鉛のように重い。
こんな状態で。
否、こんな状態では無かったとしても。
自分程度の人間にできる事などあるのだろうか。
そんな自問自答の答えは出ず、それでも時が止まる訳では無いから。
「…………折れるな」
誰にも聴かれないような小さな声音で、自己暗示のようにそう呟いて。
まだ辛うじて動くその足で、一歩前へと踏み出した。
次回から四章突入です。
長らく更新止まっててすみませんでした!
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