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17 聖女さん達、カチコミ

 王都の上空を飛んでしばらくして。


「……この辺かな」


 一先ずこの辺りで降りた方が良いという判断をした私は、高度を落として着地する。

 そして男も結界を足場にして地面へと降りてくる。


「大丈夫? 息とか上がってない?」


 私と違って結構な運動量だったと思うので一応聞いてみるけど、涼しい顔で男は言う。


「常日頃からトレーニングはやっている。この位なんてことは無い」


「ならいいや」


 だったら早く次の行動に移そう。


「で、この下だね」


「ああ。さっきみたいに浅い位置からの反応じゃない。もっと深く……恐らく地下施設の中を進んでいるな」


「……地下施設ね。じゃあそこがアジトって訳だ」

 

 そう言って私は掌に拳を打ち付ける。


「じゃあさっさとカチこもう。カチコミだカチコミ」


「当然だ。当然なんだが……もっと言い方は無いのか?」


「え? なんかおかしかった?」


「いや……なんでもない」


 男は軽くため息を吐く。

 えーっと、そんなにおかしい事言ってたかな私?


 ……まあどうでもいいや!


「さってと、じゃあとにかく地下に下りないと。えーっとどうする? これマンホールとか下りたら地下とか行けるんだっけ?」


「まあ行けるだろうが……下りた先が普通に通路になってるかなんてのは用途によって違ってくるだろ。それより確実な方法がある」


「というと?」


「俺の空間転移で内部まで飛ばす」


「なるほどほんと便利な魔術だね。今度私も勉強しよ」


 それ系統は習得してないけど、まあなんとかなるでしょ。


「じゃあよろしく」


「……一つ忠告しておくぞ」


 男は言う。


「空間転移はやろうと思えば相手を地面の中に生き埋めにする事だってできる術式だ。今後同じような事を提案してくる奴が居ても基本頷くなよ」


「えぇ……このタイミングでそれ言う? なんか怖くなってきたんだけど」


 ……まあでも。


「でもアンタはそういう事しないでしょ」


 私は一度コイツと戦っている。

 その事実は色々と事情を聞いた今でも変わらなくて、実際条件が揃えばまたそうなるんじゃないかと私は思っている。

 そのスタンスはきっと変わっていないんじゃないかなって思うよ。

 ……だけど、今はその時じゃない。


 今このタイミングでこの男が裏切る事は絶対に無い。


「……そうか」


 男はそう言ってどこか満更でもない表情を浮かべる。

 ……やっぱコイツ、基本的には普通の善人なんだ。


「じゃあ行くぞ」


「よしきた。あ、でも変な所触らないでよ?」


「触るか馬鹿。ほら、手を出せ」


「はい」


 そして私の手を男が取って……魔術が発動する。


「一応飛んだ先に敵が居るかとか罠があるかとかは分からない。警戒していけ」


「了解」


 そして次の瞬間、景色が移り変わる。

 つまり外の空間から地下のスペースへと移動したという事になる訳だけど……。


「うわぁ……何か分かんないけど、これ結構スケールの大きな事件に首突っ込んだ感じじゃないかな」


「どうやらそのようだな……でなければこうはならないだろう」


「……長居しちゃいけない空気に圧し潰されそうだよ」


「同感だ」


 変わったのは場所だけでなく、事情もって感じだった。


 私達が辿り着いたこの空間は、おおよそまともと呼べるような空間では無かった。


 私達が辿り着いたのは王都の地下に位置する地下水道といった感じの所……なのかどうかも分からない。

 いや、そうじゃない訳が無いんだけど……その筈なんだけど、確信が持てない。

 持てない位には、この空間そのものに大規模な魔術が張り巡らされていた。


 そして私は自然と壁に手を触れて、張り巡らされた魔術の解析を試みる。


「……ガードかった」


 時間を掛ければどういう魔術かを解析して、解除したり対抗策を打ち出したりもできるかもしれないけど、これだけガードが堅いと相当な時間を要する。

 ……そして。


「……これだけガード硬くて精巧な術式を大規模に展開できるってなると、相当な実力者が関わってるね」


「それに一日二日の仕事でも無いだろう。つまり俺達の相手は長期スパンで何かをやっている奴らという事になるな」


「何か……ね」


「もうただの誘拐犯とは言えないだろう」


「ごもっとも」


 言いながら壁から手を離す。

 万全を期するならこの空間に張られた魔術をしっかりと解析して、その上で援軍を呼ぶのが正解かもしれない。


 休日に危険な事に巻き込む訳で、本当に頭下げないと駄目な話だと思うんだけど……皆の助けを借りる。

 それが身の安全を考えれば最善。


 私とコイツが居れば大体の場合なんとかなりそうな気はするけども……逆に言えばコイツを始めとして短期間に同格と言って良いような人達と知り合い過ぎた事や、張り巡らされた術式の事も考えると、なんかまた必死にならないと勝てないかもしれない相手とか出て来るんじゃないかなって思っちゃうわけで。


 ……戦力は多いに越した事は無い。

 そういうトラブルに巻き込むのは本当にごめんだけど。


 ……とはいえ、それは自分達の身の安全を最優先に考える場合の話。

 誘拐された子供が、長々とした準備期間の間も無事でいてくれる場合のみ取れる選択の話。


「……まあどんな奴らが相手であれ、さっさとぶっ飛ばすしかないかな」


 流石に引けないよ。

 これで仲間を集めました。しっかりと準備する時間を確保してから敵を倒しました。

 娘さんは間に合いませんでした、なんてあの人の前で言えないし。

 ……言える訳が無い。


 そして男は言う。


「……一応最終確認をしておくぞ」


「なに?」


「中はこの有様。正直想定外ではある。敵の強さも規模も不明だが、まず間違いなく弱くない。引くなら今の内だぞ」


 多分普通に心配してくれてるんじゃないかって思う。

 ほんと忠告してきたり心配してきたり……コイツに数日前殺されそうになったとかもう意味が分からないよ。

 ……ほんと、悪人向いてなさすぎる。


「引ける訳無いでしょ……アンタは?」


「引ける訳無いだろう。子供の命も掛かっている上にそれ以上の何かがあるかもしれない訳だからな。尚更引けなくなった」


「ならこのまま先に進むって事で」


「ああ」


 そうして私達は子供の反応がする方に向かって走り出す。

 ……とにかく無事に事を終わらせよう。

 で、事を円滑に進める為にも。


「そうだ、アンタ名前は? 聞いてなかった」


 走りながら男にそんな事を聞いてみる。

 そういえばコイツの名前知らないままだったしね。

 名前も知らないと正直この先連携とかやりにくそうだし、聞けるうちに聞かないと。


「人に名前を聞くときはまず自分から名乗ったらどうだ?」


「逆に名乗ったら教えてくれるんだ。その辺の個人情報ってアンタ達的にバレたら都合悪いんじゃないの?」


「あまり大っぴらにはできんが、まあお前やお前の仲間にはこの際言っても良いだろうとは思うよ。それに言った所でお前らにはそれが本名か偽名かの判断が付かない訳だしな」


 ……なんか本名言いそうだよねコイツ。

 絶対律義に本名言うよ。

 間違いない。

 うっかりとかじゃなく、色々考えた末に本名言うよコイツなら。


「で、お前の名前は?」


 ……とりあえず先に私が名乗れってのはごもっともなんで、私が先に名乗っておこうかな。


「アンナ・ベルナール。好きに呼んで貰って良いよ」


「ではベルナールと……ベルナール!?」


「うわッ!? びっくりした……え、急にどうしたの?」


「あい、いや……丁度尊敬する学者の苗字と同じだったものでな。まさかその親類縁者と知り合ってしまったのではないかと思ってな」


 ……ああ、そういう事ね。


「ちなみにその学者の名前ってユアン・ベルナールって名前じゃない?」


 と、私の問いで色々と察したのかもしれない。


「……なるほど、お前の強さの理由が腑に落ちた」


 そう言ってから、一応聞くべきか迷うような間を置いた後、男は聞いて来る。


「一体どういうご関係だ?」


「親子」


「……なるほど、余計に腑に落ちた」


 と、一人で納得している男に対して一つだけ訂正しておきたかったから、これだけは言っておく。


「というか勝手に腑に落ちないでよ多分考えてる事と違うから。ほぼ独学だからね私の場合は。私の強さとアイツは関係無い」


「え、魔術の手ほどきを受けたとかそういう訳じゃ……」


 男の言葉が途中で止まる。

 私の声音とかから、色々と察してくれたように。


「……すまなかった」


「何が?」


「独り言だよ」


 そう言った後、一拍空けてから話の軌道を戻すように男は言う。


「……じゃあ次は俺の番か」


 そして男もようやく自己紹介。


「ルカ・スパーノ。俺も好きに呼んで貰って構わん」


「じゃあルカで」


 ……多分本名だろうなぁ。

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