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24 聖女さん達、煙幕の中の乱戦

 そこから、お互いの戦いっぷりを賞賛しあったりという事は無かった。


「行くぞ」


「分かってるよ」


 攻撃が止んだ事を確認してからすぐに結界を消滅させ、私達は子供の反応がある方向に向けて走り出す。

 ……向うは多分こっちの位置情報を掴んでいる。

 つまり悠長にしていると、また新しい敵がやってきてその度に戦いになるだろうし、それを繰り返せば繰り返す程こちらの手の内は晒すし、相手に対策を取られるかもしれないという隙を作る事になる。


 だから、走った。

 そして気を失っている恐らく操られていた誰かの横を通り過ぎ、しばらく走って曲がり角を曲がった所で開かれた扉が視界に映る。

 その先に見えるのは……なんか大広間っぽい空間。

 そこで流石に立ち止まり、小声で言う。


「……で、此処はどうする?」


「どうせ敵がいるだろう。だったら倒していくしかあるまい」


 基本、私達レベルになれば敵の気配を感じ取ったりはできる。

 だけど露骨に敵が居てもおかしくないこの目の前の部屋からは、そういうのは感じられない。

 もしかしたら張り巡らされた魔術が、そういう感覚を鈍らせているのかもしれない。

 ……でも多分居る。

 まさかさっきので終わりって事は無いと思うしね。

 その辺は私もルカも共通認識みたいだった。


 ……さて、どうしたもんかな。

 対策はいくつか思いつくけど、何をするのが適切かな?


 そう考えていると、ルカの手にスティック状の結界が数本握られていた。

 ……あれだ。無茶苦茶光ったり煙幕とかになったりする奴。


「それどうするの?」


「煙幕を張ってから一気に叩く。コイツの煙は探知魔術や対象を指定した上でのホーミング効果を狂わせる事もできるからな。部屋に入った瞬間の迎撃もある程度の対策になる筈だ」


 なるほど。

 相手がこちらの位置掴めなくなってる間に一網打尽にする訳だ。

 うんうん……ってアホかな?


「いやちょっと待って私の視界も無くなるんだけど?」


「分かってる。だから――」


 そう言ってルカはプレート状の結界を作り出して、差し出してくる。


「これは?」


「俺の術式の煙幕の中で視界を保つ事のできる特殊仕様の結界だ」


「これ持って戦えって事?」


「いや、コイツの27番と143番のコードをそのまま強化魔術の伝達系の該当箇所にマニュアルで組み込み最適化しろ。どこかしらに間違いなく不具合が出るとは思うが、そこは微調整でなんとかしてくれ」


「……それ私じゃなきゃ組み込むだとか微調整云々の前に何言ってんのかさっぱり分かんないと思うんだけど。というかこんな急ぎのタイミングで言う?」


「お前なら分かるし20秒も掛からないだろう」


「舐めないでよ、五秒でできるしもうできた」


「流石だ。できる事ならもう敵には回したくないな」


 言いながらルカはスティック状の結界を部屋の中に放り投げる。

 そして次の瞬間、結界から勢いよく煙幕が発生する。

 だけど……視界良好だ。

 何も変わらず綺麗に見える。


「これで誰も居なかったらちょっと滑稽で笑えてくるよね」


「そういう笑いなら大歓迎だ」


 言いながら私達は大部屋の中に突入する。


 ……まあ残念だけど笑えない。

 煙幕も、それの自衛手段も役に立った。


「うへぇ……ちょっと多すぎない?」


 なんか五十人位居るんだけど……マジか。

 単純計算で行くと私が担当するのはその半分ってところかな。


 ……正直それだけの数を相手にするのはしんどいよ。

 魔物ならまだしも相手は人間。それも操られている可能性が高いとなれば、とてもじゃないが辺り一帯消し飛ばすような攻撃はできないから。


 ……というか煙幕が晴れるから風を使えない。


 ルカはそれを分かって煙幕を張っているのだろうか? それとも考慮してなかったのか。

 ……いや、きっと風を使わなくても削りきれると判断されたんだと思う。


 そしてそれは実際できると思う。

 少々しんどいけどね。


 ルカの煙幕は使われるとマジで視界を潰される。

 そして相手が使う、人間を操る魔術の仕様がどういうものかは分からないけれど、これだけの数をマニュアルで動かしている可能性は低い。

 多分目的に向けて一律で動かしていて、故に全て各々の感覚で動いている。


 つまり視界を潰せば、動きはほぼ完全に止められる。

 ……ほぼ一方的に殴り倒し続ける事ができる!


 一人、二人、三人四人。


 それぞれに効率よく流れるように拳を叩き込んでいく。

 たまに来る闇雲な反撃も全てかわし、意識を奪っていく。


 そしてまだ煙幕は晴れない。


 ルカの方も言いたくないけど私よりも早いペースで薙ぎ倒していっている。

 あの山で私よりも若干出力が低いのにも関わらず、こっちの攻撃を捌きまくってただけある。

 魔術の出力とかを度外視すると、戦闘技能は一枚上手を行かれているよ。

 ほんと……もう敵に回したくないなぁ。


 そんな風に、この部屋も楽に制圧できると思っていた時だった。


「……ッ!?」


 突然足元が黒く染まる。

 まるでどす黒い影でも生まれたように。

 ……分からない。何が起きているのか。

 それでも……嫌な予感はしたから、地に足を付けない為にその場で跳び上がった。


 次の瞬間、足元の影のような何かから勢いよく棘の様な物が私を串刺しにするような軌道で勢いよく生えてくる。


「うわッ!?」


 咄嗟に下方向に結界を展開。

 そのトゲを受け止める。


 ……ヒビは入らない。

 だけど明らかにさっきの通路の雑魚の攻撃よりも威力が強い。

 ……なんだ?

 この煙幕の中で誰が何をしているの?

 

 と、周囲を見渡すと……いた。

 視界を奪っている筈なのに目が合った。


 雑魚に隠れるようにして立つ、指輪を付けた男と。


「なるほど……来たね」


 脳裏にニット帽の男との会話が過ってくる。


『そんで二つ目。指輪持ちには気を付けた方が良い』


『指輪持ち?』


『ああ。原理は良く分からねえけどあの指輪を使って明らかに実力以上の魔術を使ってくる奴が居る。俺が負けたのも指輪持ちだし、他にそういう連中が何人も居るのを操られてから確認した』


 ……きっとアイツもその一人だ。

 この床も今の攻撃も全部アイツだ。


 ……本当に?


 視界の端に、別の男が見える。

 ……明らかにこちらの位置情報も周囲の雑魚の位置情報を理解した上で動いている奴がいる。

 二人……いや、三人。

 私が確認できただけで……私が担当している分だけでそれだけ。


 それを認識した瞬間、私を取り囲むように薄い板状の結界が出現。

 それらも影に飲まれるように一瞬で黒くなり……何をやろうとしているのかが分かって血の気が引いた。

 ……さっきの攻撃を至近距離四方八方から同時に撃つ気だ。

 ……いや、でも結界で凌げる。

 さっきは凌げた。

 あの威力なら強度を落として私の周囲全方向に結界を張っても凌ぎ切れる筈だ。


 ……本当にさっきの一撃が、ブラフではなく最大出力だったなら。


「ち……ッ!」


 ルカには悪いけど風を使わせてもらうよ。

 どうせヤバい奴らには何故か通用してないんだし……煙幕は此処まで。

 まずはこの瞬間の自分の身を守る事が先決!


 そして風属性の魔術を発動。

 かまいたちを発生させ、周囲に張られた黒い結界をズタズタに引き裂き一瞬で破壊する。

 ……できたけど薄さの割に中々の強度。

 黒くしたことで強度が上がっているのか……これが例の指輪で放たれた魔術の一種なのか……別の何かか。

 ……とにかく、強敵だ。

 その強敵が複数人居る。


 そして私の風魔術で煙幕が晴れた。


「ごめん!」


「構わん! 臨機応変に行くぞ!」


 そう言うルカの周囲にも……明らかに動きの違う奴が三人程。

 しかも全員指輪を付けている。


 ……確認できただけでこれで計6人。


 残った雑魚はこの際カウントから外すとしても……2対6。

 思った以上にしんどい戦いになりそうだよ。

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