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20 聖女さん達、一般人ではないポンコツと邂逅する

 目を覚ましたのは私が蹴り飛ばしたニット帽を被った私達と同年代程の男。

 一応警戒する私達に対し、目を覚ました私が蹴りを入れたニット帽の男は体を起こして言う。


「いやー良い蹴りだ。一撃で意識ぶっとんでたわ……マジで助かった」


 そう言って男は心底安堵するように深い息を吐く。

 ……攻撃されて。意識を飛ばされて。それで助かった。

 ……つまり。


「てことはやっぱり操られていた感じで正解みたいね」


「早急な答え合わせが出来て助かる」


「え、何? 結構釈明大変かなって思ったんだけど既に察してた感じか……まあ、此処に飛び込んでくるような奴らならその位出来てもおかしくないか」


 どこか納得したように男はそう言ってから、ゆっくりと立ち上がる。

 無茶苦茶フラフラだけど。


「……で、なんか聞きたい事あったりするか?」


「え?」


「え、じゃねえよ。多分だけどお前らは別に偶然此処に迷い込みましたって感じじゃねえだろ。明確に目的があって此処に来ていて、そして多分此処の連中の敵だ。だったら情報を持っているかもしれない俺に何か聞く事とかあるんじゃねえかなって思って」


「……えらくこの状況に順応しているな。お前、おそらくだかただの一般人ではないだろう」


「……確かに。普通の人ならもうちょっと違う反応しそう。ちょっと混乱気味だったりとか」


 にも関わらず、目の前の男は落ち着いて冷静にこの状況で最も適切だと思われる行動をしている。

 ……まず間違いなく一般人じゃない。

 まあ……昔の時点のしーちゃんも同じことができたから、なんかしーちゃんも普通じゃないって言ってるみたいで嫌だけど。

 ……いや、しーちゃん普通カテゴリに分類するのはなんか違う気がするよ。

 失礼なの承知で言うけど。


 ……ま、まさかとは思うけど、この一件にも巻き込まれたりしてないよね?


 ま、してないとは思うけど、うん。

 そういう事にしておこう。


 ……そんな事より、今の事に意識を向けよう。


 そして私達の言葉を受けて男は言う。


「いや、俺は一般人に毛が生えた程度だし……だからこうして操られる羽目になった訳で」


「でも一応一般人じゃないって感じだよね」


「あーまあそうなんだけど。確かにそうか……じゃあ俺は一般人じゃないって事で」


 そう言って少しドヤ顔を浮かべる男。

 なんだコイツ。


「で、まあ一般人じゃない俺はボスから良く言われてる訳だ。報告相談連絡、ホウレンソウはしっかりやれと。まずはそこからで良いからしっかりやっていこうと」


「急に一般人感出て来たね」


「一般企業の新入社員感が凄いな。しかも結構ポンコツな感じな」


「誰がポンコツじゃい! ……って言いたいけどまあ実際その通りだからこうして捕操られてた訳なんだよな。他の先輩方やボスだったらこんな事にはなってねえ。そんな訳でポンコツでーす。クソ雑魚でーす」


 なんか妙に高いテンションで自虐しだしたよ!


 それを目にして私は小声でルカに聞く。


「ねぇこれフォローした方が良いと思う?」


「知らん俺に聞くな」


 と、そんなやり取りをしている内に男は自然と立ち直ったようで、少し真面目な表情で言う。


「それでも。こんな無能な俺でもこの目で見てきた事を誰かに報告して連絡して相談する位ならできる。そんでお前らは味方だと俺は思うんだ。だから伝え相談するんだよ……目的は同じだろ多分俺達は」


 そして、男は目的を言う。


「お前らも誘拐された子供を助けようと思って行動している。違うか?」


 私達と同じ目的を。


「え、ちょっと待って……ただの誘拐犯じゃないのは薄々分かってたけど……やっぱこれ何人も誘拐されてる感じなの!?」


「その反応を見る感じお前達はさっきの奴の動きを探知して、現行犯を捕まえる感じで追ってきた訳だ……いるぞ。被害者は数十人単位だ」


「「……ッ!」」


 私とルカは息を呑む。

 だけど……その規模の大きさに納得は出来た。

 ……それだけ大掛かりな魔術が張り巡らされてる訳だからね。


「待て。それだけの規模で人攫いが起きてるなら、何故報道されていない。大事件だろうそんなのは」


「遅くても明日の朝刊の一面に載るんじゃねえか? 此処まで規模が大きくなればまず間違いなくそうなるだろ。いや、大規模じゃなくてもそうなる。俺らみてえな奴らが一日二日家に帰らないなんてのとは訳が違うんだ。子供が夜に帰ってこない。夜が明けても見つからないってだけでたった一人でも基本は大騒ぎだろ」


 それがそれだけの人数が誘拐されているのに、まだ大きな騒ぎになっていない。


「つまり……それだけ一気に大胆な事をやってるって訳だね」


「そういう事。まあ流石に今日一日だけでって事はねえだろうが、それでも昨日今日の話だと思う。だからまあ報道はされていなくても今頃憲兵達は大忙しって感じだと思うぜ?」


 ただ、と男は言う。


「多分憲兵達じゃ間に合わないとは思うし、果たして本当に無事朝刊が出回るかどうかも分からねえ状況なんだけどな」


「……どういう事?」


 少し考えても意味が分からなかったから、男に問いかける。


「誘拐された子供達が危ないのは分かるし、今調査中みたいな憲兵が間に合わないかもしれないってのは分かるよ。でも新聞が出回らないような状況って……」


「たとえば、ここら一体吹き飛ぶような事になったらそれどころじゃねえだろ」


「「……ッ!?」」


 ここら一体が……吹き飛ぶ?


「まああくまで可能性の話だ。俺はこの通り操っても大して力の出せない雑魚なもんで、同じ操られている連中の中でも言わば末端の個体。深い情報には触れられてねえ」


 だけど、と男は言う。


「ただの人身売買が目的の連中なら、もう少し大人しくやるだろ。明日には騒ぎが起きるのが確定で憲兵にも目を付けられるようなやり方は絶対にしない」


「確かに。ましてやこれだけの規模の魔術を張り巡らせてあるんだ。長期的な人身売買のビジネスを考えるなら、此処を使い潰すようなやり方は費用対効果が……」


 途中でルカの言葉が止まる。


「お、気付いたか?」


「え、何? どういう事?」


 私が問いかけるとルカは言う。


「俺達の敵は、これだけの規模の魔術を張り巡らせた拠点を、今日今回の一件だけで使い捨てるつもりで動いてる。つまりやっているのは、これだけの規模を使い捨てるに見合った大きな計画だ」


 そして、とルカは言う。


「人身売買以外で大勢の子供を一度に大勢攫う計画があるとすれば……その目的は魔術の生贄か」


「生贄……ッ!?」


「なるほど、俺と同じ読みだ。姉ちゃんの方はどう思う」


「……まあ、その可能性は十分にあると思うよ。寧ろ言われたらそうとしか思えなくなったよ」


 驚きながらも頷いて、思考を回す。

 子供数十人を集め生贄にして発動させる魔術。


 そういう類いの碌でもない術式は山のようにあって、その情報だけで特定するのは難しい。

 だけどそういう魔術は確かに存在していて。


 これだけの規模と精度の魔術を扱える魔術師なら、十分そういう魔術を運用できる。


 では、何をどういう目的で使用するのか。


 情報が少なくてどこまで行っても推測の域を出ないけど、一番可能性が高そうなのはコレだ。


「……じゃあ私達の敵はテロリストって感じかな?」


「まあその可能性が高いだろうな。それなら確かに新聞なんて配られるような状況ではなさそうだ」


 ルカも私の言葉に頷き、そして私は言う。


「で、仮に今の話が全部的外れだったとしても……やる事は変わらないし。とにかくさっさと潰しちゃおう」


 事のスケールの大きさが関係無いとは言わないけれど、それがどうであれ私達の敵である事に変わりはないから。


「同感だ。助けられる命は全部助ける。改めて気合入れていくぞ」


「うん!」


 私達は改めて気合を入れなおす。

 そんな私達に男は言う。


「此処に来たのがお前らで良かった。強いし物事の理解も早いし、何より正義感が強い善人だ。ほんと心強い。命を預けるには十分だ」


 そう言いながら男は立ち上がり、ニット帽の位置を調整しながら言う。


「子供達を助けに行こう」


「いや、俺が転移魔術で此処に倒れてる連中を外に出す。お前も一緒に出ろ」


「……は?」


 気合を入れた男に対しルカはそう言う。


「いや、頭数多い方が……それに俺が居ればある程度案内だって……」


「道中問題は山程あるだろうが、俺達はまだ誘拐された子供の反応を追える。頭数云々に関しては……まあ、その、なんだ……」


 とても言いにくそうにするルカだが、どうやら言いたいことは伝わったらしい。


「……まあ足手纏いって感じか。悪い、変な気を遣わせた」


 ……まあ確かに言いにくいけど、戦力に関してはこの人四人現れた雑魚の中の一人って感じだったし……まあ、それが妥当だと思う。

 だけどルカの言葉はそれだけでは終わらなかった


「……ただ一つ、お前に頼みたい事がある。かなり重要な事だ」

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