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宣誓  作者: とても白いペンギン
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京花3

 兄は毎日平日遅くまで帰ってこなくなった。兄は中学と同じく高校でもテニス部に入ったが、数ヶ月で辞めていた。メールをしても返信がないらしく、本当に夜が遅くなると母は兄を探し回った。(遅いと言っても22~23時頃だったと記憶している)高校生男子くらい放っておけばいいのにと内心思っていたが、必死な母の前では何も言えなかった。後で聞いた話だが、この頃兄のことを父に相談した母が「俺にどうしろと言うんだ」と言われ、心底父に失望し、完全に夫婦仲に亀裂が入ったらしい。

 やがて兄は高校三年生、私は中学三年生となったが、ここで兄が大学に進学しない意思表示をしたことで盛大に母と揉めることになった。絶対に大学に進学させたい母とゲームの専門学校に行くと言い張る兄の抗争は毎日繰り広げられた。抗争と言っても基本的には一方的に母が大学に進学するよう説得するだけで、兄はそれを聞き流すだけだった。(気弱な兄は陰で母の悪口を言っていたが)しかしその抗争中に母はついに泣き出してしまい、兄も私もさすがにぎょっとした。親泣かせと言うとなんだかすごく悪いことのような気がするが、第三者の私からすれば「そんなことで泣く?」というのが正直な感想だった。きっと兄も思っていただろう。

 兄はバイトでお金を貯めて、専門学校から卒業・就職と同時に家を出ていった。相変わらずメールの返信がない兄に母はそれでもメールを送ったり勝手に引っ越し先まで押し掛けたりしている。母にはメールの返信がない理由も、兄が引っ越し先を知らせずに引っ越したり携帯を変えてる理由も検討がつかないのだろうか。そして何故か新しい連絡先も引っ越し先も母はいつの間にか知っていた。

 今でも思う。もしも兄がいなかったら、私はどうなっていたのだろうと。父も母も、良い意味でも悪い意味でも昭和の人間だったから、長男への思い入れがすごかった反面、私に対しては少し適当な感じだった。(もっとも私が無意識にこれ以上波風を立てないように大人しくしていたのもあるが)だからこそ今の私がある。兄は可哀想だった。そのおかげで私はまだ『マシ』だったから。

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