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ex その頃のギルドにて

(さてさて今頃出発した頃っすかねー)


 ギルドの新人受付嬢のシズクは、仕事が一息付いてたっぷり加糖なコーヒーを飲みながら一息吐いていた。

 そして一息吐きながら考える。


(それにしても……あの三人、一体何者なんすかね……ボクと同じような力を感じたっすよ)


 と、そこまで考えて一つの仮説に辿りつく。


(もしかしてボクと同じく追放された聖女だったり)


 そう、彼女は少し前に聖女をクビになり国外追放されて此処にいる。

 真面目に仕事をしてきたつもりだが、訳の分からない身に覚えのないミスを立て続けに突き付けられ、なし崩しに追放された。

 そして紆余曲折あり冒険者ギルドの受付嬢として雇ってもらった訳だが……。


(……いや、ボクと同じって事は無いか。流石にそれは無い)


 自分の事例もあり得ない程に稀なケースだと思うし、それが同時期に二人もなんて事は絶対に無いと思う。

 そしてそれがあと二人だ。

 流石に無い。

 流石に他の国のトップもあんな馬鹿ばかりだとは思いたくない。


(ま、三人が戻ってきたら軽く聞いてみる事にするっすよ。あの三人ならまず間違いなく無事に戻ってくるだろうし)


 と、なんの心配もせずにコーヒーを飲みほしたシズクだったが。


「おい新入り」


 背後からドスの効いた声が耳に届いて、何やら嫌な予感が全身から湧き上がり背筋が凍った。


「ひゃ、ひゃい……なんすか……じゃない。なんですか、部長」


 彼女の背後に現れたのは黒スーツ黒サングラスの巨体の男。

 冒険者ギルド、施設運営部部長である。

 その表情からはサングラス越しでも怒りが伝わってくる。


「お前の回した書類に目ぇ通したんだけどよ……なんだこれ。なんでFランクの冒険者三人をSランクの依頼に向かわせてんだお前」


「そ、それは……」


 怒られるかもしれないと思っていたが、本当に怒られた。

 ……だけど此処で引き下がる訳には行かない。

 何も自分は適当な判断で向かわせた訳ではない。

 自分は自分の判断で大丈夫だと判断したから向かわせた。

 ちゃんとした力のある人間は、それ相応の評価を受けたっていい筈だ。


「あ、あの三人は確かに駆け出しのFランク冒険者っす。でも分かるんすよ。あの三人、冒険者としては駆け出しなだけで、実力自体は間違いなくトップクラスの実力があるんすよ。それこそ今回の依頼も余裕で達成できる程の実力が」


「分かるって、見ただけでか」


「はい……分かるんすよそういうの」


「……」


(……信用されてないっすね)


 サングラス越しでも疑念の視線が丸わかりだ。

 見ただけで相手の実力がおおよそ判断できる人間は少ないだろうし、判断できる人間が居る事を知っている、理解できる人間もきっと少ない。

 故に理解されてない。


 そして部長は言う。


「まあ見ただけで分かるってのは信用できねえが……そうだな。それまでの人生で何をやっていたかに関わらず始めは皆Fランクだ。だから実質的に実力上位な奴が駆け出しって事は普通にある話だ。実際お前の言う通り、Sランクの依頼を熟せる連中という可能性も十分あるさ」


「だったら……」


「それでも規則は規則だろ。あんまり硬い事は言いたかねーんだが、基本就くだけなら誰にでも就けるガバガバな職業なんだ。理由がどうであれそういう所で簡単に特例通しちまったら、その一件だけは良くても全体を通して無茶苦茶な事になる。融通は利かねえかもしれねえが、融通が利かねえって事が全体のバランスって奴を保ってんだよ。特例って奴は色々な奴で協議してやっとの思いで初めて通せるもんだ」


「……す、すみません」


 普通に至極真っ当な説教をされて返す言葉が無かった。


(……倫理観の欠片の無いようなマフィアみたいな恰好してるのに……)


 だからそんな失礼な言葉は口にしなかった。

 失礼だし怖かったし。


「とりあえずこの件は、Sランクの冒険者に頭下げて様子見てきてもらう事にするわ」


「お、お手数かけるっす……マジすんません」


「反省してんならいいんだよ反省してんなら。少なくとも俺達の中ではな」


「……へ?」


 何やら不穏な言葉が聞こえてきて、思わずそんな声が漏れ出した。


「俺達の中ではってのは……」


「いや、こんな依頼通した時点で話は上にも回ってるだろうしな……この大問題が」


「……ッ!」


「ま、でもお前は履歴書に元聖女とか訳分からねえ事書いて来るアホだったりする奴ではあるが、無能じゃねえ事は皆分かってるし俺も分かってる。お前の見ただけで分かるってのも信用できねえが、それでも考え無しに通した訳じゃねえんだろうなって事も分かってるんだ。だから……やれる事はやってやる。済むといいな、精々謹慎位で」


「……そ、そうっすね」


 悪くてクビ。

 良くて謹慎。

 そのどう転んでも悪いか最悪な状況が重く圧し掛かってくる。


(せ、折角ちゃんとした仕事に就職できたのに! ちょっと前のそれっぽいっ事言ってた自分をぶん殴りたいっすよおおおおおおおおおおおおッ!)


「っと、話してるうちに来たなSランク冒険者のパーティーが。俺ちょっと頭下げて来るわ」


「ぼ、ボクも行くっすよ!」


 分かってる。

 あの三人が無事帰ってくる事は分かってるので、何の心配もしていない。

 だから心配するのは自分の立場と、そして。

 自分の所為で部長の首も飛んだりしないか。


 その心配だけである。

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