10 聖女くん、再会
「それにしても普通に食材置いてあるのを見る感じ、アンナさん全くこの国出ていくつもり無いですよね」
「うん、全くない。私は私の家に愛着持ってるからね。余程の事が無いと引っ越す気は無いかな」
「追放って余程の事じゃないんですかね」
朝食は無茶苦茶シンプルにエッグトーストとサラダ。そしてコーヒーでシンプルに済ませる事にした。
あの馬鹿に追放って言われた後に普通に買い出ししておいた食材で。
……我ながら本当にいつも通りの朝だよ。
……さて、いつも通りの朝のルーティーンを終えた所で。
「よし、行こうシルヴィ」
「はい!」
パジャマから動きやすいラフな格好に着替えた私達は、再び転移の魔法陣で元の宿屋へ。
そしてチェックアウト。
「食事が出ない感じの宿に寝泊りするのって素泊まりって言うみたいですけど、寝泊りすらしてない場合ってなんて言うんですかね?」
「さぁ……いや、マジでなんて言うんだろ」
そんなどうでも良いやり取りをしながら、さりげなく寝具屋の場所と営業時間をチェックしつつ冒険者ギルドへと足取りを向けた。
そして冒険者ギルドが見えてきた所で、私達の視界に見覚えのある人物が目に入った。
「アンナさん、あの人……」
「あ、ステラだ。何してるんだろ、あんな所で」
冒険者ギルドの前に立っていたのは昨日知り合った私達と同じような境遇で追放されたボーイッシュ聖女のステラだ。
……こんな朝からあんな所で何やってるんだろ。
まあお店から結構近いし、この辺で見かけてもおかしくは無いんだけど……でもなんだろ。
なんとなく誰かを待っているような……そんな様子に見える。
そして向うも私達に気付いたのか、どこか安心したような表情を浮かべる。
……もしかして私達を待ってたのかな?
それは分からないけれど、無視するような間柄でもないからとりあえず声を掛ける事にした。
「おはよステラ。どうしたのこんなところ……で?」
そこで私は異変に気付いた。
そしてシルヴィもそれに気付いたらしく、ステラに問いかける。
「えーっと……ステラさん、なんでギルドカードを持ってるんですか?」
ステラの首からは駆け出しのFランク冒険者である事を示すギルドカードが下げられていた。
……あの話の流れから言って、冒険者になるという選択を取らないと思っていたステラにだ。
そしてシルヴィの問いに反応するように、ステラは言う。
「……実はこの件も含めて、二人に相談があるんだけど……いいかな?」
あまり良くない顔色で。
覇気の無い弱弱しい声で。
どこか助けを求めるように、そう言ってきた。
「相談……?」
「何か有ったんですか? いや、有ったんでしょうけど……」
「ああ、合ったんだ……まあ立ち話もなんだ。中に入ろう」
ステラに促されて、私達は冒険者ギルドの中へ。
そして空いているテーブルを探した後、着席。
「確か軽食とか飲み物位なら頼めるんだったよな。二人は何か頼みたい物とかある? 奢るよ」
「あ、いえ、大丈夫です」
「それより何が有ったか教えてよ」
「あーうん。そう……だな」
少し言いにくそうにしながらも、やがてゆっくりと語り出す。
「昨日二人が店を出た後の話なんだけどさ、ちょっとヤバそうな雰囲気の連中が店に来たんだ」
「ヤバそうな奴?」
「まーあれは堅気の人間じゃねえと思う。まあそういう奴らが店に来たんだ」
「来て暴れたの? それで報復するから力貸してくれって事かな?」
「まあ元聖女が三人も居ればその位は出来るかもしれませんけど……でもできるならもっと平和的な解決方法を探した方が……」
「あーいや、そんなんじゃない。ていうか連中全員ぶっ飛ばす位だったら俺一人で十分」
……うん、多分そんな気がする。
マフィアだとかそういう連中の所に単身カチコミをかけても無傷で出てきそうなイメージがある。
多分私もシルヴィもできるし……雰囲気的にステラは特に。
でもまあそんな荒事とは違うようで。
「まあ一言で話纏めるとな……店長と女将さんがさ、知人の連帯保証人になってたみたいなんだよ。なんというか、凄いお人好しだからさ、あの二人は」
「……は?」
正直想定していなかったベクトルの話をされて、思わずそんな間の抜けた声を出してしまった。
いや、だって……えぇ……。
なんというか……抱えた問題が現実的すぎない?
そして困惑する私とシルヴィにステラは続ける。
「それで、まあ……結構な額の借金を背負わされちゃったみたいで……その……このままだと二人の店が無くなるかもしれない」
だけど困惑しながらも、そこまでの話とステラが冒険者になっている事を考えると、一体ステラが何をしようとしているのかは理解できた。
「じゃあステラは……どうにかしてお金を稼ごうとしてるんだ」
「……まあ、そういう事になるな」
読み通りステラは頷いて言う。
「二人は私に何もしないでいいって言ってくれた。これは自分たちの問題で、危険な事はするなって心配もしてくれた。だけどさ……まだ出会ってそれ程長い時間を共有した訳じゃないけどさ、右も左も分からなかった俺は確かにあの二人に救われたんだ。俺はあの二人の事が大好きなんだ。なんとかしてやりたい……そう、思って此処に来た」
……それを聞いて、多分ステラは色々と損をする事が多そうな人間だなと思った。
きっと店長さん達の言う通り、ステラは何もしなくてもいいと思うんだ。
確かにステラは大きな恩を感じているのかもしれないけれど、色々と問題の規模が釣り合っていないような気もするし、そういう問題はあまり間に入って抱え込まない方がいいと思う。
ステラが働いているお店の店長さん達がそうだったように、そういう行動はきっと自分の身を亡ぼすと思うから。
だけど……そんな一般論は結局の所、当人達にとってはノイズでしかなくて。
そもそもそんな一般論は何も知らない外野だから言える事で。
ステラが何とかしようと思うに至った感情や、思わせるに至った店長さん達の優しさを否定するような事は言いたくなかった。
言うべきなのはもっと別の事。
「それでも、一人じゃまともに稼げる依頼が何も無かった……って所かな」
「……ああ。それに俺みたいな駆け出しじゃ他の冒険者は誰も相手にしてくれねえ」
私の読みに再びステラは頷く。
これで読めた。
ステラが私とシルヴィに何を頼みたいのか。
「つまりアレだね。ステラは私達とパーティーを組みたいって事なのかな?」
きっとこれで正解だ。
駆け出しが三人揃ってもあまり大きな変化は無いかもしれない。
だけどそれでも一人と比較すれば状況が著しく好転する事には違いない。
そしてそれは大正解だ。
「頼む……俺とパーティーを組んで、難易度と報酬の高い依頼を一緒に受けてくれないか?」
ステラのそんな頼み。
それを受けるか否かなんてのは考える必要など何処にもなくて。
「いいよ。組もうかパーティー」
私は二つ返事でそう答えた。
「い、いいのか!?」
「逆に駄目な理由が見つからないかな」
ああそうだ。
別に悩む必要なんてない。
「私は同じような境遇で奇跡的に知り合ったステラの事、勝手に友達だと思ってたからさ。理由なんてそれで充分じゃない?」
そう、それで十分なんだ。
見ず知らずの誰かの為に頑張る気力は中々湧いてこない。
あの馬鹿の所為でそういう気は失せた。
だけど仲良くしていきたい誰かの為だったら結構色々な事を頑張れると思う。
それにそもそもこの程度、私達なら頑張らなくてもどうにかなる筈だしね。
「……アンナ」
そこにシルヴィも軽く手を上げた。
「あ、わ、私も! 私もアンナさんと同じで。大歓迎です!」
「シルヴィまで……」
そしてステラは泣きそうな表情を浮かべる……そして笑みを浮かべて言う。
「……ありがとう。本当に俺は、人との出会いに恵まれてるな」
「大袈裟じゃない?」
「そうですよ」
「大袈裟なんかじゃねえよ……ほんと、恵まれてる」
そう言った後、ステラはこちらに手を差し出してくる。
「じゃあこれから……よろしくな、二人共」
「うん」
「はい!」
そして私達は三人で握手を交わす。
こうして私達のパーティーは三人になったのだった。
それはそれとして、友達だと思ってるって言った時、何言ってんだコイツみたいな顔されなくて本当に良かった。
正直なんか不安だったからマジで良かった……。
……っていうか冷静に考えて私結構恥ずかしい事言ってないかな?
言ってた気がする。
でもまあほんと、結果的に色々な事が良い方向に転がってくれて良かったと思うよ。
私達的にも二人より三人の方が良かったと思うし。
私達も私達に見合った依頼を受けたかったわけで、これで少しでも受けやすくなったわけで、良いことしかない。
そもそもwin-winな感じの相談だったんだよね。
それに昨日のお店無茶苦茶美味しかったから無くなってほしくなかったし……うん。
まあ、そんな打算的な話は二の次なんだけどさ。
……とにかく、しばらくはこの三人で頑張っていけたらなって思う。
……うん、恵まれてる。
まだ二日目。
色々あってまだ二日目でこうして気の許せる仲間が二人も出来たっていうのは、本当に人との出会いに恵まれてるって思うよ。




